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ステータスについて

 ステータスを表示させる技術や魔法が、どのようなことを引き起こすのか考えていきます。予告通り、ここから本小説的に見る禁止魔法、危険魔法はなにか、という話になっていきます。


 内容としてはテンプレに対する批判という色が強くなってしまいましたが、今まで通りそのような意図から出発したわけではなく、どうなりそうかということを見るにとどまるものです。


 テンプレもの要素として、人の能力値を数値化したステータスや、物の名前や質を表示する鑑定というものがあります。

 このステータスの表示や鑑定、という能力は主人公の特権として存在する場合もありますが、社会のなかで息づく技術である場合もあります。


 筆者個人の感想として、ステータス要素はあまり好きではないのですが、ファンタジー小説でもゲーム的設定を前面に押し出すという決断をした初期の人達には素直に感心してしまいます。

 その決断は大勢の人に受け入れられており、大きな位置を占めているのです。


 ステータスの表示方法やその精度については、様々な例があります。たとえばステータスの他にスキルが設定されていたり、ステータスが才能を表すものなのか、それとも現在のレベルを表すにとどまるのか、という点で、異なるでしょう。これらをひっくるめてステータス表示、としたいと思います。文脈によって、「どのステータス表示か」ということをご判断いただければと思います。


 私がこのステータスがあまり好きではない理由としては、いちいち覚えていられないし読むのがめんどくさい、という感情があるからです。とはいえステータスによって細部のイメージを補完して楽しんでいる人もたくさんいるのです。本小説も延々とストーリーとは関係ない細やかな部分のみを文字という記号によって示しているわけで、言ってしまえばその役割は同程度でしょう。


 あえて設定上でいうなれば、ステータスを用いることで数で明らかにしている、と言う謳い文句のはずなのに、その数値化される対象が曖昧すぎて逆に気持ちが悪いのです。

 例えばサッカー選手と野球選手は、それぞれの業界内で同じ程度の地位にいるならば、同じ程度の"STR(力)"の数値が出るのでしょうか。それともその平均値は競技によって微妙に変わるのでしょうか。だとしたらスポーツ選手という人種としての優劣は"STR"の数値の如何によって決定され、それは競技種目自体の優劣に影響してくるという可能性があるかもしれません。

 というかそもそも、力と素早さはなぜ分けられているのでしょうか?戦車ならわかります。砲が攻撃力で、エンジンや車体の軽さが素早さに反映されるのです。では人体はどうでしょうか。人の素早さは筋肉量、すなわち力とは無関係だとでも言うのでしょうか。

 ほかにも、政治家と科学者の"INT(賢さ)"の意味合いは同じなのか、という問題もあります。そんな馬鹿な話があるわけがありませんが、多くの世界でステータスには賢さと精神力しかありません。

 もし、賢さが理解力、発想力、応用力、暗記力などといった分野に加え、分野における知識量、というものまで細分化されているのであれば納得はできるのですが、ますます読むのは面倒くさくなってしまいます。呪文の強さとも全く関係がなくなってしまいそうです。


 このように、明確にするはずのステータスは、そもそも数値化できるはずもないものを数値化しようとしているのであって、こんなことが頭によぎって考えてしまう筆者個人としては、ステータスを堂々と使用する作品は好きになれないのです。



 しかし、ステータスは実際ファンタジー世界で広く活用されているのです。ステータスもファンタジー世界の一要素として考察しなければならないでしょう。


 ステータスの表示、閲覧が社会規模で活用されているとしたら何が起こるでしょうか。


 まず、やはり一番大きな影響を受けるのはギルドかもしれません。冒険者ギルドだけではなく、商工ギルドも様々な変化があるでしょう。


 なんといっても、ギルドの目的は品質の管理と維持です。冒険者ギルドとしては人を派遣して仕事をさせる、つまり人が品質と直結してくるわけで、能力が数値化されているのであれば品質管理を行うことは容易になります。

 しかし、以前どこかで書いたように、冒険者ギルドは驚くべきことに実力主義で組織の中の序列を作り上げています。ステータスの存在はこの序列を裏打ちするとともに、思わぬ衝突を引き起こすでしょう。例えば敵対勢力からステータスが高い工作員がやって来たとしても、彼の陰謀を止める術をこの組織は持っていません。


 商工ギルドも、より高い能力値をもつ弟子を予め独占しておくことで、敵対勢力が生まれることを阻止できます。

 しかし、ステータスの存在は実力主義社会になる恐れを含んでいることを忘れてはいけません。人間が持つ才能は目に見えないから、本人としてはそれを磨くことができるのです。師事して能力を伸ばす分野はどれもそうです。もし学ぶべき相手(師匠)よりもステータスが高いのならば、その組織が設ける教育制度(学ぶべきこと)を無視することもありえます。そのような行為は商工ギルドの役割や結束を破壊することになるでしょう。


 大きな利点としては、もし能力値が努力によって成長するのだとしたら、教育方法の確立はスムーズに進むという点でしょう。なにしろ、行動が数値となって表れるのです。師弟関係は一気に育成ゲームの様相を呈することになるでしょう。


 ギルドという小さな範囲でも、これだけのことが起こりうると想像できます。まだまだ考えていけば様々なことが出てくるでしょう。



 では規模を広げて、領主や王族などの統治者についてはどうでしょうか。


 彼等はすべての項目において、庶民とは別格であることが求められています。ステータスについては注意を払うことかと思われます。ステータスを悪魔の技術として封印する流れになることも考えられます。

 有意義に使うとすれば例えば後継者に悩むことはなくなるでしょう。生まれた直後にステータスを見ることによって、どの子供を重点的に育てるべきか、という問題に悩むことはなくなります。


 しかし先も書きましたが、ステータスの表示というのは、人としての優劣を明確に数値に表すということです。当然支配者として相応しいかどうか、という判断基準にも用いられることでしょう。


 もしステータスがなければ、人としての優劣をはっきりしめす、ということはできなくなります。王が奇跡の力を持っているという設定で王族の地位を確実にする、という手はステータス表示がないからできることです。

 実際、王に奇跡の力などなくても、領地の運営はできます。しかし、あるといっておいた方がより安定した統治ができるのです。それを暴く機能があるならば、何が起こるでしょうか。



 これは全く論理的な話ではないのですが、もしもの話としてお読みください。

 とあるところに芸術家を目指している若者がいたとします。彼は知識量、技量において、あまり優れているとは言い難かったのです。しかしそれでもあきらめず、周りの応援もあって、創作活動を続けておりました。やがてある日作品が貴族の目に留まり、やがてその分野に流行を生み出しました。彼は人にはない独特な感覚を持っており、彼の作品は人々に今までない新鮮さと感動を呼びおこしたのです。


 これはよくある話ではあります。

 しかし、これにステータス表示というものがあったらどうでしょう。彼は初期の段階で画家になることを諦めていたでしょう。そして芸術の発展という可能性が奪われていたのです。

 他の例として、学校の入学試験は、ステータスによってその合否が決まるのです。


 これは重大なことです。

 さらに、もしステータスが大体親から引き継がれるものだとしたらどうでしょう。農民からは農民しか生まれないということになるし、農民の子は農民であるべきだ、という思想は根強く残るでしょう。


 人は結果が見えていないから、頑張るのです。ステータスは今の現実を明確に表示するだけのものかもしれませんが、同時に未来の可能性を見せるものであるという事に異論はないと思います。

 それはさまざまな機会を失わせ、社会の多様化を妨げる一因になる、ということは容易に想像がつくことであります。



 このように、ステータス表示という技術は、「支配層が唱える支配権の根拠」と「職業選択の自由」を打ち砕くものです。


 あらゆる社会にこの二つが確実に必要だ、とは言えません。しかし、これらが不可欠なものであった場面も現実世界には多くあったことでしょう。この二つが全く機能しなくなった世界、というものがどうなってしまうのか、想像ができません。


 また、ステータスによって判断するということはつまり、努力や能力が出した成果を数値上でしか判断できない、する必要がない社会を作り出してしまう、という言い方もできるわけです。これはつまり、人間個々が持つ主観(評価能力)は排除されるということです。一見有用に思えてしまうかもしれませんが、弱者を一方的に排除しかねない非常に危険な考え方です。


 よって、ステータス表示という技術を社会レベルで採用するのは危険だといわざるを得ない、という結論を出させていただきたと思います。個人でひっそりと楽しむにとどめてくのが良いでしょう。


 


 一方的な立場にならないように、という考えはありますが、これが難しいです。

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