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精霊術師と月花の魔術師達  作者: ice
2.緑風の季
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緑風の季-4


――――間に合ったのは、偶然だった。

彼女たちが逃げた方向は、森の奥からの何も考えずにの逃走だったのだろう。

無意識に、森の深みから逃走しようとする行為。

入り口方面への逃走と、僕達のいた場所。

そして、顕現していた精霊の属性が重なったからだった。


『《精霊術》の基本原理』と呼ばれるモノがある。

幾つかの法則性に沿う物で、細かくは僕自身も理解していない事。

大事なのは、『顕現している精霊の属性』しか発動できないこと。

火であれば、周り毎燃やすのに一瞬躊躇しただろう。

水であれば、押し流す水流で何とかなったかは分からない。

風であれば、不可視のそれが彼女等毎切り裂いていた。

陽であれば、月であれば。 それこそ、物理的な被害はまだ、出せない。

この場所が、森で。 出していたのが、土で。

そして、精霊が居場所を知らせるために足元に潜んでいたこと(・・・・・・・・・・)

此等が重なったからこその――――奇襲。

そして、間に合った事実。

それは、彼女等だけでなく。 僕等の背を押す、大きな要因にもなった。


「邪魔――――なんだよッ!」

「ティニア! いつも通り!」

「あいよ……片方は任された!」


土の矛槍(アースグレイヴ)の効果が切れ、死体が転がったことで。

子鬼ゴブリンは、数瞬。 思考を途切れさせたのか。 足を止めた。

そして、狩人(レンジャー)であるティニアは、その隙を逃さない。

ひゅっ、と乾いた音と共に両腰の短刀を二本引き抜き。

風のように後ろに立っていた子鬼の両腕を斬り付け、力が入らないように抑えこみ。

右から回るように、もう一体へも斬り掛かる。

だが、子鬼も其処で反応し、反応が間に合ってしまい(・・・・・・・・)

かきん、と金属独特の澄んだ音が棍棒とぶつかり合い、響いた。


「5、4……。」


精神力を練り上げる。

《精霊術》の基本は、己の精神力を練り上げ、方向性を定めることだ。

対象ロック――――子鬼、単体。

顕現属性エレメント――――土。

攻撃方法アプローチ――――地面からの土で出来た矛槍の具現。

精霊術選定アクティヴ――――『地を這え、矛槍(アースグレイヴ)』。

そうする間にも、刻一刻と戦況は変動する。

先に斬り付けていた子鬼も混乱から立ち直り、目の前の敵……ティニアへと躍り掛る。

2対1。 しかも、背後には二人の非戦闘可能者。

遠巻きに伺う限りでは、ほぼ同時に意識を手放した二人。

勝利目標は、二人の救出。

彼女等を囮に使うわけにも行かず、かと言って重戦士(ヘヴィーアーマー)でもないティニアが攻撃を受け続けられるわけもない。

必然的に、攻撃を避ける、受け流す。

必死で、時間を稼ぐ。 本来は難しいことを要求される。

だが、そう言った事を補助する、彼自身の祝福(ギフト)と、子鬼自体が小さい事での筋力の低さ。

元々が”対敵に対して、三倍以上の複数”で襲うことに特化している種族である子鬼。

それとの戦闘経験(・・・・)が功を奏し。

数秒の、貴重な時間が発生する。


「3、2、1ッ!」

「――――ッ!」


2、のカウントの段階でティニアは強引に攻撃を弾き、一歩後方へと飛ぶ。

理由? そんなものは単純だ。

僕は、カウント1で発動する(・・・・・・・・・・)

たった一秒のタイミングを誤認させる、一度タネを理解した相手には通用しない初見殺し。

だが、故に。 それを知らない相手には、意外なまでに通用する。


起動(セット)地を這え、矛槍(アースグレイヴ)ッ!』


精霊が姿を変え、顕現者(マスター)の精神力を媒介に《精霊術》が具現する。

先程と瓜二つの矛槍となった、それは。 焼き直すように、子鬼を真下から串刺しへと変える。

くらり、とする身体を右足を強く踏ん張ることで立て直し。

残精神力――――残り、何発《精霊術》が使えるかを概算で確認する。

軽い立ち眩み。 精神力欠乏症(マインドロスト)第一段階(ファースト)

この状態なら、恐らく5~6回だろうか、と当たりを付け。

どしゃり、と崩れ落ちる子鬼の真下。 精霊を遠巻きに睨みつける。

変わらない姿(・・・・・・)

精霊は、《精霊術》を行使する際の残滓を積み重ねることで成長する。

探索に特化すれば、探索術に特化した形態へと。

戦闘――――射撃術、近接術、妨害、補助その他。

全く同じ成長をさせなければ全く同じには育つことはない――――唯一無二・・・・

だからこそ、精霊術師は弱い(・・)と謳われるのだ。

武器を変えようと。 防具を変えようと。

精神力の効率が変動するだけで……直接、威力に変動が殆ど見られないから。


「オラッ!」


残り一体。

そうなれば、もうティニアの独壇場だ。

元々、身体の小ささ、筋力のなさを数で補う種族だ。

1vs1で、敵うはずもなく――――。


『Hoiasoikjxa……!』


独自の言語を遺言に。

首を裂いた傷口から、紅い華が舞い散った。

どさり、と身体が地面へと崩れ落ちる。


「お疲れ。」

「おう。 しかし子鬼(ゴブリン)相手から逃げてたのか?」

「みたいだけど……まあ、不意打ちでも受けたんじゃないかなぁ。 見るからに不慣れっぽいし。」

「んーで? この後は?」

「起きるまで待機。 今のうちに、取れるものは取っとこう?」


へいへい、と気の抜けた言葉を耳に。

ちきん、と鋼の音が、森へと響いた。

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