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魔法と必要技能 教育について2

前回の続きです。

【詠唱型魔法について】


 詠唱型魔法とは、「呪文を唱えて、望む事象を引き起こす方法」のことです。ファンタジー世界の中で、一番採用率が高いのは、この詠唱型魔法であると思われます。

 呪文や祝詞のようなものを唱え、魔力と引き換えに望んだ効果を得るというものです。気功型との大きな違いは、呪文を覚える必要があることでしょう。

 

 これは些細なことですが、気功型魔法のほとんどは魔力そのものが効果(例えば火の玉)に変化するのに対して、詠唱型魔法は魔力をお金のように精霊や神々、もしくは世界に支払って、その対価として効果を得る場合があるというのも違いでしょう。場合によっては、神学等の知識が求められるかもしれません。


 さて、詠唱型魔法は呪文という知識が存在するので、気功型魔法とは違い、呪文をどのようにして伝えるか、ということに焦点がおかれることになります。


 人に物を伝えるのには、字で示すという方法と、口で伝えるという方法があります。


 筆者はあまり記憶する、という学習方法自体が得意ではないので、電車などで赤いシートをかざしながら本を読む学生を見るとそれだけで感心してしまいますが、大量の情報を伝達する、もしくは学習するのに一般的な方法として、本が挙げられるでしょう。


 本を成立させるには、紙の普及と識字率という課題があります。この2つの歴史を見ると、どうやら中世が成長期だったようです。フランスでは1300年中頃に王個人の図書館ができるくらいですから、本は相当生産されただろうと考えられます。

 とはいえ国家レベルの資金によって本と図書館を作ることは有史以来なされてきましたが、学校という現場で普及させることができると考えるのは不自然です。


 そこで口伝による教育が考えられます。

 口伝だけでは長い時間正確に伝えていくことはできないので、本自体はあることでしょう。教育指導を行う人間、つまり先生は自分が持っている知識が間違いでない事を本で確認しつつ、授業にて口頭伝達によって生徒たちに教えることになるかもしれません。


 この先生が頼りにする本を、格好よく原典本などという事にします。

 ではこの原典本にはどのような文字が書かれているのでしょうか。


 現実世界でのアルファベットの発明は、人類にとって大きなものでした。

 これによって識字率の専門性は少し下がったのです。話し言葉を文字に起こす、という作業がどれほど大変なものなのかはもはや想像もできません。

 例えば、どこかの国の人間が喋っている言葉を、何の頼りもなく文字にしてみようとする作業を思い浮かべるのが近いのかもしれません。その法則性を書きやすい文字で記さなければならないのです。


 しかしアルファベット発明後も文字の専門性は依然高いままでした。知識が生まれ、記される地域が様々であるからです。その結果、話し言葉と書き言葉が乖離するという現象がおこります。

 中世ではラテン語で書かれた書物を理解できるかどうか、というのは専門技能だったので、聖職者が知識を独占するということが起こりました。外国語を習得するのはいまでも困難なことですが、方法がもっと限られていた中世ではさらに困難なことでしょう。


 独占については別にするとしても、これと同じようなことがファンタジー世界でも起こりうると思われます。

 以前に書いた、言語についてという頁において、呪文がオリジナル言語、もしくは外国語であることが非常に多いと触れました。


 呪文は日常で使用する言語とは違う言語なのです。つまり、呪文を記すための文字は専用の物である必要が出てくるのです。

 中世ではラテン語ができるかできないかで、知識量に差(身分格差)が生まれていましたが、話し言葉を文字にし、日常的、実践的な教育がどんどんなされていくと、だんだんと格差は詰まっていったようです。やがてラテン語は必須技能ではなくなってきたのです。


 対して呪文は不変の言語があるわけですから、この差は縮まることはないでしょう。

 おそらく原典本には専用の文字、言うなれば魔法文字によって記された呪文が載っていることになります。

 教師になるには、魔法文字の読み書きという専門技能が必要になってくることでしょう。


 この魔法文字の専門性の高さはある問題を引き起こします。


 それは、冒険者が使用できる魔法の種類が限られるという点です。いかんせん呪文は記憶しなければならないし、忘れないようにしようにも文字に書き留めておく、ということが魔法文字未習得者には不可能なのです。


 とはいえ、詠唱型魔法は魔力と呪文さえあれば発動できるので、余りに長いものでなければ、記憶して使用することができることでしょう。

 中世では祈りの文句をどれほど暗記できるか、というのは一つの技能だったようですが、魔法使いも同じような資質が求められたことでしょう。人間がどれほどの呪文を暗記できるのかはわかりませんが、例えば、クラシック音楽の演奏者は学生であっても3時間程度のプログラムならば覚えることが可能です。


 しかし魔法文字を扱える者、もしくは大量の魔法を暗記している者は、そもそも冒険者などにはならないでしょう。実入りの良い仕事は他にもあるはずです。


 モンスターと対峙しながら魔術書をぱらぱらとめくる魔法使いのは定番の一つですが、彼等には国王の命令や復讐心などといったよっぽどの事情があるのでしょう。

 そういった描写さえクリアしてしまえば、修練と才能によって、旅先でも様々な呪文を駆使する魔法使いを登場させることは不可能ではないとは思います。


 このように詠唱型魔法には、魔法文字自体の専門性の高さ、記憶力が特殊技能である、という問題があります。

 手軽のように見えますが、一般的な普及を目指すのは、少し現実性に欠けるように思えます。



【筆記型魔法について】


 筆記型魔法とは、「何らかの方法で魔法陣を書き、そこに魔力を込めることで効果を得る方法」のことを指します。

 何らかの方法とは、チョークで床に書くだとか、杖で空中に書くということです。その魔法陣に魔力を込めることで、魔法陣が作動し、魔法陣が示す結果を出現させる、というのが筆記型魔法の概要です。


 詠唱型魔法と違う点は、図形を正しく書く技能が求められるという点です。生物の一部や鉱物を使うことで効果を増すことができるという点は優れているといえますが、普及や教育のためには大きな課題となるでしょう。


 転生主人公の半分くらいは魔法陣の上に召喚されるし、世界の在り方に干渉するほど巨大な力を行使するには一番適した方法のようです。

 巨大な成果を得る分、念入りに準備する様子はよく見られます。様々な知識や技能が必要になることは想像に難くありません。


 まず、作図の技能が必要になってきます。コンパスとメモリのない定規を用いて、様々な図形がかけなければなりません。もし複雑な幾何学模様を書くならば、数学の知識が求められるでしょう。

 そして、生物の一部や鉱物といったものを扱う以上、それにまつわる知識が必要になるでしょう。あえて言うなら錬金術の知識がこれに当たります。

 

 魔法陣の中に「詠唱型魔法で登場したタイプの魔法文字」を書き記す必要は、おそらくないでしょう。そのタイプの魔法文字は、人間が聴覚による情報を視覚でも得られるように開発したものであり、それ自体に魔法的な効力がないと考えられるからです。

 しかし、魔法文字がそもそも呪術的な発見というところに発端があるのならば、書きこむ必要があるでしょう。そのような魔法文字はむしろ小規模な図形と捉えるべきとは思いますが、おそらく正確に書かなければなりません。決して専門性を下げるものではないと思われます。


 このような魔法の使用方法が一般的だった場合、普及率は恐ろしく下がるでしょう。

 貴族が専門の学者を雇ってその研究を進めさせるにとどまるのです。その反面強力な効果が得られるわけですが、利便性という意味では著しく落ち込みます。


 では戦闘中に杖の先で地面にササッと書いたり、空中に杖を振って描く場合はどうでしょう。

 この程度であれば、規模的にも教育難度的にも大きく下がることになります。むしろ、気功型魔法や詠唱型魔法よりも、容易かもしれません。


 その教育方法は、スポーツや芸術に関する技術という要素が強くなることになるでしょう。棒切れで空中に円を書いたり、線を引っ張ったりするという行為自体は、肉体的な問題が強くなります。

 ある程度の算数の知識があれば、あとはひたすら反復練習あるのみです。


 もちろん望む効果によって図形も変えなければなりませんが、それは詠唱型魔法と大差ないでしょう。


 このように筆記型魔法の特徴を上げると、設定上の利点が一つ見えてきます。


 大規模な魔法を貴族や教会が独占しているが、実生活に必要な魔法程度ならば庶民も使える、というように住み分けができるという点です。

 気功型魔法も詠唱型魔法も、行使する上では経済的な面で安価であり、使用上の枷がありません。才能と機会さえあれば誰でも強力な魔法が使えてしまうのです。


 その点筆記型魔法ならば、専門的な数学の知識や製図技能、鉱物などの高価な材料など、経済的な難易度を自由に上げる事ができる要因が複数あるのです。


 筆記型魔法を主体として気功型魔法や詠唱型魔法が存在しない、という世界を持つ小説にはあまり出会ったことはありません。おそらく戦闘描写が地味、というかそもそも図形を描写するのがめんどくさい、という問題があるのだとは思います。


 とはいえ小説が持つバトルの疾走感や迫力などは、漫画やアニメなどと比べたら及ばないのですから、筆記型魔法を導入してみるのも面白いかもしれません。



 本小説全般にわたって言えることですが、結論ありきで書いているわけではありません。むしろ書いている最中はどこに着地するのか分かっていないときの方が多いです。いくつかの条件の有無によって結論が180度変わってしまう物であるという事をご留意ください。


 本格的に書き始めて半年、今回でなんと20万字に到達したようです。キャラクター名などの固有名詞や会話が皆無、考察のみという状況で、よくここまで書けたなと思います。皆様のご声援あってのことだと思います。終わりが見えてきた本小説ですが、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

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