第十一章 筑波 善財 その三
怒りだ、今俺の中にあるのは確かな怒りだ。
この俺、筑波善財には確かにその感情があった。
この箱に入っていた肉片がどこのどいつのものかは知らねぇが俺の中には怒りがあった。
あの糞野郎に初めて会った時の様な明確な殺意が俺の中にあった。
俺は許せない、俺の存在を脅かす恐怖を、俺には微塵にも許せねぇ。
俺の恐怖の根源は俺自身の手でぶっ殺す!
そうでなくっちゃ安心できねぇ。
いつも通りでいられねぇ。
一つだけ直感的にわかることはこの箱にこの肉片を詰めたやつはあの糞野郎じゃぁねぇってことだ。
あいつはこんな誰かに存在がばれるような真似はしない。
もっと狡猾に殺すはずだ!
去年俺は血眼になってやつを探したんだ。
あいつがこんな真似をしないことぐらいわかってるんだ。
つまり今回俺が殺すべき相手はあいつじゃねぇんだ。
この箱に関わる誰かだ。
誰かはわからねえがこんなものを送りつけてきたからには相応の報いを受けてもらうぜ!
***
「ふむ、まさかこの喫茶店に来ることになるとはな、思ってもなかったぞ。」
俺の隣には大歳先輩がいる。
珍しくこの人は自分の家からでてこの喫茶店「チクタクマン」の前に来ている。
この店はブリリアントパフェとかいう馬鹿みたいにデカいパフェが有名だとか宇多田が言ってたな。
俺には縁もねえ場所だったが今回は話が違う。
箱の中に肉片が送り込まれた週の週末、俺達はこの店に来ていた。
ここに来た理由は箱の中に手紙が入っていたからだ。
内容はこうだ。
私は箱の持ち主の一人です。
この手紙が届く前にバラバラになった、…女の子がはいっていたと思います。
私はその子を知っています。
とてもかわいくていい子でした。
きっとこの箱を持っている誰かがその子を傷つけたんだと思います。
この中に殺人鬼がいます!
みんなでみつけましょう!!
今週の土曜日、14時に喫茶チクタクマンに集まりましょう。
殺人鬼を見つけましょう!!
筆跡からみて守田美紗のものであると考えられる。
俺は大歳先輩に頼まれて調べていたからわかる。
こいつだけは同じ学校の学生だったから調べやすかった。
他の連中についてはまだまだ調べたりねえがこいつはこんな手紙を大量に、少なくとも俺の元に五通、大歳先輩の元に七通送っている。
全て手書きでだ、しかも所々文字が滲んでいる。
こいつは使える。
この手紙は恐らく箱の持ち主全員に行き渡っただろう。
こんなに沢山入ってたんだ、大歳先輩のいう様に箱の中のものがランダムに移動しているとしても数の暴力で全員が目にするだろう。
そして恐らく手紙の前に入っていたらしいバラバラの死体、あれもこの箱を持つやつは目撃しただろう。
俺の箱には最初に左手と両足が届いて、最後によくわからねえ内蔵みたいなのが入ってやがった。
最初にそれを見たときはびびって箱を閉めちまったが最後の内蔵だけは箱を閉じても移動しなかった。
大歳先輩の言ってた様になんらかの規則性があるってことか。
大歳先輩も同じように箱を開けたり閉めたりしているうちに最後には左足が残ったらしい。
さらに言うなら先輩が見たときは頭も入っていたみたいだ。
俺が箱を開けたときにはなかったが箱の持ち主の誰かが持ち出した可能性がある。
とにかく普通この箱に訳のわからない死体が入ってたら一端箱を閉じる、それが普通の反応だ。
箱を閉じれば中身は別の誰かの元に行く。
臭いものには蓋ってやつだ。
だが何らかの箱の規則で箱から死体が動かなくなると話は違ってくる。
死体が箱に残るのならその持ち主はそれを処分しなきゃいけねぇからだ。
確かにこの箱に収まるサイズだからゴミに突っ込めばなんとかなりそうだが、万が一誰かにばれたらそいつが殺人鬼として疑われることになる。
勿論箱を一切開けてないやつがいる可能性もある、けどとりあえずは死体をみてあの女の出した手紙をみたやつはこの場所に集まるだろう。
自分に疑いの目が向かないようにするためにも犯人でないやつらで集まって犯人を見つけなくっちゃいけない訳だ。
逆に言うならこの場に現れないやつは犯人として怪しくなってくる。
勿論姿を現さなければ正体もばれないのだから賢い選択ではある。
しかし俺と大歳先輩は箱の所有者の所在を把握している。
だから少なくとも俺達はすぐに犯人にたどり着けるわけだ。
結果として犯人を追う俺にとってこの手紙での呼びかけは好都合だ。
大歳先輩がどういうつもりで来たか知らねえが胸くそ悪い殺人鬼は俺が殺す!!