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ファンタジー世界の農業

ファンタジー世界で生き残るために農業に何が必要かを考えます。


イメージしやすいよう農奴を農民と書いていますが、深い意味はありません。


 ファンタジー世界の住人といえど、一般的には主食と主菜からなる食事をとって活動します。

 幻想度の高いファンタジーでは、すべての登場人物が食事を必要としなかったり、魔力で活動していたりしますが、少数派と言って良いでしょう。


 農業と人間社会の関係は切っても切れず、農業は世界を構築する上ではもっとも重要な要素の一つです。集団の食料供給源はその集団の行動様式の基盤となるのです。


 中世ヨーロッパでイメージされるものと言えば小麦です。

 麦と米が生み出す差異が社会組織に与える影響については、第32話、麦と米と社会で言及しました(麦は拡張志向や個人主義、米は社会性や組織力があがるのではないかという内容でした)。


 ファンタジー世界で米の栽培方法が確立された場合、統治システムに大きな変化が生まれそうなので、そこをいじりたくないなら麦にとどめておくのがいいのではないか、という論調でした。果たしてファンタジー世界の人間はそれで過酷な生存競争に勝ち抜いていけるのでしょうか。



 モンスター、冒険者、魔法という三つの要素を本小説ではファンタジー世界の特徴として使ってきました。

 魔法はともかく、前の二つは農業にとってはマイナス要素です。


 モンスターがいれば開墾は困難だろうし、察知できないモンスターの襲撃は農業のサイクルを崩すことになりそうです。

 冒険者という職業層を確保しなければならないということは、その社会はその分の食料余剰生産を生み出している必要があります。よく騎士が非生産層として語られますが、冒険者も小麦を生産することはできないのです。


 ファンタジー世界の住人はどうやって乗り切っているのでしょうか。

 詳しく見る前に、これまでにファンタジー世界のその他の特徴として挙げてきた点を、もう一度確認しておきます。人間勢力同士の争いがない、他種族はいるがアジアやイスラムといった他人種勢力は確認できない、宗教の力は強くなりそう、鉄工技術は史実より進んでいそうだがこれ以降の発展はなさそう、というのが主な点です。


 これらをからめ、ファンタジー世界の農業はどう変化するのか見ていきたいと思います。



--本当に小麦なのか--


 モンスターの襲撃による収穫量の低下と、冒険者という非食料生産層による消費量の増加がありながら、食糧難になっていないということは、史実ヨーロッパの農業より幾分か進んだ農法を手に入れている可能性があります。


 しかし、農法については詳しく勉強しないと分からないし、最近では知識チートによる農業改革を行う小説は息を潜めているようですので、現実世界の技術史を参考にすることはできません。こういったところを先進的な技術を取り入れた描写で説明すると、「それは中世には存在していない技術だ」と突っ込みが飛んでくる恐れもあります。


 ヨーロッパの食料事情の歴史を見ていると、一つ疑問が生まれます。

 ファンタジー世界の主食は本当に小麦である必要があるのでしょうか。


 史実近世になるとジャガイモが南アメリカより渡来し、寒冷地にすむ民族の人口を支えました。たまにファンタジー世界でもジャガイモらしき芋が登場します。

 主食を麦よりももう少し収穫量の高い作物に変えてしまえば、厳しい農業の助けになります。


 中世ファンタジーならやっぱりパンを食べさせたいと思うのであれば、麦よりもうちょっと育てやすく収穫量の多い、架空の作物でもいいかもしれません。なにも小麦粉から作られたパンでなくても絵面的には問題ないでしょう。

 麦と同じような農法で育てば、設定や描写にそこまで気を使う必要はなくなりそうです。


 小説を書く上でオリジナルの名詞を出しすぎるのは良くないとは言いますが、モンスターの脅威と戦わせるのですから、ファンタジー世界の人間には史実より少しくらい有利な条件を与えてもいいのではないかと思います。

 架空の作物で食料事情を支えていれば、小麦で作られたパンが高級品になるかもしれません。


 架空のちょっと性能のよい小麦らしき作物、これが一つでしょう。



--魔法と農業--


 ファンタジー小説を読んでいると、農業に魔法を持ち出すのは邪道であるという意識が、なんとなく感じられます。

 転生主人公がやってきても魔法で土壌改良を行う様子はありませんし、農地に魔力を注いで地力を上げる設定をとる小説も少数派です。魔力をそんなところに使うなんてもったいない、という価値観を持った人物もよく出てきます。


 これは魔法をチートにしたくない、科学で制御できる範囲に置いておきたいという意識の表れなのではないかと私は考えています。

 いわゆるクラークの三法則でいうところの(万能的な)魔法は嫌われる傾向にあるのでしょう。


 しかしファンタジー世界に住む人間はそんなこと言ってられません。領主としても農民としても収穫量アップは深刻な課題なのです。


 そもそも原始社会では収穫量を上げるために祈祷を行うのは、どの民族でも珍しいことではありませんでした。生贄を捧げたり祭壇を作ったりというのはどこの文明でも見られます。他にも狩りの成功を祈る壁画などは太古からありますし、食料を得るために必死になるというのは、苦しい環境に置かれた人間社会にとっては自然なことなのです。


 ファンタジー世界の人間が史実中世と同じ麦を食べているとして、一向に広がらない農地や消費が激しい環境をみて、農地に魔法を使う事を躊躇する意識が生まれるでしょうか。


 魔法によって何が改善されるか、その魔法がどれくらいの難易度になるかは設定の範疇ですが、もし効果的な方法があるならば、農地への魔法の行使依頼を魔術師ギルドや冒険者ギルドに領主が出すことでしょう。開墾作業の手助けや護衛に冒険者が駆り出されることも想像に難くありません。

 もしくは、"祈祷"という要素は教会と関係がありますので、教会組織や領地である小教区がさらに力を持つことになったかもしれません。

 

 これは魔法とは関係ありませんが、史実における中世では鉄の道具が広まると開墾が早まりました。鉄鋼業が史実中世より発達しているのであれば、農業にも大きな恩恵があると考えられます。

 魔法や性能のいい農具など、ファンタジーならではの農法が編み出されているはずです。



--他種族の利用--


 本小説で考察を進めるうえで、他種族の扱いは難しいものがあります。存在の仕方が千差万別で多数派というものが見えてこないからです。


 ただ、食料問題を解決するために他種族を使ったのではないかと考えることはできます。

 奴隷のページで触れましたが、イスラム社会は奴隷を人口の割り増しのように扱って、経済や軍事の発達に利用していました。


 他種族であれば、小麦を主食とすることはないかもしれません。彼等が代わりに何を食べるのかは分かりませんが、果物や家畜などの要素が増えれば、それだけ架空品目が増やせる機会があります。草食系の獣人種であれば牧草に準じた物でしょうし、肉食系であれば獣肉に準じた何かでしょう。


 小麦に偏重することさえしなければ、まだなんとかなりそうです。モンスターの肉を冒険者が狩ってきてもいいのです。



--閑散期--


 これは収穫量と関係ないことですが、史実では農業の閑散期では募兵がしやすく、領主たちは戦争に使いました。


 ファンタジー世界では戦争は起こりにくいので、農民は暇な時は何をするのでしょうか。

 もしかしたら冒険者かもしれません。


 土地に縛られ危険を冒すのを嫌がるのが農民ですので、領主命令として小編成で脱走を阻止しながら、領内の簡単な任務につかせるかもしれません。村社会によって生まれた協力体制は、中世イタリアの傭兵、"ランス"のように生存率を上げます。


 「初めは閑散期にしか冒険に出なかったが、家を継ぐことができない次男三男の良い稼ぎになり、やがて一年を通して依頼を受けるようになった」としてもいいのです。

 ちょうど史実中世ドイツのミニステリアーレ(非自由民出身、下級騎士)のように、そこそこの力を持つ可能性もありそうです。史実では農家と民兵や傭兵を兼任する存在としてスイス傭兵が挙げられます。


 農民出身の主人公が冒険者になることができる道であり、成り上がり物語としても優秀な位置です。


 これは商人の護衛、傭兵にならなかった流民という冒険者の出自に加え、新たな候補かもしれません。


「商人の護衛」の前身に「閑散期の農民」を設定してもいいかもしれません。農家の三男坊に転生した主人公が外に出ていく経路を確保できます。

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