飛行魔法について
浮遊魔法ではなく、飛行魔法についてです。
私たちが住む世界では、人は己の力のみでは空を飛ぶことはできません。それは千年前も今も変わらない事実であり、よって、建物もそのようにできてます。
例えば、町でよく見かけるフェンスは高さでもって我々の進行を妨げているのであり、これは人間が空を飛べないことを前提とした設備です。
逆に高いところに上るには、階段やエレベーターなどといった、用意された機構を利用しなければなりません。人が空を飛べないから、特殊な事例を除き地面に近いところに玄関は設定されるのです。
この高さを利用した妨害設備というのは、あらゆる時代、地域で頻繁に使われてきました。つまり城壁です。
身体や財産の安全を得るために、まず第一に侵略者が容易に近づかないようにしなければなりませんが、その際に壁は有効でした。壁がある以上、壁を乗り越える、突き破る、くぐり抜ける、という方法を取らなければなりません。
このように、高さの障害、というものは建物や建物の防御手段にとって基本となる物です。もしも大砲が出現しなければ、高さをもった防御施設はもう少し生き延びていただろうし、十分に大砲が展開できないようなところでは相変わらず城壁は効果があったのです。
なぜ高さが防御に効果があるかといえば、我々が基本的には二次元的にしか行動できないからです。壁の他にも、二次元的な動きを想定した防御設備は多岐にわたります。例えば地形を利用した防御方法がそれに当たります。川や海、山を用いることによって、進路(街道)を限定し、そこを守備するだけで広大な範囲を安全領域とすることができます。
皆さんが想像されているとおり、飛行魔法、飛行生物はこれらを無効化してしまうものになります。
割とメジャーな印象がある飛行魔法ですが、飛行魔法があることで、何が起こるでしょうか。
まず城壁が早々に意味がなくなります。矢を撃つ兵士を沢山用意すれば解決するでしょうか。それも考えにくいでしょう。たとえば夜間に奇襲をかけられれば防御するのは容易ではありません。城は夜でも明かりを絶やすことはできませんので、それを目印に油と火でも落とせば一方的に多大なダメージを負うことでしょう。襲撃側は曇りや新月の時であれば姿を隠すことができるのです。
音もしなければ光もしない飛行魔法であるならどんなに脅威でしょう。あっという間にステルス爆撃機の完成です。レーダーのような物が開発されていない時代ならば、その存在だけで攻城戦は事足りてしまうことでしょう。飛行機と違って、発着陸や補給に関して柔軟性があるので、非常に使い勝手のいい兵種になることかと思います。
もちろん、魔力探知に長けた人物がファンタジーに出てくることは珍しくないので、万能とは言えません。しかし少なからずそういった人物は達人だったり希少な種族だったりするわけで、国土防衛にはとても間に合わないでしょう。
飛行魔法の戦争での脅威に気が付いたファンタジー世界の人間はどうするでしょうか。
これにはいくつかの対策が考えられます。
空からの攻撃が怖いとはいえ、地上からの侵攻は変わらず防ぐことができるのです。大多数の人間がまだ地上からの侵入をもくろんでいる以上、城壁をなくすわけにはいきません。
そこで、空への対策を考え始めます。
飛行魔法使いが自由に攻撃できるとはいえ、その運搬能力には限界があるわけで、よって攻撃力も制限されることでしょう。その如何によっては、襲撃による被害も抑えることができるかもしれません。
炎による攻撃を仕掛けてくるならば、水による防御を考えればよく、岩を落としてくるのならば、風による結界を張ればいいのです。現実では難しいことですが、前に書いた通り、魔法がある世界ではそれも可能になるかもしれません。
傘を広げるように、夜間は防御魔法が展開する城塞も夢がある話です。いくつかの尖塔と天守閣によって、巨大な魔法陣が描かれるかもしれません。
もしくは飛行魔法使いを探知してしまえば話も早いと、哨戒行動をするでしょう。とはいえ、受動的立場で奇襲を看過するのは現実ではありません。防衛側が四六時中飛行魔法使いを展開できれば話は別ですが、費用対効果が低い気がします。
そこで、サーチライトのようなものが良いかもしれません。飛行機による空爆が恐れられるようになって早い段階から使用されてきました。夜空に光の線がうろうろするあの様を想像して、もし「とてもじゃないけどファンタジーの世界観にあわない」と思うのであれば、別にその形態にこだわる必要がありません。
火の鳥や光の蝶々がふわふわ飛んでいてもいいのです。そのような照明装置であれば、早期発見と防御態勢も整うでしょう。
城壁の話は一例にすぎません。あらゆる関所が無視されるなら、領主は民の移動を管理制限することが難しくなります。それは支配体制と防衛能力の弱体化を意味することになるのです。
海上や船の事情ももっと変わったものになると考えられます。漁業を中心とする街でも、騎士が十分に機能するかもしれず、それは中央集権の登場を遅らせる一因となるでしょう、
たとえば、現実世界の街づくりでも、もし人々が自由に飛行できるとなれば、高さを求めるような建造物はこれほど乱立しないことでしょう。よく賃貸情報をみていると、地上階の部屋とそれ以外だとお値段がびっくりするほど違う、ということもありますが、その差になっている一因が取り払われる、というようなことが起こりえます。
このように、飛行魔法の有無は建物の役割に関する様々な事を変化させることが考えられます。我々の常識は、我々が二次元的に移動すること、厳密に言うなら、靴底を何かに接触させて移動することを前提に形作られています。
もしも空がとべたなら、とはよく使われるフレーズですが、このように考えてしまった今では、もしも空がとべたなら、大変なことが起こりますよ、と続けたくなります。
飛行魔法は禁止とは言わなくても、危険魔法として認識すべきでしょう。




