第十三章 守田 美紗 その三
「……よろしく。」
探偵の中村さんが入ってきた後でもう一人箱の持ち主がやってきたの。
彼は筑波先輩、私と同じ高校に通っている一つ上の先輩みたい!
そう言えば学校の帰りに見かけたことがある気がするの。
私は私と同じ学生がいたんだって少し安心したのと同時にこの人があけみちゃんを殺したんじゃないかって疑ってしまう……。
私達は今日、殺人鬼に会うかもしれない。
私が手紙を送って、それに中村さんっていう優しそうな探偵さんが賛成してくれたお陰でここに集りを開くことが出来たの。
でもきっと私達の手紙はあけみちゃんをあんなにした人も見ているはずなの!
勿論犯人がこんな人の集まるところに来るとは思えない、それを考えてこの人気の多い喫茶店を集合場所にしたもの。
犯人の人以外の六人で集まって……、私達に何が出来るかはまだわからないけど犯人を見つけるきっかけをつくるの!
探偵の中村さんもいるしなんとかなるはず!!
でももし……、ピエロさんの言っていた通り箱を持っているのが七人で箱を持っている七人が全員この場所に集まったら……。
その時はこの中に必ず犯人がいるってことになるの。
それはとっても怖いことだけど私の目的のためにも怯えずに、立ち向かわなきゃ!!
そんなことを考えながら周りを見回す。
人を見た目で判断しちゃいけないって言うけど筑波先輩はあんまりしゃべってくれないし見た目からもちょっと怖いかな。
先に入ってきた中村さんは肌が私より色白で、イケメンって訳ではないけど探偵って感じの威厳があるの。
本物の探偵さんに会うのは初めてだけどなんて言うか……、修羅場を潜ってる感じがするの!!
だから中村さんがいてくれてちょっとだけ安心出来るかな!
安心出来ると言えば二番目に来てくれた光本さんはいつも箱の中にご飯を入れてくれた優しい人なの、早く来てくれて私の話も聞いてくれたしこの人は犯人じゃないと思う!
「早くみんな集まらないかしら……、幸太を迎えに行く時間までには帰りたいのだけど。」
光本さんはお子さんがいるみたいで今回の箱の件があって一層心配になってるみたい。
……当然よね、私も今とっても怖いもん。
とにかくみんなの素性を知って早く協力出来るようにしなきゃ!!
「しっつれいしまーす!!」
私達のいる部屋に新しい人がやってくる。
「皆さんが箱の会のメンバーですか-!?あえて光栄です!!」
なんだかとっても元気のいいお姉さんだ。長い髪は綺麗にまとめてあるけど上着がジャージ姿で独特のセンスを感じるなんだか明るい人だな!
「これはこれは、私が二枚目の手紙を出しました中村です。どうぞよろしく。」
中村さんが挨拶をする、私も負けて入られない!
「私は守田美紗です!よろしくお願いします!!」
「あーどーもどーも!!よろしくおねがいしますー。」
元気なお姉さんは私達二人にそれぞれ握手をしてくれた。
ちょっと強引だけど丁寧な人だ。
「早速だけど皆さんの写真撮っていいかな!事件解決にむけて景気付けに!!」
お姉さんはカメラを取り出してこの部屋の全体像を写真に撮ろうと構えてる。
ニコニコしながらいやがおうでも撮ろうとしてる。
やっぱりちょっとこの人も怖いかも……。
「……あんた、先に名乗ったらどうなんだ?」
筑波先輩が目を尖らせながらお姉さんをみる。やっぱりこの先輩は怖い。
けど不思議と私達のことを気遣って言ってくれてる気がしたの。
なんでそう感じたかはわかんないけど、なんとなくそう思ったの。
「これは失礼!私は船頭渡!この間まではちょっとだけ売れていた漫画家さ!港町碇と言えば知ってる人もいるかな?」
港町碇!?
去年映画になった漫画の作者じゃん!!
私も友達の黒崎ちゃんに進められて読んだことがある!!
漫画の内容がちょっと過激で怖かったから印象に残っているの。
「……もしかして黒いライオンの人ですか!!」
思わぬところで有名人に会ってしまって私は舞い上がった!
名前からして男の人だと思ってたけど女の人だったんだ!!
「ええそうよ!」
港町さんは笑顔で答えてくれた。
「これはこれは、漫画家さんでしたか。原作は読ませていただきました。」
中村さんも知ってるみたい!やっぱりすごい人なんだな!!
「これはどうも!あなたは探偵さんでしたっけ?」
港町さんはニコニコ顔で話してくれる、最初はちょっと疑っちゃったけどいい人みたい。
「ええ、そうです。」
「私ー、今回の事件があって舞い上がってるんですよねー!」
「……といいますと?」
「私の作品の題材にピッタリな事件だったもので!是非是非しっかり取材したいなって!」
……やっぱりなんだかこのお姉さんは不気味だ。
「……あなた、小さな子供が死んでるんですよ!不謹慎じゃないんですか!!」
光本さんが怪訝な顔をして抗議する。
「いいねお姉さん!その顔!!今すぐ描きのこしちゃいたい!!」
そう言うと港町さんは鞄からノートとペンを取り出しその場で絵を書き始める。
港町さんの突然の行動にその場の空気が凍る。
ニコニコ顔でペンを握る彼女は私達に目もくれていないようだった。
「ふふ!いいわいいわ!!どんどんかける!!」
……なんだかわからないけどこの人は危ない感じがする。
「お、可愛い嬢ちゃんが一杯おるじゃないか!来てよかったわい!」
「……す、すみません遅くなりました。」
私達が港町さんの様子に唖然としていると新しく二人、男の人が入ってくる。
その様子に気付いた中村さんが口を切るの。
「……これで七人ですね。」
心臓の鼓動が早くなる。
このお店には沢山のお客さんがいて、それぞれの話し声が聞こえてくる。
そのはずなのに港町さんがノートに書き殴る筆音だけが部屋を埋めている。
もしかしたらと思ってはいたけど、わかってはいたけど……。
この中に……殺人鬼がいるかもしれない。