緑風の季-8
歩き、歩き、歩く。
ひたすらに脚を動かす。
時折、薬草や水の補給で足を止めながら。
それでも、ただ脚を動かし続ける。
……そんなことを、どれほどの時間続けたのか。
気付けば、日が落ち。 月が上がり、沈み。 再び、日が上がって――――。
「……見えた。」
「やっとかー。」
「……戻って、これたんだ。」
「……そうだね、アイネちゃん。」
周囲を石壁で囲まれた、小さな都市。
仮に、魔物に襲われたとしてもある程度は防ぐ。
そんな当然のことを、当然のように実行できる程度には広い、地方の一つ。
”ワーグナー男爵”が治める、そんな場所――――。
「ルクロス。 ……やっと、着いたんだ。」
そう、四人の誰もが実感していた。
※※※
森に一番近い、南門。
何人かが列を作り、中へ入るのを待つ時間。
「此処の場合は何か必要なの?」
「えーと……《ギルド》加入者でしたら、其処から税引き落とし……だよね、アイネちゃん?」
「の、筈。 一人頭そんなにしなかったと思うけど。」
「あんま高くないと良いがな……。 トキ、幾ら有る?」
「え、僕のから出すの!? ……一応、銀貨二枚はあるけど」
「銅貨でしかねえんだよ。 二人分払っといてくれるか? 薬草売った後で返す」
急に言われると、流石に慌てるわけだけど。
とは言え、最低限の用意だけはしてある。
革袋の底、二重底にして隠してある万が一の時の隠し金から銀貨を取り出す。
……これを貯めるのも、大分苦労したんだけどなぁ。
「次。 四人か?」
「あ、はい。 僕等は《ギルド》加入希望者です。 そっちの女の子達は……。」
「《冒険者ギルド》加入済みです。 これ、カードです。」
そう言って。
二人は手元から真っ黒に染まった、掌大の大きさの金属のカードを取り出し、提出した。
30代程だろうか。
身体つきががっしりとした、衛兵さん――二人が見張っており、抜け出すのは先ず無理だろう――がそれを一瞥する。
「まだ入りたてか。 頑張れよ。 んで、二人は入るなら都市税が掛かるんだが……。」
「ええ、幾らかかりますか?」
「一人頭銅貨10枚。 持ち合わせがないなら後払いでも構わんが、その場合は初依頼の時から追加で支払われる。」
「意外と便利なんですね……。」
「まあな。 便利にしないとやってられない部分もある。 どうすんだ?」
「支払います。 銀貨からでいいですか?」
……これなら、銅貨支払いでよかったんじゃないかな。
手渡し、払い戻される銅貨を数えながら横目でティニアを見れば。
目を逸らし、関係ないふりなどをしてくれた。
この借りは後で返してもらおう。 精神的に。
「おう、確かに。 《ギルド》の場所は……嬢ちゃん達がいるな。」
「ええ、親切に有難うございました。」
「なあに、粗暴な奴よりは丁寧な子供のほうが気持ちいいしな。 さて、次。」
後ろ手に、ひらひらと挨拶を返してくれた衛兵さん。
彼に感謝しながら、四人で揃って歩き出す。
「んで、ルナと……アイネだっけ? オメーらはどうすんだ?」
「……まず、荷物を置いてからギルドに行こうかな、と。」
「ちょっと! なんで其処で私だけ名前曖昧なのよ!?」
「いやー……粗暴な女の名前は覚えたくもないっつーかー……。」
「喧嘩売ってる? 買うわよ? 高値で。」
やめなよ、って言っても無駄なんだろうなぁ……。
道中何度も繰り返された言い合いに辟易しながら、ルナに聞いてみることにした。
「最初に《ギルド》行かないの?」
「……本来より、時間掛かってしまったので。 宿代の支払い、が。」
「あー……。 一応聞くけど、宿代どれくらい?」
「一人頭、食事込みで一泊銅貨40枚程ですが……?」
「案内して貰っていい? 僕等も其処にする。 変な宿に入り込むよりは知り合いがいた方がいいし、ね。」
まだ馬鹿騒ぎを続ける二人を横目で見つつ。
襟首を掴んで、引き摺るように歩き出した。
……こういうのも、相性が良いっていうのかな。
もしそうだとするなら、色々とどうかと思うんだ。
そんな役体も無いことを、考えながら。
……隣で案内する、ルナも。 何処か疲れた表情を見せていた。
あ、昔からなんだろうな。 この感じ。