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1.タイムマシン

 小山良輔は遂にタイムマシンを完成させた。

 その理由はただ1つ、恋人の加奈を事故から救う為に。


 タイムマシン完成までには15年の歳月、28歳から彼の人生の全て、そして大きく常軌を逸した彼の執念が込められていた。

 良輔は資産家の家に生まれており、数年前に両親とも他界していた。男ひとりなら十分遊んで暮らせるほどの遺産が残っていたが、その私財の殆どをこのタイムマシンの製作に費やした。


 彼は完成したタイムマシンに乗りこむと、2016年10月20日午後3時45分に移動時間をセットした。その日は良輔が決して忘れる事のなかった、加奈がトラックに轢かれて亡くなる、30分前の時間。


「頼む。うまくいってくれよ」


 祈るように起動ボタンを押す。

 ボタンを押した瞬間、タイムマシンから見える景色が後ろから前へ収束するかのように、世界が縮み始め、数秒間暗闇が訪れた。そして、また外の光が拡散し、過去の世界が見えたと思うとすぐに、完了のアラームが鳴った。

 研究室と兼用だった彼の部屋は、当時の彼の部屋に変わっている。ベッド、椅子、机、本棚。タイムマシンを製作すると決める前の昔の自分の部屋が見えた。


「成功だ」


 彼はそう叫ぶとタイムマシンから飛び降りる。


「加奈、今助けるから」


 彼のタイムマシンが許容する時間跳躍(タイムトラベル)のタイムリミットは1時間しかない。彼は急いで部屋を出て、事故があった交差点に向かう。

 良輔は向かう間に事故の事を思い出していた。あの日、良輔は事故の10分後に加奈と待ち合わせた場所に到着する。既に救急車も呼ばれ、病院へ搬送されようとしていたる加奈は、一目見ても助かりそうな状態ではなかった。15年経った今でも、あの日どうしてもっと早くに行けなかったのか、と強く悔やんでいる。


 今回のタイムトラベルでは、自分が昔の自分より先に到着して加奈に会い、事情を説明し、少しだけあの待ち合わせ場所から離れてもらえばいい。それだけのことをするだけだった。

 しかし、来るはずの事故の時間、5分前になっても、まだ加奈は待ち合わせの場所に来ていなかった。いつもなら待ち合わせには10分前に加奈が来て、そして5分前に自分が来る事が二人の習慣だったはずなのに。

 もし加奈が時間に遅れていて、慌てていた所にトラックとの出会い頭の事故ということなら、大声を出してでも止めなければならない。

 ただ、良輔は加奈が来るのをひたすら待った。


「あと2分」


 良輔は腕時計を見ながら呟く。たった一分がとても長く感じている。

 この道は、決して車通りが多いほうではない、ただ、直線で見晴らしがいい道路なので、速度を上げる車が多く、その為に色々な事故が発生する。

 しかし、事故発生時間から5分経っても加奈も、加奈を轢くはずのトラックも来なかった。


「おかしい。時間も場所を間違えたか・・・違う、そんなはずはない」


 もう一度良輔は腕時計をみた。あと15分でタイムリミットの1時間だ。


「もうだめだ。時間がない。部屋に戻らないと」


 彼のタイムマシンは過去に居続けると時間エネルギーの維持制御を失い、最終的には大爆発を巻き起こしてしまう。そうなっては助けるどころか、無関係の人を巻き込む大事故になる。

 良輔は何度も待ち合わせ場所を振り返りながら、とりあえず戻る事にした。


「仕方がない、元の時間に戻って調べよう」


 良輔は部屋に戻り、タイムマシンに乗り込んだ。見慣れた研究室に変わっている自分の部屋に戻ると、すぐに加奈がどうなったか、当時の新聞記事を見た。


 ー××市にお住いの畠山加奈さん、暴走する自動車に轢かれ死亡ー


 良輔は呆然とした。なぜか歴史か変わっている。しかもトラックじゃない。それもトラックが進むはずだった先、1キロ程進んだ別の交差点で事故に遭っていた。

 しかもあの時間から1時間も前に、だ。そしてこの事件はもう自分は知らない(・・・・・・・)


「なんだよ、あいつ、どうしてそんな場所に行ってるんだよ」


 良輔は既に内容が変わってしまっている新聞記事に話しかける。自分が加奈をトラックに轢かれないために行動はしたが、加奈に会う、連絡を取るなど、直接的な影響を与えるような行動をまだとっていない。


 まさか・・・タイムパラドックスか。

 親殺しのパラドックスをはじめとする、タイムトラベルには様々な仮説が存在する。

 彼が想定していたものは、加奈を助けると、自分が元々の時間軸の世界には戻れない、という説だ。


 加奈さえ助かれば、後の結果は気にしていない。むしろ加奈が生きている時間軸に帰れるなら本望だ。しかし加奈は来なかった。

 良輔は考える。やはり別の要因が働いているのだろう。ならば、全ての要因を取り除くまで何度でも加奈を助けるまでだ。


 もう一度だ。今度は少し先回りして車を止めることにする。そうすれば、車の暴走がなくなるか、タイミングがずれるかのどちらかになり、加奈は助かるはずだ。彼はタイムマシンに乗り込み、また次の事故の発生時間の30分前にセットした。


 今度こそ。

あんまり長くないです。

古典的です。

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