火の魔法について2 大砲と技術
前回は火の魔法をもとに、魔法のルーツや流れを考えてみました。
しかし大多数の人にとって、そんなことは割とどうでもいいことなのではないかと書き終わってから思ったため、今回は現実世界に存在した技術への影響について色々考えてみたいと思います。
ありとあらゆる重要技術に用いられる火であるだけに、それが魔法によって発生できるとなった時、如何なる変化が起こりそうか、という点はなかなか興味深いと思います。
とはいえ、技術といえば学術的な知識が必要になる分野です。
筆者のにわか知識では到底太刀打ちできるものではなさそうだし、それゆえに本小説の目的として、ファンタジーの要素を学術的に分析する、というものは含まれておりません。
例えば、アニメやゲームなどで描写される火の玉は赤であることが多いことから、それらが大体800度くらいかな、と決めることは調べればできます。
鉄の融点が1500度程度だから、火の魔法の存在は鉄鋼業にあまり影響がないかも、とすることはできるでしょう。金属の盾で火炎を防ぐような描写もみることがあります。
しかし、そのメカニズムの如何によっては周りは数千度になるかもしれません。マッチも着火直後は2500度程度になるそうです。そんなことを言われても、わけが分かりません。
数個のキーワードをポチポチと検索しただけでもこれだけの情報は得ることができるし、そもそもだからどうしたという話です。
ファンタジー世界なのですから、鉄を融解させる魔法があるかもしれません。属性的に考えれば、それが土魔法でも良いのです。
というわけでこういった物理的な路線では、技術にどれほどの影響がでそうか、ということは成果を得ることはできないし、もしできるとしても筆者が試みてもどうしようもないでしょう。
--戦争用の魔法--
本小説が行ってきたアプローチはすでにある事実を見ながら、そこにありえない要素を入れるというものです。
例えば火の魔法があることで、戦争はどう変わりそうかということは重要です。魔王がいる世界では人間同士は友好関係を結ぶだろうから、人間同士の戦いは起きないのではないか、と考えましたがここではおいておきます。
火は生物にとって致命的な存在であるため、そこにあるだけで敵にとっては脅威となります。世界中の指揮官が戦争に火を用いようと考えたことでしょう。
しかし火は簡単に制御できるものではないため、ノウハウと入念な準備と運が必要でした。それらが整えば、絶大な威力を発揮したのです。
これが魔法によってある程度簡単に制御できるとしたら、どうなるでしょう。
それぞれがどれほど火を恐れるかはわかりませんが、基本的には動物は火を嫌がります。例えば蜂などは煙も嫌がるそうです。山火事にたいする防衛本能だという説もあります。
同じように馬がもし火を恐れるようなら、魔法使いが一斉に火の弾を放つだけで、騎兵は突撃ができなくなるかもしれません。
人間だって火に囲まれたら(現実的な火ではなく単に高温の塊だとしても)死んでしまいますので、沢山の歩兵で構成される槍衾も、火の玉一発で崩されてしまうでしょう。
槍衾を崩し、馬の突撃を止める、といえばもはや近代兵器です。
こうなってしまってはせっかくの中世設定も活かされることはなくなるでしょう。
それはとても残念だし、やはり攻撃側が勝利し続ける、ということは軍事史的にみてもありえません。火の玉一発が脅威になる世界で、それを防御する手立てを開発しない人々、というのは考えにくいと思います。
そうすると、やはり防御魔法の存在はファンタジー小説に見られるよりも、もっと進んでいる可能性があります。
火の魔法を防ぐのなら、それはもしかしたら水の魔法かもしれません。魔法には現実世界とは違って弱点関係なるものが存在するのです。
ただこの設定を使ってしまうと危険な点もあります。それはスパイラルに陥るということです。
水魔法を打ち砕くには土魔法、それを防ぐための風魔法、でも火で、しかし水で、とぐるぐる回る羽目になるでしょう(属性についての話は次回の予定)。
そうなってくるともはや攻撃魔法と防御魔法、というジャンルに統合されるかもしれません。
まったく違ったアプローチによる破壊方法の開発が早急に求められることになります。もしかしたら、これが現実世界でいう銃の開発にあたるのかもしれません。
前の例に則って言及するならば、火の属性と水に打ち勝てる土の属性の合成魔法、という事になります。
火と土。あれ、これって火薬と銃弾に相当するんじゃ……、というところまで空想が行きついたところでこの話は締めたいと思います。
--蒸気機関の可能性--
もう一つ大きな技術といえば、蒸気機関があります。
ファンタジー世界には蒸気機関は存在しうるのか、という点については比較的多くの考察がなされているようでもあります。魔法があるなら蒸気機関などいらないのではないか、という論調が多いように思えますし、いや十分可能だ、というものも読んだ覚えがあります。
本小説としては、生まれないのではないか、もしくは少なくても現実世界と同じようにはいかないだろうという立場を取らなければなりません。
というのも今までの頁で、鉄鋼技術は現実世界よりも大幅に遅れるだろうとしたためです。
その原因は大砲です。大砲は鉄の筒と火薬を使って砲弾を目標のいる方向へ飛ばす兵器です。しかし魔法はどれもこれもとりあえず前に向かってすっ飛んでいくようなので、指向性を与える機構はいらないだろう、と考えることができます。
したがって、砲弾を飛ばすにしても砲弾に何かしらの魔法、例えば風の魔法でも付与するだけでも十分な破壊力を生み出すことでしょう。
そうするとあの頑丈で均一でなければならない筒を開発する必要がなくなるわけで、鉄鋼業の発達や原材料および燃料の需要は低くなるのです。
(実用的なレベルの)蒸気機関はもともと炭鉱での利益を上げるために開発されました。もし鉄を作るための石炭が必要なくなれば、蒸気機関の登場も無かったのではないかという事になります。大砲の開発競争、生産競争が起こらなければ鉱山技術の発達もなく、それに伴う蒸気機関も登場することはないかもしれません。
仮に必要になっていたとしても、鉱山での排水や運搬といった作業にはまず魔法の力を借りようとすることでしょう。
このように魔法が登場することで、さらに発展するであろう技術というものはあまりなく、逆にいくつかの技術が魔法によってその座を奪われて(もしくはそのあおりを受けて)消滅する、ということが考えられます。
魔法によって登場するという技術は、どのようなものがあるのかという話にもなりますが、それは設定ごとにまちまちでしょう。世界を構築する際には、技術の取捨選択という面から世界を考えてみるのも面白いでしょう。
銃の件は狙ったわけでもなんでもなく、偶然行き着いたものです。この路線で行くなら、防御魔法は水と風の合成魔法のはずなので、物理学と鉄鋼業の二人三脚である現実世界の防御方法とは全く違ったものになるでしょう。