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幻想歴史読本 ~ファンタジーを考える~  作者: 走るツクネ
モンスターにまつわる話
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悪魔、闇の軍勢について 現実世界との相違点まとめ

 今回は人類と敵対する勢力がいることで、どのような違いが生まれるのかという事を考えていきます。

 今までの十数万文字のまとめ的なものにしようと書き始めたのですが、いくつか書きながら新たに考えた事も足されています。

 人間の敵対している一大勢力として悪魔、もしくは闇の軍勢があります。


 彼等は魔界という場所に住んでいますが、大陸丸ごとだったり別の世界だったりします。人間とは完全に勢力を分けている場合がほとんどです。


 何らかの理由で人間の世界に侵攻していて、両者ともに明確に敵という認識を持っています。

 

 今までに書いてきたすべてのモンスターは、この闇の軍勢の一部である場合が多く、瘴気や悪意によって凶暴化、モンスター化します。



 魔界には魔王がいて、実力主義によって上から下まで位階が決定づけられています。王と言いつつも世襲制をとっている様子はなく、君主制とは言えないでしょう。


 秩序のなさというイメージなのか、暴力や独裁に対する恐怖なのかはわかりませんが、魔界は独裁制を取るように描写されることが多いでしょう。

 社会性を持たない実力主義によりすばやく国内統一がなされるために、外に向かおうとする意思が形成されるのです。


 魔力を糧としたり、食事の必要がないと書かれることが多いために、食糧を消費する必要がありません。そのため基本的な社会体制が見えることはあまりなく、他のモンスター同様どのような生産活動をしているかは不明です。


 対して彼らの人間に対する興味は尽きることがなく、どうにか人間を支配したり滅ぼそうと必死です。戦いや人間のネガティブな感情、人間の持つ魔力などに魅力を感じている場合が多いでしょう。



--敵対勢力と人間社会--


 こういった悪魔等の明確な敵対勢力が存在することで人間社会はどのような変化をするでしょうか。


 社会を見るときには、いくつかの項目に沿っていくと分かりやすくまとめられるのではないか、というのは今まで書いてきた通りです。


 政治、軍事、経済、技術、宗教、思想が主な要素として挙げられるでしょう。


 これらにファンタジーの三大要素(だと思われる)魔法、冒険者、モンスターを加えてみたときに、果たして中世はどのような社会になるのか、というのが本小説の全体にわたってのテーマとなっていました。


 今までに様々な事柄にてこのことに触れてきましたが、今回まとめのようなことを試みてみたいと思います。もちろん例外は山のようにあるので、今まで通り、例の一つとしてみていただければと思います。



 国家間の争いはモンスターという巨大な敵勢力によって起こらなかったのではないか、というのは史実と大きく異なる点です。異なる国家間で支配の正当性をめぐって争う、ということがなくなるのです。


 人間のみを問答無用で殺しにかかってくる生物は、この世には存在しません。

 モンスターがいつ、どのような形で、どんな目的で生まれたのかはわかりませんが、彼等がいることで人間集団同士の交流は困難になり、逆に団結を強めます。

 人間同士の争いによって生まれた剣は、ファンタジー世界では違う目的のために生み出されたのではないか、と考えられます。

 また、モンスターは経済の流通にも支障をきたす恐れがありますが、少なくても史実レベルの流通は確認できる世界が大多数でしょう。


 つまり隊商は防衛力を身につけなければなりません。

 なんらかの軍隊を使うわけですが、これが国家的な軍事力なのか、私的な軍事力なのかということは、冒険者という職業の成り立ちや性質を決定づけるのに重要な分水嶺だろうと思われます。



【冒険者】


 冒険者の存在は、中世にかかわるもろもろを変える可能性があります。


 まず騎士の権力の低下です。その武力によって存在価値が認められているので、そのお株を奪うかのような冒険者によって、騎士の地位は低下することでしょう。


 また、闘争に関わる技術は進歩する、という特徴があります。現実世界ならば鉄鋼技術が大きく進歩しました。


 冒険者の性質的に、重さという枷は無視できないものになるでしょう。鎧やクロスボウ、大砲などといった金属製品のレベルは史実よりも大きく劣ったはずでしょう。


 しかし、補助技術としての魔法も加味しなければなりません。

 鉄は使い勝手が良いのですが、炉を高温にしなければ使用できない、という条件があります。もし鉄を容易に溶かすことができる炉が魔法によって完成したならば、製鉄技術はむしろ安定していたかもしれません。

 また、オリハルコンやミスリルといった架空金属の存在によって、鉄鋼業界の進歩度は未知数なものになっています。


 とはいえ、需要の低さのために鉄に関するノウハウの蓄積は史実から大きく遅れるでしょう。将来的に、産業の米、鉄は国家なり、といった名言(?)が生まれるほどの世界にはならないだろうと考えられます。


 悪魔には銀の武器が有効、とされることも多いために、銀という分野は大きく進歩するかもしれません。もちろん銀は高価なために、疑似的な銀や代替資源の研究といった分野の研究が早くから進められる可能性もあります。



 軍事力の高さは発言力の高さに直結します。

 冒険者やそれらを統率する冒険者ギルドは大きな発言力を持つことが考えられます。


 彼等は自由な存在として描かれることがありますが、それも武力の高さ故でしょう。

 一方で、王、領主、役人といった、国の上に立つ人々は、冒険者をどうにかして従わせなければなりません。


 彼等を支配できるかできないかで、社会体制の成熟度にも差が出てくるでしょう。

 フランスカペー王朝は早期から中央集権を目標にし、それに成功しています。イギリスでは同時期に弱いながらも官僚制が誕生しています。

 中央集権という分野では東洋が一歩先んじていましたが、近世の幕開けの種となるいくつかの要素は、すでに欧州中世にも登場しているのです。


 普通に考えれば圧倒的武力を持つ冒険者や勇者が政治的にも優位に立ちそうですが、王侯貴族にも望みは残されています。



【宗教】


 悪魔という敵対勢力が登場することで、支配体制がどのように変化するかは様々でしょう。

 襲撃がどの程度の期間されていたのかというのも重要です。イタリアの傭兵の時がそうだったように、始めは今の事態が一時的なものなのか常習化する可能性があるのか、ということは分からないのです。


 例えば緊急事態には、非日常的な社会体制が敷かれることが度々あります。軍事政権などはクーデターによってその地位を得て、軍事力を盾に強力な統制を行います。社会が危機に瀕した際に、一時的に作用する類のものです。例えるなら、病気の時に発熱するようなものでしょう。もし度が過ぎたり、時期が長ければ崩壊してしまいます。

 このような事態になった場合には、冒険者出身の人物がこの役目を負う可能性は低くないでしょう。


 一方で長期化している状況ならば、宗教の存在は見過ごせません。

 より実践的な儀式によって発言権を格段に強めているであろう宗教は、政治にも影響を及ぼすことでしょう。勇者も神が力を授ける場合が多く、宗教の力が史実より弱いことは、特筆されるべき事柄がない限りないでしょう。

 むしろ冒険者は宗教の面では弱く、王侯貴族は宗教に支配体制維持の活路を見出すかもしれません。


 史実中世にて宗教の力が強まると、王は自らの権利のよりどころを神秘に求めるようになります。イエスキリストに習ったのか、癒しの力を持っているのだ、と誇示するのです。

 すでに宗教が十分に民の心に浸透していたために、神聖性や霊威と王を結びつけることは容易かつ有効な手段でした。


 王権は神から与えられたものだから国王最強、というわけです。対抗する王に比べて、より強い根拠が必要になった、という理由があったりします。

 また、王権は宗教的な説話によってその権威を保障されるのですが、その結果、宗教団体が持つ権力、教権にも威力を発揮します。


 これを王権神授説といい、これは絶対王政につながっていきます。



 宗教がより強い力を持つであろうファンタジー世界であれば、同様の流れが起きる可能性は高いでしょう。

 武力を持つ冒険者に対する、王侯貴族の強力な一手となりそうです。

  

 この流れを証明する大きな要素が一つあります。

 お城の宝物庫にある、数々の一級品です。


 伝承がある、高い効果を持っている、とんでもなく貴重である、などなど、様々なお宝をファンタジー世界の国王は所持しています。

 そしてそれは実際に王自らの手によって、使用、もしくは貸与され大きな成果を上げます。


 史実でも権力を示すかのように、数々の品が宝物庫に蓄えられてきました。

 敵地で分捕ってきた品や、王が趣味で作らせた品もたくさんありますが、伝説を持った一品、というのも存在します。

 剣であったり、指輪であったりと様々ですが、これらは王権神授説の小道具として使われたという一面を持っているのです。


 ファンタジーに登場する闇を打ち払う宝剣などは、確実に王の権利を強化したことでしょう。さらにそれを国王が貸与する、授ける、という形を取れば、冒険者を従える事になるでしょう。



 逆に神秘を起こす宗教団体は、王権の大きな敵になるかもしれません。

 というのも、王権の根拠が揺らぎ始めるからです。奇跡の保有によって、王権よりも教権が強くなれば、神権政治が登場することになります。

 ファンタジーにおける神秘や奇跡とは、回復魔法や闇を打ち払う道具です。どちらも宗教とかかわりが深いものですが、国王はなんとか奪取しなければ未来はありません。


 王権神授と神権政治は字面の印象は似ていますが、物語にすれば全く違った雰囲気、描写になりそうです。



【最後に】


 悪魔や闇の勢力、モンスターが登場することで、このような変化が起こることが予想されます。

 

 もちろんこれらは、いつどのように登場するかで変わってきます。勇者という存在を考慮すれば、さらに複雑になっていくことでしょう。

 太古から中世に至るまで、ずっと人間の敵対勢力として悪魔やモンスターが存在していたと考えるならば、すべてが変わってくるかもしれません。


 なにしろ常時戦争体勢になるのです。人々の社会体制、思想に重大な影響を及ぼすでしょう。

 例えば戦える力が今現在あるかどうか、これから期待できるか、というのは重要な価値基準になりそうです。余剰生産がどのタイミングになって生まれるかもわかりません。迫害や略奪がどの程度起こるかも謎です。

 宗教が全時代、全地域で一貫した内容になり、悪魔についてのノウハウが蓄積された、研究書としての一面を持つかもしれません。武器や戦術が、すべて対悪魔仕様になる可能性もあります。


 よく、物語序盤に世界観をだらだら説明してはならない、と言われているのを目にします。

 その理由としては読者がついていけない、だれる、無意味だ、覚えきれない、自己満足だ、などなど読み手視点で挙げられています。


 本小説的には、それに加えてこれだけの項目で矛盾点を生み出してしまう危険性を挙げておきたいと思います。

 神代の時代から悪魔と争っていて、神の尖兵として人間がこの世に遣わされたとしようものなら、大変なことが起きてしまいそうです。


 やはり世界のことは、曖昧にしておいた方がよさそうです。そういう意味でも、転生物の主人公のように、世界のことを全く知らないし、その価値観に従う必要もない登場人物は、非常にリアルに描きだすための有効な手段だと思います。

 転生者の困難はこれまでに何回か触れてきた通りですが、「数千年にもわたる抗争の中に生きてきた人々」の思想や言動を整合性を取りながらリアルに描きだすより、よほど現実味がある話なのではないか、というのが今回考えてみて持った感想です。


 このモンスターがこういう行動をとったら、こんな生態だったら、などといった具体的なものをいただけたら、それについても書かせていただきます。

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