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精霊術師と月花の魔術師達  作者: ice
2.緑風の季
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緑風の季-18

連携の訓練、と言ってもやるべきことは普段と然程変わらない。

寧ろ、普段と変わってしまっては余り意味を成さない、というべきか。

そもそも、行う訓練ということ自体が曖昧なのだから。

これから先、更に人数を増やすことが前提だというのに。

現段階でほぼ完全、まで仕立て上げれば後々に悪影響を及ぼす危険すらある。

だからこそ、今できる事を程々に。

その為の、簡易な依頼だった。


「さぁて……動かないでいてくれると助かるんだがな。」

「相手が寝てればねー……。」


目標は狂狼(パニックウルフ)

その名の通り、狼類としては異質な程に暴れまわる子犬状の魔物。

食事目的だけでなく、目に付いた敵を噛み殺し続けようとする。

村などでは見かけられたら真っ先に殺しに行く程に邪魔な存在として扱われる。

それが、5匹。

恐らくは巣を移したばかりなのだろう。

他の個体に比べてやや小さいのが三体。

そして、口元から涎を垂らした個体が二体。

木々の合間ということも有り、若干面倒な位置にいることはいるのだが。


「ぶっちゃけ動いててもある程度当てられるでしょ?」

「命中精度の差があんだろ。」

「私も多少は手伝えるかなー。 ティニア、どっちが多く倒せるか競争しない?」

「うっわめんどくせー。」


ちゃき、と腰から数本の短剣を取り出すアイネ。

彼女の場合、幾らかの報酬とともに技能として本格的に《投擲》を学んでいるらしい。

身のこなしや剣術ではなく、投擲術。

現状、近接以外では戦闘時に余り活躍出来ていないことを自分なりに考えた結果らしい。

だが。

正直、斥候とかの技術の方が有りがたかったかなぁ、とも思ってしまうのは多分贅沢なのだろう。


「……準備はいいんですか?」

「僕は問題なし。 やること変わんないし。」

「ま、此奴次第だろ?」


そんな今回の取る作戦は「前衛単独での問題点発見」。

普段は前に立つティニアが完全に弓のみに専念し。

僕等は単純に魔法や精霊術で補助。

つまり、アイネの危険度は最初の攻撃でどれだけ駆除できるかに掛かっている。

それが分かっているのかいないのか、何処か気が抜けた表情をした当人をジトッとした目で見る。


「……大丈夫? 解ってる?」

「大丈夫大丈夫! 私強いし!」

「でも死にかけたんだよね、アイネちゃん。」


綺麗にルナの追撃が入った。

戦闘前だというのに頭を抱えて若干涙目になっているように見える。

が、これも良い事なのだと流すことにした。

……横目で見る、ルナとティニアの目は冷たいけれど。


「とっとと準備しろ、相手が動き出したら面倒なのはよく分かってんだろ。」

「うー…………。 やるわよ……。」


何処かウジウジしてるように見えるが、まあいい。

精神力を精霊――――風の精霊に渡し、風の刃を用意する。

何事もなければ、最初の奇襲で終わるはずなのだから。

一度目を合わせ、小さく頷いて。

……ティニアの弓と、アイネの短剣が森の中に放たれた。


※※※


「……ねえ、ルナ。」

「……はい?」


無事に討伐が終わり。

時間も既に夕方を回っていたために、今日は野宿を決行。

見張りの担当はその時々で変わるけれど、今日は僕とルナの二人だった。

念の為に土の精霊にお願いして、足音がしたら知らせてもらうようにはしているけれど。

それでも、後衛二人は少しばかり恐れが先立った。


「アイネ……ってさ、昔からあんな子だった?」

「あんな子……と、言います、と?」

「何というかな……お調子者みたいな。」


ああ、と一度小さく頷いて。


「いえ。 ……もっと、しっかりしてましたよ。」

「は? しっかりしてたの?」

「はい。 昔は、私が引っ張られることも多かった、ですし。」


割と信じられない。

今の現状を見るからに、どこかお調子者のムードメーカーと言った感じなのに。


「今は……そうです、ね。 浮かれてるの、かと。」

「……浮かれ?」

「トキさん、とティニアさん。 お二人と知り合って……大事にして貰ってるから、だと思いますけどね。」


大事。

……大事?

誰が。 僕とティニアが、か?

ルナの表情は焚き火で薄暗い中、然程変わりないようにも見えるけど――――少しばかりむくれてるように見えなくもない。

何でこんな表情をしているのか。

そのことには思い至らないで。


「大事に? 僕は普通に仲間として扱ってるだけだよ。 それは寧ろティニアじゃない?」

「……本当ですか?」

「うん。 本気でどうでも良かったら彼奴は全部面倒臭そうに流すから。」


逆に言えば、口でああ言いながらフォローしている以上は気に入っている、というわけだ。

分かりづらいし、他人からは誤解されやすいけれど。

それが、ティニアという奴の本質だったりする。


「……そう、ですか。」


良かった、と聞こえた気がした。

葉の音だったのかもしれない。

風の音だったのかもしれない。

でも、僕にはそう聞こえた。 それが答えで。

その言葉を聞いて――――少しだけ、安心した。 何故かは、思い至らずに。

咄嗟に、こう口に出していた。


「……ねえ、ルナ。」

「……はい。」

「その、良かったら、だけど……。」


時間があったら。

帰ったら、どこかに出かけないか。

そう、口に出すのに相当の時間を費やして。

そして、その答えが帰ってくるのにも。

同じくらいの時間が費やされて。

……森の夜は、過ぎていった。

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