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6.助けたい

 加奈が6歳になった頃、加奈の母親の姿をあまり見かけなくなった。どうやら何かの病気になったらしく、病院に行ったり来たりの生活が始まっていた。


「ママ、病気なの」


 いつもの夕方、一人遊びをしている加奈にこんにちは、と声をかけると、加奈は寂しそうに良輔に言ってきた。


「ママは、お病気と戦ってるのかな」

「・・・うん。頑張るからねってお母さんが」

「そうかあ。じゃあ加奈ちゃんも、ママを応援してあげないと。加奈ちゃんが寂しい顔していると、元気出ないと思うな」

「加奈、ママ応援する」

「そうだな。笑顔で会ってあげなさい」

「うん」


 元気に走り去る加奈。しかし加奈の小学校の入学式には、加奈の母親は出られなかった。父親と2人で向かう加奈のランドセルの姿は、寂しそうにしていた。

 加奈の父親はヘルパーを雇った。

 加奈が帰る平日の夕方だけ頼んだようだったが、費用はそれなりにかかる。父親の帰りが少しずつ、遅くなっていった。


 ある日、時間設定を間違えて夜18時に跳んだことがあった。ふと外に出てみると、小学校2年生になった加奈が1人で道路に立っている。


「加奈ちゃん、どうしたんだい?」

 良輔は努めて優しく、語りかけた。

「綾子さん帰っちゃって。お父さん待ってるの」

「お父さん、最近遅いのかい?」

「うん。8時より前ってあんまりない」


 相当、父親は無理をされてるようだ。ただ男ひとり、家事と仕事の両立は難しいだろう。この頃はまた、父子家庭は母子家庭に比べ、あまり社会的にも理解が進んでいない。


「なら、ヘルパーさんと、お父さんが帰ってくるまで、あんまり遅くなるとダメだろうから・・・そうだな、夜の6時から8時までウチに遊びにきたらどうかな」

 良輔はしゃがんで目線を加奈に合わせ、微笑む。

「いいの?」

「もちろんだよ。おじさん、ずっと加奈ちゃんの家の横に住んでるし、お父さんの事も知ってる。おじさんずっとひとりだから、ご飯を一緒に食べてくれると嬉しいな」

「迷惑じゃないの?」

「子供は遠慮するものじゃないよ。ならお父さんに相談してみなさい。おじちゃんからもお願いしてみよう」

「わかった」


 少し嬉しそうにする加奈を見て、良輔は安心した。しかし、2時間、いや3時間の滞在を維持できるよう、改造しなければならない。


「今日は危ないから家に入りなさい。9時頃、そちらにお邪魔して話すから」


 そういって良輔は加奈を見送った。


「さて、どうしたらいいか」


 元の時間に戻りながら、良輔はタイムマシンの中で考える。

 良輔は頭の中で電力と時間制御の方法について検討を始めていた。


 滞在時間の延長を可能とする改造に丸2年が必要だった。良輔は48歳になっている。


「予定がかなり、遅れてしまったな」


 そう言いながらもやっと2年生の加奈に会える楽しみを抑えきれなかった。

 加奈と約束したその日の21時、加奈の父親が帰宅した事を確認し、家に向かった。

 玄関では父親が出迎えた。


「加奈が、ご迷惑をかけたみたいで」


 リビングに座りながら、彼は言った。


「加奈ちゃんは?」

「部屋に入って寝ました。ちゃんと話しておく、というまでゴネられましたがね」


 疲れた笑顔を見せている。もうギリギリだな、良輔に思わせた。


「こちらの事情で大山さんに負担をさせるわけにはいきません。加奈には我慢してもらうよう、説得します」


 加奈の父親ははっきりと言った。

 私も、わかるつもりだが、加奈を守りたい気持ちを優先させた。


「畠山さん、私から見ても相当無理をされているように見えます。さっき、ヘルパーさんが帰った後の加奈ちゃんは寂しそうにしていました。立ち入っていることは十分にわかっているのですが、見ている私も辛いのです」

「・・・すみません」


 良輔は嘘をつくことにした。タイムマシンを改造している間に考えたシナリオのいくつかを頭の中で用意する。


「いや、私も単身赴任が長くてね、実は6年ほど前に妻と別れたんです。私にも丁度加奈ちゃんくらいの娘がいたんですが、仕事優先でこっちにいる間に再婚もしまして。重なっちゃってねえ」


 彼は、はあ、と小さく声に出した。10年近く隣にいて、初めてこちらの事情を聞いたのだ。これまでも不思議に思ってただろう。


「私も寂しくない、と言えば嘘になります。もう私がしている仕事も決まりきったもので、残業も出張もほとんどない窓際になって、今更趣味も特にないもんですから」


 良輔は少し自虐的に笑って見せた。


「だから、と言うと畠山さんには悪いとは思うのですが、どうですかね?」


 彼は少し考えて、切り出した。


「お気持ちはありがたいのですが、ここまで言っていただきましたので、正直に言いますと、あなたをそこまで信じていいか、わからないんです。言ってしまえば少し知ってる赤の他人。父親として、加奈が心配なんです。すみませんが」


 良輔は純粋に彼の正直さが気に入った。


「確かにそうですね。では、少しご負担いただきましょう。私の家にいる夕方6時から8時の間、いつでも電話して構いません。それと、時間になったら加奈ちゃんを返すつもりでしたが、私に連絡せず、いきなり迎えに来ていただいて、家に上がってくださればいい。あなたにも私の家の合鍵を渡しましょう。もしおかしな事や不安がありましたら、何なりと。警察に突き出していただいても構いませんよ」


 彼は大きく目を開いて聞いて来た。


「どうしてそこまで、して頂けるんですか」

「子供が寂しい、私も自分の子供にそんな思いは本当はさせたくなかった。私のエゴもありますが、こんな自分でも加奈ちゃんが楽になるなら。そして私も加奈ちゃんを通して、楽になりたいのかもしれません」


 結局加奈の父親は折れ、それでも悪いので、と毎月の夕食代として少しお金を渡して来た。ここで断るのはと思い、受け取った。

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