序章-1
思いついたのでぽちぽちと。
大分のんびりした話です。
全ての生あるものは神々の加護の下に。
邪なる者も、聖なる者も。 等しく、汎ゆる神々の加護の下に存在する。
故に、存在した時点であれば。
その存在の重さは同じに過ぎず。
生きるために何をするか。 何を為したか。
此等を以って、生の価値と我等は定める。
――――神々、かく語りき。
※※※
ざばん、と水が零れ落ちる音がした。
川の畔、陽の昇り立ての時間。
定刻を知らせる、小さな鐘すらも鳴る前の静かな時間に、その音は響いていた。
ざばん、ざばん。
幾度か響くその音の中に、小さく息を吐く声が混じっていたのに気付いたのは。
その場にいた少年と、森で朝早くから食事を求めていた小鳥位のものだっただろう。
光が反射する水面で顔を洗っていた彼が、顔を小さく振りながら目を開く。
水面の反射で映る、いつもの顔。
ある程度切り揃えられた茶色の髪、とろんとした澄んだ緑青石のような眼。
あちこちを繕ったような汚れた服に、それを覆い隠すような皮のマント。
見慣れたその顔をじっと見、一度小さくよし、と唱え。
右手で、水面にも映っていた茶色の杖を持ち。
それを地面との支え棒のようにして、しっかりと立ち上がった。
「さて……っと。」
小さく響く声は、声変わりして間もないともそうでないとも取れる声色で。
周囲の木々の間で響くには、不思議と馴染んでいるような。
端的に言えば、其処にあって当たり前のような。
そんな”力”が宿っていた。
「何処まで探しに行ったんだろ。」
きょろきょろと視線を彷徨わせ、森の中に足を踏み入れる少年。
木々の根が張り巡らされ、迂闊に踏み込めば。
或いは、慣れない村人であれば脚を掬われるような、そんな状態にも関わらず。
手慣れた様子で、足取りを少しずつ進めていた。
頭上は、生い茂った葉で陽光を遮られ。
そのやや下辺りに、黄色や赤色といった色取り取りの果実が視界に映る。
それらに目を向ける事無く、少しずつ前へと進んでいく。
まるで、目的地が分かっているかのように。
※※※
暫く歩いていると、森は少しずつ開けてくる。
人工的に行われたものではなく、自然災害的に木々が倒れ。
それを避けるようにして成長した若木がまた倒れ。
そんなことを繰り返され、奇跡的に出来上がったやや小さな広場とも言える場所。
そんな場所まで歩いてやってきて、小さくくん、と鼻を鳴らした。
「(……血の匂い。 この辺まで来たんだ、態々。)」
そう思うが早いか。
近くに落ちていた乾いた枝を十数本に、積み重なった土の上の方、出来る限り乾いた葉を集め。
円状に合わせ、小さな焚き火のような状態を作り上げる。
それらは決して訓練などで身に付けたような、上品な形では無かったけれど。
試行錯誤を繰り返し身に付けた、ある意味では泥臭さすら見える手慣れた動きだった。
完成した焚き火モドキの前で、杖を片手に小さく呟く。
「我が精神力を代償に、守護精霊の一角。 熱を司りし精霊よ、我が影から現れ給え。
『召精、小火精霊』」
ぽ、っと。 杖の影、ある意味では先から赤い火花が散る。
何事も無い空間――――いや、何かを起こした空間を行き来するかのように。
その火花は少年に向けて二度三度、末端の火花を飛ばした。
「うん、その枝に火を付けてくれると助かるな。」
至極当然のように……と言うよりは、少年が呼び起こしたのだろう。
”生物”のような火花は、返事をするかのようにして枝に火を灯す。
一瞬で加熱するかのように、葉の末端に灯った火は勢いを増し始め。
やがてぱちぱちと、小さな煙を上げて正しい意味での”焚き火”となった。
空間に漂う火花を残して。
「ありがと。 残りはいつも通りに、餌にして。」
その声を聞き、数秒後。
その火花はまるで煙のように姿を消した。
とても普通では考えられないような行為を行って尚、当然のような顔を続ける少年。
何度か枝を投げ込み、焚き火を消さずに保ち続けながら。
恐らくは、誰かを待っていた。
その煙が合図のように。
その存在が、確かに存在するかのように。