エルフについて その生態と社会体制
第三章開始です。民族や社会、文化など、範囲を広げて考察します。
今回は定番ともいえるエルフです。
生態は人間と違うので、様々な違いが生まれる事と思います。
ファンタジー小説には様々な種族が登場します。エルフを筆頭にドワーフ、リザードマン、マーマン、小人族、妖精族、獣人族がよく出てくるでしょう。
モンスターの存在を見ると、進化の過程で魔力は多様性を生むのだと考えられます。
それは霊長類においても顕著で、様々な亜人類がファンタジー世界には登場します。知性を持っていなかったり、人間に敵対行動をとったりと色々なバリエーションがあります。
今回はそんな中でも特にメジャーなエルフについて見ていきたいと思います。
彼らは森林の中に暮らしています。
耳が長くとんがっていて、手足がすらっとしていて眉目秀麗であり、弓矢の扱いが上手い。人族よりは長生きで、代わりにあまり繁殖能力は強くないでしょう。魔法に関しては高い技術力を持っている場合もあります。
森林をテリトリーとしている場合がほとんどですが、他の種族と通商条約を結んでいるか否かはファンタジー世界ごとに異なっています。排他的な態度をとることも多いし、そもそも人族から隠れて生活している場合もあります。
だいたいエルフはこの様な存在でしょうか。
--エルフの食生活と指導者、種の多様性--
彼らは狩猟採取のみで生きているように思えます。エルフが森を切り開いて農耕をする様はイメージし難いでしょう。現に、背が高く足が長いというのは、肉を主に食べる人種の特徴でもあります。
そんなエルフの食糧事情は人間と比べてどうだったのでしょうか。エルフは農耕民族でもなければ騎馬民族とも言いがたく、彼等の居住地の状況からはどのような食生活を送っているのか想像するのは困難です。
以前何かの書籍で、だいたい人間が狩猟採取生活で暮らしていくには1人当たり2平方キロメートルが必要らしい、と読んだ覚えがあります。
この数字がどれ程信用できるかはわかりませんが、確かに農業による安定した収穫が望めなければ、相当広い土地が必要であることは想像に難くありません。
また、出生率が低いという事は、強靭な生命力を有しているという証拠でもあります。
現実世界でも女性より男性のほうがわずかに生まれる確率が高いらしく、そして平均寿命は女性の方が高いのです。
もし仮に人間と必要な栄養が同じだとすれば、エルフとしても農業を選択したほうが安定するでしょう。
生産の安定性を計る一番大きな理由は、人口の増加です。個体数を増やそうと人類は様々な苦労を重ねてきました。
その初期の方に属するのが農業の発見であり、定住生活の始まりでもあります。
農耕は強力な指導者を生み出します。長い期間かかる大掛かりな仕事を皆でこなさなければならないからです。
農耕技術の一つであった蓄財は格差の原因でもあります。
これらの出来上がった要素を成り立たせるために、人類は様々な社会体制を生み出し選択してきました。農耕が指導者と財産を生み出し、より発達した社会への原動力となったのです。
個体の知恵や腕力の優劣は上下関係を作り出しますが、エルフの中には能力による上下関係があることは珍しいように思えます。
エルフの一族の長は自然に出来上がっていった格差から生まれたものではなく、年功序列、血統、もしくは超自然的存在からの神託などで選出されている場合が多いようです。
専制政治といえなくもないでしょう(独裁者との違いは、選出される時点での地位が、他の人間と同等でない点にあります)。長老会議のようなものが存在している場合も珍しくありません。
個人の能力に差がないので、生きてきた時間や精霊等の上位種からの推薦などが、指導者の根拠となるのです。
しかし、特異性を持った個体が現れなければ強力な指導者は生まれません。
人ひとりが成す仕事の成果など、たかが知れているものです。大勢をまとめ上げる存在というのは、大きな仕事を成立される条件でもあります。
たとえば、このような体制をもつエルフは、治水工事を行うことはできないでしょう。
そして、皆平均的で振れ幅が少なく変異体が生まれないということは、環境や状況の変化に弱いという致命的な欠点があります。
手先が器用なもの、美的センスが優れている者、計算が得意なもの、腕っぷしに自信があるものなど、多様性があってこそ時勢の需要に応じることができるのです。
これらが彼等の生活様式からうかがえる特徴です。ある部分で非常に高度な文明を持っていながら、基本的には史実太古のような社会を維持している、なんとも奇妙な種族であるということができるでしょう。
--エルフの社会制度とは--
このように人間の尺度でみればエルフの取る生活様式は不合理極まりありません。
しかし、(ファンタジー世界の中ではありますが)実際にエルフは文化圏を維持し続けています。
人口が少なく強力な指導者もいない状況で、それが可能であるのはなぜでしょう。
人口が増えればたくさんの仕事をこなせ、他の生物に対しても、他の家に対しても優位に立つことができます。
人間は人口を上げるために生産性の向上を図ったし、増えた人口をまとめ上げるために世相にあった社会制度を開発しました。
それなのにエルフは人口を増やす努力をしているようには見えません。
逆にそれだけ何かが発達していると考えることができるのではないでしょうか。
一つ上げられるのが、種族としての完成度が人間より高いということです。
強靭な肉体に寿命をもっていると書かれることが多いエルフです。
彼らエルフからしたら、人間はオラウータンのように見えているかもしれません。
いわく、人間は最も自分たちに近しい位置まで進化しえた種族だ、と。
事実、自尊心が高く、人間や他の種族に対して見下したような態度をとるエルフが小説の中に登場することはよくあります。
先ほどはエルフ社会の不合理な点を書き連ねましたが、一方で、現実世界の人間が構築する社会制度の多くは共通の問題点を抱えています。
それは統治組織の腐敗です。
蓄財という技術が有効性を持つ以上、どうしても免れることのできない流れでしょう。
そして多くの場合、そのままその政権や国家、王朝の致命傷となり、それはそのまま滅びにつながりどんな体制も国家も長くは持たないのです。
しかしエルフはそうではなく、何百年もその社会を維持し続けています。
森という劣悪な居住環境において、少ない人口で、長い間種族を存続させてきているのです。
そう考えていくと、人間が生物学的な限界で実現できない、より高度な社会性を彼らは持っている可能性があります。
彼らのもつ社会制度は、我々には理解できないものかもしれません。
その社会制度は少ない人口に合致した、強力で合理的な制度だとしたらどうでしょう。
高度な社会性を維持するために、あえて狩猟を選んで人口がおさえているとも考えられるのです。
それは彼らの価値観と人間のそれに決定的な差を生み、交流の途絶に繋がったのでしょう。
一見野蛮な生活をしているエルフですが、ファンタジー世界では奴隷として捕らえられることはあっても、未開人野蛮人と蔑視されることは少ないでしょう。
むしろ敬意を払われている節さえあります。失われた技術や古代魔法などの知識を独占しているだけではなく、高度な社会性を保持しているということを、ファンタジー世界の住人は理解しているかもしれません。
--エルフの昔--
ここまで書いてきたので、エルフの一つの可能性を書いてみます。
エルフは人間より前の時代に覇権を唱えた種族ではないかということです。
そのころは人間と同じような生態で人口を増やして行きました。そして技術発展の先に、種の改造に成功します。現実世界でいう、今よりも未来の話です。
この時点で病気に強く、見目麗しく、身体的能力も頭脳レベルも高い、新しいエルフが完成します。
もしかしたら、食糧消費の少なくて済む肉体を作り出したかもしれません。
それはますます人口増加に拍車をかけることとなります。
暫くはよかったことでしょう。
しかし増えすぎた人口をまとめ上げるだけの社会制度をエルフたちは確立することができませんでした。
そこから一気にエルフの滅亡が始まります。様々な理由で争うでしょう。
そして絶望的なまでに数が減りますが、種の改造を行ったエルフはその状況にも耐えることができました。
高度な思考を持ったエルフたちは新たな社会制度をそこで開発することに成功します。
皆が高度故に指導者を生み出すことを忌避し、それによって一大事業を成すことができなくなりましたが、精霊という存在に指導者選別を委任してしまえば、問題も起こりにくくなります。
そこでどうするか。
他の生物の力を借りることにしたのです。それが森林でした。
森林自体がもつ生産能力は、群を抜いているでしょう。森に頼れば農業をする必要もなく、従って人口を増やす必要もありません。敵対勢力にも持ち前の技術力で対抗できるのでしょう。強靭で高性能な肉体と高度な思考能力がそれを可能にしているのです。
根本的に有りようが違う人間と相いれるはずもなく、エルフ達は森林でひっそりと暮らしていくこととなります。
定番ともいえるエルフですが、よくよく考えてみれば理解できないことが山のようにある存在でもあります。魔法と同じく、我々の物差しで測ることができない存在といってよいでしょう。どのような種族にするのかはもちろん書き手にゆだねられますが、非常に面白い要素になりそうです。
森の戦士といえばウォードレイダーですが、エルフは随分と清潔なイメージがあります。明日はドワーフについて投稿します。
改稿が終わりましたが、今後もどんどん加筆修正が入ることと思います。
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そろそろネタ帳が肩で息をし始めましたが、今後ともよろしくお願いいたします。