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幻想歴史読本 ~ファンタジーを考える~  作者: 走るツクネ
モンスターにまつわる話
43/84

水棲生物について 人間社会への影響

 水の中に住むモンスターと人間社会は、お互いにどのような影響を与えるのか考えていきたいと思います。

水棲生物について


 ファンタジー小説では陸上生物に比べて、水棲生物について言及されることは少ないと思います。我々人類が陸で生活するために、物語に登場しない割合が高くなっているのでしょう。

 現実での水棲生物の豊かさと比べて、何となく寂しく思えますが、これも物語の進行上仕方がないことでしょう。

 本小説的にも、ここで生物学や進化論などを展開してみたところで話は始まりません。


 そこで「あまり物語に登場しない」という点から水棲生物の生態を探ってみたいと思います。



【農業と歴史の始まりについて】


 現実世界で人類の歴史はどこから始まるのか、ということは定かではありません。我々が受けた教育ではアウストラロピテクスが最初で、クロマニヨン原人だとか北京原人、ネアンデルタール人が続きました(ゆとり教育が終わった今ではもっと詳しいことを教えるのでしょうか?)。

 ヒトがいつどのように進化してどこで発展の火種をこしらえたか、ということは問題にされないようです。考古学、古生物学、古人類学などがありますので、歴史学は蚊帳の外なのでしょう。ただ紀元前3000年くらいに、ペルシャ湾の肥沃な大地でシュメール王国が誕生したのが歴史の始まりだろうとされます。


 このシュメール王国が何故発展出来たのか、ということはいつかまとめてみたいと思っていましたが、とにかく最大の特徴は河川でした。

 農耕に活路を見出した人々は、次々に農地を広げようとしました。紀元前8500年程度にはそのような生活をしていたのだろうという痕跡が見つかっているようです。例えば長野でもそのような史料が見つかっているし、ずいぶんと前から様々なところで農地を展開していたです。


 農耕の発見と国家(ここではある程度文明を育てた集団、という意味で国家という言葉を使わせていただきます)の出現を短絡的に結びつけることができない、というのはこの5000年の遅滞を見ればわかります。


 農耕の技術を発見した人類ですが、人間が農作物から栄養を摂る場合、どうしても不足する栄養があります。

 ミネラル、いわゆる塩です。農耕だけでは人類は生きていくことはできなかったのでした。


 塩は重要な資源です。初期にはこれを独占的に採取できる位置に集団ができましたが、今度は農耕がうまくいきません。


 塩も取れて、農耕もできる土地。それこそがシュメールです。チグリスユーフラテス川の下流、豊かな土壌に国家が形成されることになったのでした。


 初期の農耕は灌漑が頼りでした。氾濫の時期に決まって上流から豊かな栄養分を含んだ土が流れてくるし、水を引き入れることで乾燥した土地でも作物は育ったのでした。安定した供給は余剰生産を生み出し、技術者や支配者を産みました。



【人間の生産活動と河川への影響】


 しかし灌漑には欠点があります。

 河川の水量は無限ではないということです。水の権利を巡って一帯の支配者はうまくやらなければなりませんでした。たいていの場合は軍隊を指揮してどうにかしようとします。


 現実世界では水利権と農産物について、他集落との折り合いや、騎馬民族の襲撃に備えて軍隊を組織しましたが、ファンタジー世界ではもう一つ勢力があります。


 そうです、水棲生物です。


 このような状態になれば、当然栄養分を含んだ水は海に放出されなくなるでしょう。

 続くそれ以降の時代でも、文明の営みは絶えず河川には影響を与え続けます。人間の文明は必ず木材を伐採しなければなりません。例えば東南アジアのマングローブとエビのように、河川付近で人間が経済活動を行えば、河口付近の生態系は変わることになるでしょう。


 森林に人間の活動が影響して水質が変わるとプランクトンは減少し、その上に形成される甲殻類、小魚、中魚などの食物連鎖はことごとく破壊される可能性があります。


 こうした事態に直面した際、水棲生物がとる行動はどうでしょうか。

 前述の通り、水棲生物の大規模攻勢はあまり起こりません。己の縄張りが損なわれようとした時に、それに立ち向かおうとする様子がないのです。


 つまり、水棲生物の多くは縄張りを強く持たないモンスターであると考えることができます。人間でいう塩や水源といった争いの種になるものがないのでしょう。食料や資源についても代替が効く、他地域に移動することで解決できる、という程度のものであると考えることができるでしょう。


 もしくは反対に、食料が無くなったから船乗りを襲うのかもしれません。鉱物汚染によって大型化した水棲生物がモンスターになるのかもしれません。

 もしファンタジー小説をもとに人間の独善性を書くのなら、一つ組み込んでみるのも面白いかもしれません。



【もし攻撃的な水棲生物がいたら】


 人を襲う獰猛な海洋生物はどのような影響を人間社会に与えるでしょう。

 何度か書きましたが、人間が海を利用するには二つの目的がありました。漁業と海運です。


 船は多くの荷物を運ぶことができるため、運搬や交易に昔から使われていました。


 大航海時代が始まれば更にその動きは活発になり、幾つかの国では強力な飛び道具を有していたがために国力を増強することができた、というのは以前書いた通りです。


 この海運を行う船舶は、掠奪者にとって魅力的な獲物でした。そこで交易船は防衛力を身につけなければなりません。

 近接戦になれば危険が大きくなるので、技術力が許すならば遠距離攻撃を行うことが望ましいでしょう。積載能力を割いて巨大な兵器を積むにしろ、お金を払って射撃手を乗せるにしろ、それは利益を減らす直接的な原因になります。


 商業的な成功を収めることと、安全に航海を終了させることは投資家にとっては同一の意味合いを持っていますが、船主にとっては違ったようです。

 収入と安全という両立させることができない要素を巡って、現場の指揮官である船長と争うことになったりしました。

 獰猛な海洋生物の存在は、船長の主張を通すことになるでしょう。しかし運搬も重要なので、軽量化された強力な兵器が重要になってきます。いつか書きましたが、海を生活とした民族が力を持つかもしれません。


 仮に史実中世に強力な海の魔物が存在し、海運能力が制限された場合、木材不足は解消されなかっただろうし、ドイツのハンザ同盟も育たなかったか、もしくは更に巨大な海軍戦力を保有した団体になったことでしょう。

 海が危険なら、イギリスにサクソン人やデーン人などがやってくることもなかったし、ノルマン人もあそこまで力を得ることは難しかったでしょう。



 水は生物にとってなくてはならないものです。

 人間社会にとっては農業、商業、軍事などに直接的に関わってきます。今とはバランスの違う国家や技術史があったことでしょう。そこに生息するモンスターを考えることによって、人間社会のあり方も見えてくるかもしれません。




 この章の1話目(第37話)にも追記しましたが、小説によってモンスターの設定は様々です。この章のすべての話題がそうなのですが、"もしその小説のモンスターがこのような形態をとるならば"という仮定のもとに"こうかもしれない"という話を進めています。

 このモンスターは"こうでなければならない"という考えは少しも持っていませんので、もしそういうニュアンスの文が出てきたらご注意ください。

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