第十章 守田 美紗 その二
「さーて!今日は何が入っているのかな?」
私がこの黒い箱を手に入れて二週間くらいがたった。
この箱には色んなものが入っていたの。
この前はかわいい熊のぬいぐるみが入っていたから私の机の上に飾っているの!
でも私が待ち構えているのはおいしいご飯だ。
夕方のこの時間になると結構な頻度で誰かの作った手料理が入っているの!
最初は警戒していたけど食べてみると結構美味しくて今ではこの時間が一つの楽しみになっているの!
私が目の前の黒い箱を開けると美味しそうな匂いがこみ上げてくる。
今日はシチューが紙皿に入っていた!
まだ作りたてで暖かい!!
「ふふ!今日も美味しそう!!」
私はそのシチューを取り出し頬張る。
さっき夕飯は食べたけどこんな美味しそうなものは別腹なの!
実際シチューは出来たてでクリーミーで野菜もとろとろでとっても美味しかったの!
私は嬉しくなってお手紙を書く。
「今日も美味しかったです!!っと!」
私はそれを書き終えるとその手紙を箱に入れて箱を閉じる。
再び箱を開けると中にあった手紙はなくなっている。
「今日も届くといいな!」
私はこの文通を楽しんでいる。
昔お母さんが子供だった頃はお手紙を書くのは普通だったんだろうけど電話もメールもスマホで簡単に出来る現代において手紙を書くのは小学生以来だ。
この箱を誰が持っているか、何人の人が持っているかはわからないけどご飯やぬいぐるみ、かわいいイラストがはいってるんだからきっといい人が持っているの!
時々ゴミも入っているけどこうやって手紙を出すと時々返事が返ってくるの。
私が再び箱を開けると先程とは別の紙が入っている。
その紙にはこう書かれていたの。
「ありがとう!!」
ふふ、今日はちゃんと届いたみたい!
私はなんだか嬉しくなる。
たまに別の人が書いた文字でごちそうさまって書かれた紙が出てくるから今日はちゃんと食べられてハッピーなの!
この不思議な箱についてお父さんとお母さん、お兄ちゃんにも、クラスの友達にも話していない。
なんだかファンタジーなこの箱はみんなには秘密なの!
とにかく私はこの秘密の文通を楽しんでいたの。
***
あれから三日たった。
私は学校から帰って自分の部屋に入る。
今日もいつも通り箱を開けるためだ。
この時間はお父さんもお母さんも仕事で帰っていない。
お兄ちゃんもバイトで帰りは遅いから今家にいるのは私だけだ。
箱のことは内緒にしているから都合はいいの!
その日もいつも通り私は箱に手をかける。
黒い箱は見る限りいつも通りだったの。
「今日は何がはいってるかなー?」
私は何気なく箱に手を当てる。
いつも通り蓋を開けたの。
その瞬間までは今日はいつも通りの一日だったの。
なにも特別なことはない、いつも通りの一日だったの。
私が蓋を開けるといつもの美味しい匂いの代わりに強い鉄の様な匂いがする。
私は最初にそれをみた時、それが何かわからなかった。
赤色の中に肌色の何かが見えた。
私にはこの状況が理解出来なかった。
赤色のそれは血のような匂いがした。
何が入っているのかわからなかった。
「……え?」
私の頭は何も理解出来ていなかった。
それがなんなのかわからなかった。
困惑する頭の中で私は反射的に蓋を閉じた。
蓋を閉じても先程の鉄の匂いが部屋に残っていた。
「……え?」
私は理解出来ていなかった。
先程箱に入っていたものが何かわかっていなかった。
息が苦しい。
……何でだろう?
私は少し興奮しているようだった。
あの箱に入っていたのは手羽先みたいだった。
「……えぇ?」
事態を飲み込めていなかった。
鳥肌がたってる。
お腹は空いている。
私は美味しいご飯を期待して箱を開けたの。
でも今私が見たものは少なくともご飯ではなかった。
それ以上のことを考える前に私の手はもう一度箱の蓋をあけた。
血の匂いは一層強くなる。
さっき入っていたのと同じように赤色の中に肌色の何かがあった。
「……え?」
二度それを目撃した私はようやくそれが折りたたんだ人の足だと気付いた。
この箱に入るような小さな子供の足だ。
所々血で赤いが可愛らしい足だ。
私はそう思った。
「……え?」
私はもう一度蓋を閉じた。
血の匂いは相変わらず私の鼻に残っていた。
何も考えることなく私は三度目の開封を行う。
やはり箱の中は赤く、今度は何かわからない肉塊が入っていた。
ホルモンみたいで美味しそうだった。
「……あれ?」
私の口から変な声が漏れる。
箱を持つ私の手は震えていた。
嫌な匂いが部屋中に広がるのに不思議と吐き気はしなかった。
もう一度箱を閉じる。
「……なんなの?」
不思議と悲鳴はでなかった。
私は何も入っていないことを期待してもう一度蓋を開ける。
次にはいっていたのは茶色の毛に包まれた肌色の何かだった。
私はそれを知っていた。
その毛に包まれたそれと、私は面識があった。
「……あ、あぁぁ。」
私の頬に急に冷や汗が垂れる。
「……あけみちゃん?」
私はわかってしまった。
それの目は閉じていたが私はわかってしまった。
先程まで入っていたものがなんだったのか。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は思わず蓋を閉じて箱を落とす。
ゴトンっと鈍い音がすると箱の蓋が開く。
箱の中から今度は小さな手が現れる。
「あああああああぁぁぁ!!」
私は急いで蓋を閉しめた。
蓋を閉じさえすれば中身はなくなるはずなの!!
私は今度こそ何も入っていないことを期待してもう一度蓋を開ける。
再びあげるとそこにはまた手が入っていた。
あの日私達に元気よく手を振ってくれた彼女の健気な手が入っていた。
「……あけみちゃん。」
私は今まで取り出さなかったそれを取り出してしまった。
あの日握ったその手は冷たかった。
その手を握り私はこれが夢でないことを理解した。
理解してしまった。
今まで入っていたものが全て、かつて彼女のものであったことに私は気付いてしまった。
そしてそれが偽物ではなく本物であることを握った手の冷たさから気付いてしまった。
「……ふ、ふふ!」
変な笑いがでた。
握った手の端から一滴、赤い滴が床に垂れた。
***
ある程度時間を空けてから私は自分自身驚くほどに落ち着いていた。
箱のことは家族の誰にも言ってない。
警察に事情を言うべきだけど、そうなると私自身わかっていないこの箱のことを説明しないといけないしそれじゃ私が納得出来ないの。
誰かがこの箱を持っていて、誰かがあけみちゃんを箱に詰めたことはわかってるの。
だから私が見つけるの。
優しい人が持っているはずのこの箱を持ってる悪い人を、私があぶりだすの。
私は沢山手紙を用意した。
そこには私のお気に入りの喫茶店の場所と集合時間、そして私のメッセージが書いてある。
「この中に殺人鬼がいます!みんなでみつけましょう!!」