第十二章 大歳 利樹 その三
「筑波、私の入った五分後に店に入るのだぞ。」
「……なんでそんなまどろっこしい真似しなきゃいけないんすか?」
「今回殺人鬼を追うにあたって情報戦になる。出来れば我々が繋がってるとは思われたくないのだ。」
「……わかりました先輩。」
筑波はこういうときは私の指示を素直に聞いてくれる、本当によい後輩だ。
さて、私が何故こんな喫茶店に来てるのかと言うと私達の元に例の箱を通じて死体が送りつけられて来たからだぞ。
私も本物の人の死体、さらに言うならバラバラの肉塊など見たことはなく最初は心底驚いた。
この箱について調べる過程でオカルトサイト等を散見しておりグロテスクな画像等には耐性が出来たと自負していたが実物となるとやはり話が違う、いい経験になったぞ。
さらに話すならその死体の一部、ばらされた左足が箱から移動しなくなった。
これは恐らく私の発見した箱の特性「箱に一度入れたものは同じ箱に戻ってこない」という作用によりワープが止まってしまったのだろう。
筑波も内臓を持っていたので他の箱の持ち主の元にも死体は残っているのだろう。
私はその死体の一部、筑波の持っていた内臓を含めて貴重な資料として冷蔵庫で保存しているがあまり気分のいいものではない。
早いうちに処分したいところだ。
しかしこれを処分せずとっているのには理由がある。
死体を集める趣味はないがこれは大事な資料になるのだぞ。
さて話が脱線していたが今回この喫茶店に来たのは箱の持ち主の一人、恐らく守田美紗がこの場所に集まるように手紙を送ってきたからだぞ。
この呼びかけはとてもよい、とてもよいチャンスなのだぞ。
筑波は殺人鬼を探すことに関心を抱いているが私にとってこの機会は別の意味合いを持っているのだぞ。
それはこの奇妙な箱を全て回収するチャンスということだぞ!!
最初は筑波に空き巣に入ってもらう予定だったが今回の事件のおかけで手間が省けたぞ。
恐らく今回の事件をうけてこの箱を手放したいというものも多いだろう。
だからこそ私がうまく言いくるめ全ての箱を手にするチャンスなのだぞ。
しかし今箱を回収すると言うことは殺人事件の濡れ衣を被る可能性があると言うことでもあるのだ。
ならば私のするべきことは一つ。私の目的のために、私がとるべき行動は単純明快なのだぞ。
私は店の戸を開ける。喫茶店「チクタクマン」の内部は若者受けしそうなおしゃれな内装であった。
「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」
なかなかいい声の店員さんがやってくる。しかし峰子先生程ではないな。
「箱の会で予約していた中村だ。今日の二時で予約しておいたのだが?」
私は店員に訊ねる。名乗った名前は勿論偽名だ。
「中村様ですね、奥の個室へご案内します。」
店員は私を店の奥にある個室へと案内する。
今回の集まりを提案してきたのは恐らく守田美紗であるが、彼女の手紙には不備があった。
それは時間と場所の指定こそしてあるが集まったところで我々は顔見知りではないということだぞ。
勿論俺と筑波は秘密裏に調査をしているので他の箱の持ち主が誰なのか把握しているがこれでは集まったところで話が進まない。
そこで私は二つ手を打っておいたぞ。
一つは箱の会という架空の団体での店の予約、そしてもう一つは二つ目の手紙だ。
彼女の手紙を受け取った後、私はそれと別に手紙を作成しそれを箱の中にいれた。
勿論私は手書きではなく印刷したぞ。
その手紙に中村という名前で箱の会という架空の団体で予約をしたこと、それともう一つ仕掛けを施したのだぞ。それについては後述するぞ。
私が部屋に入るとそこには上座の壁から伸びたテーブルと六人分の席があり、下座側に一つだけ違う席が設けてある。恐らく七人の団体などそんなにいないのだろう。
そして私が部屋に来る前から二人の女性が席に座っていた。
守田美紗と光本歌蓮だ、二人とも筑波の撮った写真で誰か把握している。
私が部屋に入る前から少し話をしていたようだが私が部屋に来たことに気付くと話をやめて私の方を見る。
まずは挨拶だ、商売において第一印象は大事だぞ。
「おやおや、お二人ともお早いおつきですね。私は二枚目の手紙をお送りしました中村葉月と申します。」
「あなたが中村さんですか!私は守田美紗っていいます!よろしくお願いします!」
ふむ、筑波の報告通り元気のいい娘だ。
彼女の前には既にからになったパフェの器が三つ並んでいる。
相当前から来店していたようだ。
「よろしくお願いします中村さん、私は光本といいます。」
向かいの席に座る光本歌蓮は筑波の集めた情報と異なり感じのいい女性であった。
人妻ということも会って妙な落ち着きがある。
「中村さんの手紙のおかげで助かりました!最初に私も手紙を書いてたんですけど抜けてるとこばっかりで……。」
そう言って頭をかく守田美紗、最初に集まりを呼びかけただけあって肝が据わっているぞ。
「なんてことありませんよ、お力になれて結構です。」
私も余裕を持って対応する。仕事柄人と直接話すことは少ないが電話での礼節は最低限弁えていてよかったぞ、電話する相手は大概おっかない連中だからな。
「ところで中村さん、質問していいですか?」
「何ですか守田さん?」
守田美紗は随分と積極的だ、余程この事件に関心があるのだろう。
そういう意味では筑波と同じような熱意を感じる。
「中村さんって本当に探偵さんなんですか!?」
その質問に私は笑みを含めて返答する。
「ええ、勿論です。私がこの事件を解決して見せましょう!」
私は手紙に自分が探偵職をしているとし、この事件の解決のため警察への届け出の前に皆さんの話を聞きたいという旨を記載した。
勿論私は探偵などではない、私の仕事は夢を売ることだ。
しかし今回箱を集めるにあたり今回の事件を解明し犯人を上手く処理した上で箱を集める必要がある。
なら話は簡単だ、私は私に出来るだけの仕事を最大限するぞ、守田美紗よ。
お代は勿論お前達の持つ箱、それを頂くぞ。
私は自分に出来る仕事だけを最大限にするのだぞ、当然対価は頂くぞ!!