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魔法と城壁

 飛行魔法でも書いたように魔法があるのであれば、城の防御機構も様々に変化していくことかと思います。


 魔法が発達してしまえば城壁には固執しない、という考え方もできます。

 鉄条網や地雷、塹壕のような、高さを抑えた防御方法にするのです。加えて機関銃に相当する物があれば完璧でしょう。


 魔力を蓄積する魔石、などという都合のいいものがあるなら、地面に魔法陣やら呪符やらを仕込んでおくだけで、地雷を再現できてしまいます。もはや城壁は必要ありません。

 ある程度侵攻を妨げる設備と、発射速度に秀でた魔法使いを用意するだけで、地上の守りは完璧という事になります。あとは現実世界の街で見かける程度のフェンスで街をぐるりと囲めば、そうそう侵入を許すこともないでしょう。


 とはいえ、これではもう中世ファンタジーの雰囲気のかけらもありません。石壁とそれに囲まれた街やお城はファンタジーの象徴でもあるのです。お城がそびえたたないファンタジーは寂しいものがあるでしょう。


 よって、魔法が驚異的な威力を持つ世界でも、なんとか城壁を強化する方法を考えなければなりません。


 何度か書いたように、魔法がある世界では攻城兵器も相当進化する可能性があります。

 それまでの攻城兵器、とくに遠距離攻撃を行う兵器は進化することでしょう。ねじり力や位置エネルギーを利用していましたが、それに加えて魔法というエネルギーを利用できるというのです。


 攻城兵器を利用しないにしても、巨大な魔力をぶつけることが考えられます。巨大な火の玉、大洪水、竜巻、地震などは、ファンタジー世界でも見ることができる魔法であり、それらが中世の城相手に使われたとすれば、城壁が無事な絵は想像できません。

 もし包囲したうえで、大規模な魔法で局地的な寒冷気候を作り出すことができるのなら、籠城側の士気は劇的に下がるかもしれません。山城も山が土魔法によって変化してしまうのなら、意味をなくしてしまいます。


 攻城戦は魔法の在り方によって、さまざまに影響を受けてしまうことでしょう。城壁の価値が下がってしまうのは統治に影響が出てしまいます。そこで、城壁にも何かしらの工夫がなされることが望ましいでしょう。

 すでに魔法を防ぐ盾やマントが存在しているわけで、十分可能なことだと考えられます。


 まず対魔法建築学、という学問が発達するでしょう。魔法に対して耐性のある構造や、資材の研究はどうしても必要になります。外からの魔法的な干渉を防ぐ城壁の開発は、急務になることでしょう。

 木と比べて火に強く頑丈で、労力の必要になる石を材料を中世の指導者は好みましたが、ファンタジー世界では事情が違ってくるかもしれません。


 木や石、鉄に魔法陣を刻んで対魔法防御や対衝撃防御を上げる事も考えられます。城壁の裏面や城門の鉄扉に石工技師や彫刻家が紋様を彫っていく様はなかなかに想像が膨らみます。

 このような工夫があれば、強力になった攻城兵器や巨大魔法にも対応できる、とすることができるでしょう。


 ここまでの話はつまり、攻撃力と守備力の競争が起こるという話ですが、攻撃側である攻城兵器はどういった変化が起こるのでしょうか。


 様々な攻城兵器がありますが、変化しそうなのは破城槌です。大砲が出現するまで、投石機と並んで古くから使われてきた兵器であり、大砲が出現する可能性が少ないファンタジー世界では、定番の一つだと思えます。

 魔王城に破城槌を持って攻め込む様はなかなかにシュールですが、人間同士の戦いならばありでしょう。


 基本構造としては丸太を数人で持って突進し、城門に打ち付けて衝撃を与えることで破壊します。

 工夫としては台車をつけて運びやすくする、振り子のようにして打ち付けやすくする、屋根をつけて攻撃を防ぐ、丸太の先に金属をつける、というものがありました。

 壁に取り付くという関係上、屋根を付けたとはいえ落石や火(火矢や油、ギリシア火薬)には弱いので、鉄板をはったり、濡らした皮を張ることになりました。


 ファンタジー界でももちろん同じ工夫がなされると考えられますが、さらに工夫がなされるでしょう。

 打ち付ける瞬間に兵士が丸太に魔力を流し込む、というのがかっこいい気がしています。魔法陣が展開して、石壁の魔法陣と激しく干渉しあう様はなかなかに迫力がありそうです。

 屋根に張り付けられた鉄板にも対魔法防御が刻まれるとすれば、飛んでくる魔法に対しても防御ができるでしょう。



 このように、いくつかの実在の兵器や建物の機能に魔法要素を加えることで、史実にファンタジー色が加えることができると思います。


 ただ一つ注意が必要なのが、それを破る手立てが確実に用意されている必要があるという事です。


 今回の話では魔法技術によって城壁が強化されましたが、その結果最強の城壁になってしまったら、その世界の住人は困ってしまいます。破城槌に強化手段を用意したり、飛行魔法による攻略が可能としておいたりと、必ずセットで対策案を思いついている必要があります。

 その点兵器についていえば、歴史上では攻撃側にしても防御側にしても打ち勝つものが必ず出現するので、それを参考にすることで比較的容易にできることでしょう。


 しかし魔法についてはそうも言えません。なぜなら基になる物が現実世界にないからです。かといって自前の設定を放出したところで丁寧に読んでくれるともかぎりません。

 現代ファンタジーの代名詞、超能力者バトルでは相手の能力の致命的な欠点やルールを見破ることがバトルの軸になっていますが、超能力は理論が必要にならないのでそれが可能なのです。超能力は、そういうものだからそうなっている、という場合が非常に多いでしょう。作者は自由に能力に制限をつけることができるし、相性の良し悪しも展開次第だと思われます。


 一方で多くの世界での魔法は、同じ法則、条件下で戦わなくてはならず、さらにそれは我々が共有する価値観にも従わなくてはなりません(ゲーム的設定についての頁参照)。技術の進歩や攻撃力と防御力の競争、という現象を再現しにくいと思われます。相手が知っていて自分が知らない事が存在する、ということが起こりにくいのです。

 結果、魔法はただの攻撃手段になります。剣を振る、槍を突き出すということと同等になるのです。魔法が技術である、としているのはそういう意味でもあります。


 一振りするだけでなんでも切り裂く最強の剣聖が存在してしまったら、(それはそれで面白い気がするし、その設定をうまく生かした作品は沢山あると思いますが)多くの場合は展開はつまらないものになってしまうでしょう。しかも、俗にいう能力のインフレが始まるきっかけになるのです。そうなってくると、その理論や法則性、本小説的にいうなら社会的立ち位置等の辻褄を合わせることは困難になってきます。

 魔法も同じで、どんなものでも破壊する、どんな攻撃でも防いでしまう、どんな傷でも回復してしまう、というものを出してしまったら、それは世界そのものを崩壊させる要因となってしまうでしょう。


 究極魔法がラスボスに通じないのは「ゲームだから」であり、小説に来てしまったら、逆に通用しないのがおかしいという事になりかねません(もし"現時点での"究極魔法、つまり技術の粋を集めた魔法であるなら話は別ですが)。

 これは俗にいう究極魔法のみに限ったことではなく、一人の魔法使いが生み出した竜巻が城壁をこなごなにする、等も当然あてはまります。以前書きましたが、社会を守るためには規模やコストに釣り合わない威力を持たせるわけにはいかないのです。


 最強の魔法使いを描きたいのだとしたら、せいぜい武蔵や与一程度の使い手にしておくのが無難です。武技に秀でた人物は歴史の中に山ほどいますが、彼等は決して敵軍隊を一人で壊滅させたり城をぶっ壊したりはしていません。しかし彼らを題材にした小説は人気があるし、読んでいて十分にその世界で最強だというのが伝わってくるのです。


 そう考えていくと、技術の粋を飛び出してしまうような魔法は危険しかないということになります。やはり禁止にしておいたほうが良いでしょう。

 

 

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