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精霊術師と月花の魔術師達  作者: ice
2.緑風の季
10/22

緑風の季-7

祝!10話!

頭を下げたナマモノ(アイネ)がいた。

目の前には頬を赤く腫らしたティニア。

それを遠巻きに、口元だけを変に曲げた僕と、オロオロしたルナ。

当事者では無いからか。 どうしても笑いが先行していた。


「すい……ません、でした……ッ」

「お前な……起きた直後に人の顔引っ叩くってどういう教育を……。」

「だ、だって! 起きたら脚を触ってる男だよ!? 変態に見えるじゃん!」

「誰が変態だこの野郎!? あ、この女!?」


ぎゃーぎゃーわーわー。

喧々囂々、謝っていたのが何だったのか、という勢いで互いに言い合いを続ける二人。

小さい皿を取り出し、スープの味見。

若干塩が強いが、この後に葉や麦を入れることを考えればこのくらいでいいだろう。


「あ、あの。 向こう、放置していて良いんでしょう、か?」

「あー。 楽しそうだし良いんじゃないかな?」

「で、でもっ。 アイネが手を出しましたし……。」

「大丈夫大丈夫。 孤児院だといつものことだったし。」

「孤児院……? …あ、だから同じ姓なんです、か?」

「そう。 『レーディル孤児院』。 忘れていいよ、どうでもいいから。」


事実だ。

「ただ生かされるだけ」という言葉通り、あの孤児院は食事を出すだけだった。

何かをして欲しかったわけじゃない。

何かを求めたわけでもない。

でも。

年下が死んだ時。 年上がいなくなった時。

常に、「せいせいした」と言った表情を浮かべる相手に、誰が感謝を抱けるのだろうか。

――――既に、過去として僕は捉えていた。


「ま、丁度いいんじゃないかなぁ。 思考年齢同じくらいっぽいし。」

「丁度……?」

「相手をさせておくには、さ。 ……味見してみる?」

「……頂きます。」


手元の皿を軽く洗い、一口分程を載せて差し出す。

おずおずと受け取る姿は何処か小動物のようにも見えて、微笑ましくも見えた。


「ん……ちょっと、しょっぱい?」

「後で薄めるからね。 この時点で丁度良かったら薄すぎちゃうからこれくらいで丁度いいんだ。」

「ああ……。 外、ですからね。」

「建物の中とか、街なら後で足すのも出来るだろうけど。 干し肉処理のほうが優先だから。」


小刀ナイフで軽く削いだ、乾燥した果実を入れる。

これが水を吸うと膨らみ、腹の足しになるのだ。

普通なら味など存在しない、只の球体にも近い果実なのだけれど。

旅をする際には重宝する。 これは、ティニアの師匠だった狩人さんから教わったことだった。


「ぜーぜー……。 感謝はしてるけど、脚触るなら一声かけてよ!」

「気絶してんのにか!? 思いっきり無茶言うなこの女!」

「そうよ!」

「お前が聞いてねえなら声かける意味ねえだろ……。」

それでも(・・・・)! お嫁にいけなくなったらどうしてくれんのよ!」

「お前みたいな生意気なメスゴリラを好きになるのがいるのか……?」

「よし其処に立ちなさい。 全力でぶん殴る。」


あ、向こうで今地雷踏んだ。

多分アレは素で言ったんだと思う。

だが、相手は今日出会ったばかりの少女だ。 そんなことを言えばああもなろう。


「アイネちゃん、落ち着いてっ!?」

「うるっさいわよルナ! こいつは、こいつだけは一発殴らないと許せないわ!」

「お前もう一発殴っただろうが!?」

「それとこれとは別よ! 顔出しなさい!」

「俺はマゾじゃねえよ! 誰が差し出すか!」

「じゃあ殴るまで付き纏う!」

「お前は何なんだよ!?」


……あ、見てられなくてルナまで出て行った。

しかし、なんだ。


「今日出会ったばかりなのに息ぴったりだね、二人。」

「誰がだ!」

「誰がよ!」

「そういうところ。 後さ、いい加減見苦しくなってきたから何とかしなよー、ティニア。」

「ぐっ……。」


最初に喧嘩を売ったのはティニアだ。

だが、最初に引っ叩いたのはアイネ、というらしい少女。

結局喧嘩両成敗。 単純に似た者同士、というだけなのだが。


「……よし、お前は叩いた分がある。 俺は軽口を叩いた。 これで分け(イーブン)だな?」

「……そうね。 そういうことにしてあげるわ変質者。」

「てめぇ……。」

「アイネちゃん!」


流石に再度割り込まれれば、従う他無いらしく。


「はいはい。 ……私はアイネ=レイチェルク。 職業(クラス)剣士(フェンサー)。 宜しく。」

「チッ。 ……ティニア=レーディル。 狩人(レンジャー)だ。」


自己紹介を今更。

大分遅いとは思うけど、やっと獣から人へと変わった感じがした。

まあ、見ていて面白い部分はあったけど。

ティニアと彼処まで噛み合う女性も珍しいから。

大抵は、軽口に嫌気を感じて逃げていくか――――外見だけに惚れるけど、他人へと靡いていくかの二択だったし。


「僕はトキ=レーディル。 精霊術師(エレメンタラー)。 宜しく、ルナにアイネ。」

「あー……アンタは真っ当そうね。」

「随分な挨拶だなー。 君、友達いる?」

「い、いるわよ! ……ルナが。」

「ぼっちじゃねーか。」

「ティニアとか言ったわね! ぶん殴るわよ!」


……駄目だこりゃ。

小さく溜息を吐けば。

くすり、とルナが笑みを浮かべていて。

鍋から、小さな煙が静かに立ち昇る中。

言い合いは、いつまでも終わらなかった。


「事実を事実のまま言ってなんで殴られるんだよ!」

「気に障ったからよ!」

「暴君!?」


……街まで、明日には辿り着きたいんだけどなぁ。

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