冒険者という兵隊3 編成について
軍隊を参考に、パーティーを考察します。なぜ冒険者は軍隊と違って少人数でぎりぎりの戦いを強いられているのでしょうか。
では冒険者はどういう編成を組んでいたのしょうか。ここでは軍隊の兵種に則って見てみたいと思います。
軽歩兵、重歩兵、軽騎兵、重騎兵、攻城兵器、工作部隊、補給部隊、医療チームなどの部隊が歴史には登場しています。
兵種というのは走攻守の項目で評価されます。
もちろん継戦能力や奇襲能力など、用兵レベルでの得意不得意はありますが、ここでは置いておきます。
兵種は走攻守のどれかに特化しています。その結果重大な欠点や弱点ができたとしても、それを完成としている場合が多いでしょう。これは目的に沿って進化し続けてきた結果です。
例えば第二次世界大戦末期から、軽中重という区分を取り払った主力戦車という兵器の開発が進められました。それぞれの良いところを取って、走攻守全てにおいてハイレベルにまとめた車両が、主力戦車と呼ばれる戦車です。
一見弱点がなくなったように思えますが、それは戦車というくくりで見た場合であり、ヘリコプターなどには依然として弱いのです。
近世の軍編成は三兵戦術(散兵戦術とは別もの)に基づいたものでした。
これは歩兵、騎兵、砲兵の三種を1セットで運用する戦術です。
歩兵は槍とマスケット銃を装備していて、騎兵は突撃騎兵の他に短銃を装備した竜騎兵という兵科が登場しました。砲兵は軽量化に成功したために、陣地破壊のほか、野戦にも使われるようになりました。
用兵とは兵種の特性を活かして破壊力に効率よく変換することであり、欠点を他の兵種によって補うことであるといえます。
この関係を満たし完結したものであれば、特定の地域の戦闘において、単独で作戦行動を遂行できます。
また戦いにおいて、安全領域の確保維持というのは大事な要素です。
よく補給線が伸びきって――という描写を戦記物でみますが、これは占領した領土の安全領域が損なわれた結果です。
弓兵部隊などの近接攻撃に弱い兵種は、密集陣形を組んだ重装歩兵に守られた領域にいる必要があります。
将棋で王将を囲うというのは、安全領域を確保する行為です。ある程度の時間を耐えたり、侵攻ルートを限定できる陣形を組まなければ、思わぬ攻撃で敗北する可能性があるのです。
これらの点を踏まえて、冒険者が組んでいるであろう編成を考えてみたいと思います。もちろん、散兵戦術的な発想で動いているなら、遠距離武器で攻撃して逃げる、という事になります。しかしライフル銃などの高性能武器はなく、弓は数がなければならないので、やはり近接する必要があるでしょう。
必要なのは、相手の攻撃を止めて、安全領域を確保する守備担当。
柔軟に動いて領域を維持し、隙を作り出すことを目的とした速度担当。
隙をついて一気に打ち崩す攻撃担当。
そして武器は、拳、盾、短剣、長剣、斧、槍、両手剣、槌、短弓、長弓、あたりでしょうか。
これに魔法が加わっています。
守備担当は、戦線の維持と、相手の戦線を打ち崩すのが目的です。
しかしながら冒険者がゲームのように、金属鎧を着こむのは冒険者には無理があります。全身鎧は20㎏前後あるようだし、旅には不向きでしょう。
また、槍衾も人数的な面から不可能です。
その代わりにあらゆる攻撃を防ぐ盾を装備して解決したのかもしれません。
盾は戦場に置いて、最も効率的な防御構築方法の一つです。様々な形の盾が存在することをみれば、そのことは明らかでしょう。
現在でも主な防御方法として盾は使用されています。
盾にも種類は複数ありますが、防御専門ともあれば色々な盾を持っていくというスタイルも存在しそうです。
相手の物理的な攻撃を耐えるだけならば金属の盾でいいかもしれませんが、ドラゴンや魔法を使ってくるモンスターがいる以上、それだけでは足りないでしょう。
すべての攻撃に強い防具というのはありえないのでは、と考えられます。
なぜなら、それを加工する時はその物質の形状を変化させなければならないわけで、したがって加工方法と同じ攻撃をされれば、当然変質してしまうのです。物質の耐久力を表すときに、様々な○○耐性というのを見ますが、どれにも強いというのは考えにくいのです。
馬上の騎士がもつマインゴーシュ(左手、という意味)というナイフも盾といますし、槍兵が地面につきたてる杭も盾ということができます。槍衾も広義では盾でしょう。
敵のあらゆる攻撃に対応するため、戦線を維持し続ける冒険者は、数多くの手段を所持していたことでしょう。
速度担当の冒険者は、相手の遠距離攻撃を何とか潰したり、散兵的立ち位置のモンスターを倒す必要があります。
たとえば、ゴブリンメイジや吸血コウモリ、のようなモンスターが良く小説にでてくるところでしょうか。
地形の偵察や敵襲撃の察知など斥候的な役割のほかに、追撃や攪乱などの軽騎兵のような役割を負う必要があるでしょう。
例えばそこに敵がいないという情報を得ることも、立派な防御方法の一つです。ある一方を守る必要がないとわかれば、防御担当は他のところを守ることができるのです。
様々な役割を追う一方で、ドラゴンのようなモンスターが来た際には意味をなさないかもしれません。
これは弓兵で武装した都市に対するモンゴル騎兵や、対空防御がしっかりとした拠点に対する飛行機のようなものです。
速度を重視した兵種は、防御力には真っ向から立ち向かうことはできないのが常です。その場合は浸透力に頼ることになりますが、ファンタジーでいうなら毒や軟化魔術的な何かがそれにあたることでしょう。
攻撃担当は相手の勢いを削ぐことと、機能を停止させることが目的です。
この二つの違いは、時間当たりの破壊力を重視するか、一撃あたりの破壊力を優先するか、というものです。
例えるなら小さな火の玉をポンポン飛ばすか、巨大な火の玉を一発撃つかということでしょうか。
人間同士の戦場にて攻撃担当である兵科は、結果的に見ると遠距離攻撃を行う部隊になります。
しかし少ない人数で守られた領域の中で、少ない人数で攻撃力を発揮しなければならない冒険者にとって、弓を撃つというのはいかほどの戦果を挙げられるものなのでしょうか。
抗争に参加する人数と、会敵距離は比例するように思えます。大軍であればあるほど遠くから敵を発見できるからです。
会敵してから接敵するまでの時間が短ければ、射撃機会は減少し、それは攻撃力の減少に直結します(マスケット銃が遠距離武器として未熟だというのは、距離が有利にならないという点があるからです)。
少人数同士で行われる戦闘にて、射撃担当の兵科はその火力に制限をかけられているようなものでしょう。これは魔法攻撃にも同じことが言えます。
接敵してから十分な攻撃力を確保するには、そのための兵種を用意する必要があります。
つまり両手剣や槌を装備した、防御も速度も捨てた冒険者です。
敵の攻撃を防げない彼らは仲間を信用せざるを得なかったし、防御担当の冒険者にとっても攻撃担当が勢いを削いでくれなければ耐え続けることは難しいでしょう。
もしくは突撃騎兵のように突進力や圧倒的な戦闘能力を発揮できる戦闘方法が開発されたかもしれません。とはいえそれも万能ではない(例えば近寄れないモンスターが相手の場合等)わけで、そうした敵が出てきた際には別の兵科が活躍することになります。
このような形で、冒険者は同じ戦場に立つ冒険者を頼るようになっていったのではないでしょうか。
2,3人の防御担当の冒険者に、同数程度の速度担当の冒険者。これに近距離攻撃担当の冒険者に遠距離攻撃担当の冒険者が1人ずつ。
この比率には意味があります。保護対象に対しては、数倍の人員を割かなければ守り切ることはできないのです。
SPに守られる要人や王将を囲う駒の多さ、大砲に対しての全体の兵数などをイメージしてみればよいでしょう。
単純計算でも前と左右の辺を守るだけで3倍必要になるのです。
攻撃担当とそれを囲う兵士の数の関係性はこのようなものです。攻撃力を増せば増すほど維持するための人員は膨れ上がります。
では人数を増やせばいいのでしょうか?
残念ながらこれは二つの点から不可能だと考えられます。
一つはパーティーの維持費が増え、日数当たりの取り分が減ること。
そしてもう一つは冒険者ギルドによる制限です。
一つのパーティーが大きくなり力を持ちすぎるのは、ギルドにとってはデメリットしかありません。
力が増えてそのパーティー自体が名声を得れば、ギルドを通さないで依頼を受けたり、制限を受けない武装勢力というものが生まれる可能性もでてきてしまいます。
これは冒険者ギルドの権威を著しく低下させる要素となるでしょう。
実のところ筆者は冒険者ギルドに徒弟制度がないのは、これが大きいのではないかとも思っています。
ぎりぎり勝てる戦力で、モンスターを討伐していく。
これは冒険者にとっても、冒険者ギルドにとっても重要なことであるといえそうです。
だから冒険者はギルドによって厳密にランク付けされて戦力把握が行われているし、そのような依頼に冒険者たちを放り込むことによって、冒険者たちの統制を行っていたのでしょう。
当初では1話にまとまるはずだったのですが、だらだらと伸びてしまいました。
どうぞここまでの3話を1組としてお読みください。
次回は冒険者ギルドについて書きたいと思います。