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ふぁ~~あ。よく寝たのよ。
………あれ?おねえちゃんいないよ?いっしょにおひるねしてたよ。おねんねしてたよ。
それに、ここおうちじゃないよ。おへやじゃないし、おみせでも、びょーいんでもないよ?おばあちゃんちでもないよ?
なんで?おねえちゃんどこ?どこおねえちゃん!
「おや、珍しいお客さんだ。君は痛っ!?」
おねえちゃんじゃない。おねえちゃんどこ?おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃん!
「見た目によらず噛むの強いね君。……そんなにおねえちゃんが好き?」
だいすき!おねえちゃんだいすきよー。
でもね、ずっといっしょがもっとうれしいの。
「そうなのかい?」
おねえちゃんとおんなじごはんたべたい。よるもおねえちゃんとおねんねしたい。おねえちゃんといっしょがいいのよー。でも、おねえちゃんと“違う”からだめなのよー。
「ふーん。それじゃ、僕がおねえちゃんとお揃いにしてあげよう」
おねえちゃんとおそろい?
「一緒ってこと。君はおねえちゃんとお揃い。おねえちゃんは君とお揃い。どう?」
おそろい!おそろい!おねえちゃんといっしょ!
「良いみたいだね。他にもオプションつけたけど、それはおねえちゃんがわかると思うよ。それじゃあ、あっちにおねえちゃんが居るから行っといで」
おねえちゃん!おーねーえーちゃーんー!おそろいだよー!
「いっやー可愛いなー。面白くもなりそうだし、観察するのが楽しみだ」
何か聞こえた。
同時に映像が溢れ出す。
森の木々のざわめき。小川のせせらぎ。おしゃべりな小鳥に、囁き合う栗鼠や野鼠。
(匂いだ)
この全ては視覚ではなく。そして聴覚以上に嗅覚を元にしたイメージなのだ。何故かそれを直感した時、声が響く。
「にほんあしいっしょ。おしゃべりいっしょ。おねえちゃんとおそろいよ!」
(誰?)
ゆるゆると瞼を開ける。
森。森の中。その中でも拓けて青空の見えるような場所。
それを舞台にくるくる回る人影は──自分と同じ顔。
(おーけー、これ夢な)
よく見れば髪色や髪型が違う。オシャレに縁遠い故に出てきたイメチェン願望的なアレだ。きっと。
そういえば、元々自分はみーちゃんと昼寝をしていた筈。だからこれは夢。これは夢。
さっさと寝てしま「あっおねえちゃんおきてるね!」
(わっつ?)
目が合った。
自分の顔と。
(き、気付かないふり!寝る!)
「えへへーおねえちゃんがおそろいだぁー」
自分に対して満面の笑みを浮かべて“自分”が近付く。そして/這いつくばって/目線を合わせた。
「わーこれが“もふもふ”なんだね。おねえちゃんおそろい。おねえちゃんもふもふ!」
(は?もふもふ?てかおねえちゃん?)
自分は人間かつ一人っ子の筈だが。後目線がおかしい。低い。
“自分”は未だニコニコ笑みを崩さない。観念して寝たふりを諦め──元々できてないとは言わせない──聞いてみることにした。
「……誰?」
「きゅぅッ!?」
一瞬にして“自分”の顔がくしゃくしゃになる。
「み、みーちゃんはみーちゃんだよおねえちゃんー!」
「は!、?え?みーちゃんはポメ、」
「おそろいにしてもらったのよー!みーちゃんはおねえちゃんとおそろい。おねえちゃんは、みーちゃんと、おそろい!」
「みーちゃん!?おそろい?え、え、……まさか」
大泣き寸前のみーちゃんを尻目に恐る恐る視線を落とす。
自分の両手、もとい両前足にはふさふわの毛。ひっくり返して見れば、まだぷにぷにの肉球(黒)。
さらに右足を動かして見れば、簡単に耳の後ろに触れることができる。
ぐるりと首を動かせば、ふっさふさの背中に乗っかる巻いたしっぽ。
嗚呼、なぜ今まで確認しなかったのか。
再度、前を見ればうるうる目の自分、ではなく。
「……みーちゃん?」
「うん、みーちゃんだよ」
「……みーちゃんにとって私はなに?」
「おねえちゃんはみーちゃんのおねえちゃん!」
「……………おねえちゃんは、みーちゃんとお揃いなのね?」
「うん!」
(はい、ポメラニアン化確定でっす)
認めるしかない。自分は何故か犬だ。多分ポメラニアンだ。
逆に人化したみーちゃんが撫でてくる。
自分はそれを受け入れつつ遠い目をするしかなかった。