番外編2 史実の銃器について 魔法が戦場に与える影響について
現実世界では銃器が遠距離攻撃の手段として頂点に立ちました。そこにはどのような苦労があったでしょう。
魔法がその立ち位置になった場合、どういう進歩を遂げるのでしょうか。
これまでさんざん武器について書いてきた。
火薬を発見するに至った錬金術にも触れたので、今回は人類が誇る代表的な武器である、銃器について書きたいと思う。
古今東西、戦場での負傷者の大半は飛び道具によるものだった。
効果があれば研究も進む。
投石や投槍にはじまり、単弓、複合弓、石弓と進化してきた。銃器が発達するのも当然の流れであった。
攻城兵器という大型兵器の類も戦場では重要で、紀元前5世紀頃にはすでに開発されていたようだ。
投石機や弩、攻城塔、破城槌など、城塞や拠点を安全に効率よく攻略する術は、絶えず研究され続けた。
特に大砲の研究は急速に進められた。構造的に簡素である、というのもあるだろうが、槍をずらりと並べる戦術が安価で高い効果を発揮したために、後は攻城兵器をどうするかということに頭を悩ませればよかったのである。
とある書籍には、時の権力者たちがこぞって大砲に執心していたのは異常であり、その理由の一つとしては大砲は男性器に似ていて、男性としての力強さをイメージさせるからではないか、とある。
筆者は割とこの発想が好きだ。轟音を立てて砲弾を打ち出し、城壁を打ち砕くというのは、実際的な効果以上の印象を、権力者たちに与えただろうと思えるからだ。
--銃器の特徴と影響--
さて、大砲と違い、銃器の発展は数多くの枷があった。例え威力や効果が実証されていたとしても、結局採用されなかったものも数多かったのだ。
一番初めに活躍した銃器は少々乱暴であるが、マスケット銃といっていいだろう。登場は大体1400年後半で日本に火縄銃として伝わったのは1543年のことである。
ライフル銃の登場はアメリカ独立戦争であり、これが1775年。約300年後のことである。
さらに普及するには後100年ほど待たなければならなかった。
ライフルとは銃身内に螺旋状の溝を掘った銃で、これが銃弾を回転させることで、弾丸の軌道が安定し命中率と射程距離を延ばすことができるというものだ。
この強力な銃が戦場に登場するまで、マスケット銃が長い間活躍してきた。
そのマスケット銃には数多くの欠点がある。
1.命中率が低い
2.有効射程が短い
3.発射までの時間が掛かる。
有名なところでこの3つだ。加えて、不発率の高さや天候に大きく左右されるなどの不安定さもある。
以前、どこかの頁で遠距離武器は接近されたら終わりなので、接近される前に目的を達成する必要があって、それには威力を上げる、射程を上げる、機動力を高めるという方法があると書いた。
遠距離武器として未熟であるマスケット銃には、多くの工夫が必要であった。
命中率についてはずらりと並べて一斉射撃をすることで欠点を補うことにした。命中率の低さは、一斉射撃の重要性を高めた。
しかしマスケット銃は撃つまでに十数(銃によって変わるだろうが、20前後)の手順を必要としていた。
これが大きな欠点だ。撃つまでに時間がかかる、という以前に、兵士に高い熟練度を要求することになってしまったのだ。一斉射撃の難易度も高くなってしまった。
オラニエ公マウリッツによって軍事教練が開発されると、平時の訓練が常備軍に大きなメリットがあることが分かった。
徹底的にマニュアルを教え込み、繰り返し教練を行うことで連帯感を養う。射撃動作の訓練の他にも、常備軍が平時に何も生み出さない状況も回避できたりと、様々な効果があった。
軍事教練は射撃間隔の短縮に役立ったし、息のそろった射撃は散発的な射撃より大きな破壊力を生み出したのだ。
射程の短さは槍兵や銃剣を併用することでなんとかした。
種類にもよるが、有効射程は100メートル前後しかなかった。しかも1発撃つのに20秒ほどの時間を要したので、マスケット銃兵には近接攻撃方法は必須であった。
【発展の遅延】
しかしこれらの問題はさらに大きな問題を生み出してしまった。
新しい銃を気軽に採用できなくなってしまったのだ。
軍事教練は一定の動作をしつこく行うなど、あらゆる方法を用いて兵士に徹底的に教え込むものだ。
その結果、マスケット銃は専門性の高い武器になってしまったのだ。
マスケット銃は何千人もの兵士に、戦闘という特殊な精神状態にある中でも一定の動作を要求する兵器だ。
一つ手順が変わるだけで現場には大きな混乱が起こってしまう。
各国の陸軍将官はこれを嫌い、新しい技術について常に懐疑的であった。
民間で新たな技術が発見されたとしても、導入には高いハードルがあった。需要がなければ供給もされない。技術の進歩はずいぶんと遅れてしまった。
ロシアなどは長い間この傾向がつよく、技術力で大敗してしまう戦争もあった。
【生産の難易度】
そして生産問題。
鉄砲や大砲の製造技術をもった集団には権力者は頭が上がらない。
正確に納品されるか分からないし、職人による作業であったために性能も安定しない。さらにとても高価だ。
数を揃えなければ効果を発揮しないのに、数を揃えるのが難しいのだ。
生産に関する問題はライフルにも影響した。
ライフリングの技術は、実は1500年代にはすでに発見されていたらしい。
しかし、陸軍本部の理解、品質の不安定さ、そして生産難度が高いということもあって、正式に採用され始めたのは大幅に遅れた。すでに書いたが、1850年前後である。
このように、たとえ良いとわかっていても簡単に採用できないのが軍隊の装備というものなのだ。
現実は小説のように順調にうまくいかないのである。
技術が迅速に反映されるようになるのは、イギリスが19世紀末に起こした軍船にまつわるごたごたの後である。
【ライフルの普及】
さて、ライフリングが有効で、さらにそれが劇的に戦場に変化をもたらしたというのが数回の戦争によってわかると各国の軍隊で採用され始めた。
これはアメリカで旋盤などといった大量生産技術が開発されたためだともいわれている。
命中率と威力、射程距離が上がったことで散兵戦術が取れるようになった。というか、武器性能の向上によって、まとまって棒立ちで射撃をすることに無理が出てきた。塹壕が戦場に登場したのもこのころだ。
加えて火薬と弾丸が一つになったりと、扱いが楽になったために訓練期間が少なくて済む。
そして鉄道が開発されたために、人員や物資の補給が格段に進歩した。
あらゆる男性国民が戦争に参加できうる、というのは原始社会から脱却して以来、初の出来事である。当時の兵站を担う文官にとっても現場の武官にとっても、歌いだしたくなる気分であっただろう。
【銃器の行く末】
戦争を重ねるにあたって、指導者はある不思議な現象に直面する。
いくら兵器の命中率の向上を図っても、弾丸が外れるのだ。
人間は人間を殺すのを躊躇するらしい。
そういった意味では曲射する弓などは罪悪感を軽減させるのかもしれない。
もしくは、社会や思想が発達した証なのかもしれない。
とにかく、機関銃の登場は、この問題を解決した。
同時に、一人当たりの分間発射数を100倍から300倍ほどあげることにまで成功する。
威力、射程、連射速度まであがれば、あとは命中率だろう。アクション映画にでてくるような追尾したり遠隔操作できる銃弾、なんていうのも開発されるかもしれない。
話はそれたが、とにかく、銃という重要技術でさえも条件がそろわなければ、進化はできないのだ。
銃についていえば技術の発見、生産問題、練度、組織の認識などが挙げられる。
第二次世界大戦の兵器の進歩速度は異常だったのである。
あの時代は国家という生命が危機に瀕した結果、いろいろな条件が猛スピードでクリアされていったのだ。ソ連やドイツの新兵器の戦線投入スピードは、戦争終結に向かってどんどん上がっていく。
技術の研究から採用までの迅速な流れという意識改革こそ、20世紀に開発された重要技術であるといえるかもしれない。
これは筆者の根拠のない考えであるが、問題に対する解決策としての新技術を瞬間的に生み出す力、というものを人類(個人ではないことに注意)はもっているのかもしれない。
ただ、それが本当に効果があるのか、実用的なのか、というのがすぐには分からないので、形になりづらく、市場に登場しなかったりする。他分野で開発可能な前提条件が開発されていない、という問題もあるだろう。
非常にゲーム的な発想だが、太古からの人間の技術発展の歴史や、ヨーロッパが発展してきた歴史、問題に直面しえない社会や問題を技術以外で解決してきてしまった社会の後発具合など、様々な例がある。
それらをみると、散逸構造云々の話も、人類がもつ無限大の可能性も信じることができてしまう、気がする。
--魔法と戦場--
では最後に、ファンタジー世界で、中世以降どういう風に戦争が進歩していくか、ということを考えていきたいと思う。
火器として魔法が発展していくには、人間同士の抗争が必要になってくると思われる。魔法がすべての人間に使用可能であるという前提も必要だ。
そういうわけで、中世にて火薬の代わりに魔法(魔力の操作方法等)が発見され、人間が魔物を駆逐した後の世界を考察してみたい。
人間と魔物との差は進化スピードにある。
人間に技術の進歩という武器がある以上、魔物は遠からず人間に駆逐されるだろう。
外敵が消えるとさらに人間は封建制によって、管理する土地を爆発的に増やしていく。
その結果国境がぶつかり、戦端が開かれるだろう。
【ファンタジー世界における三兵戦術】
魔法を使った軍隊はどのようなものだろうか。軍隊には走攻守が必要だと以前書いた。
おそらく、主力歩兵としては軍事教練をたっぷりと積んだ軍隊が、陣形の中心を務めるだろう。
中国映画の拳法教室のように、集団で魔法を打つ動作を何べんも繰り返す。
物語にでてくるような文系魔導士ではなく、きびきびと一連の動作をこなし、魔法を一斉射撃する体育会系魔導士が生まれるのだ。もちろん接近されてはまずいので、軍全体としては槍かなにかで武装するだろう。
軍隊には、基本魔法、というのが設定されていて、その発動動作を徹底的に体にしみこまされる。
一斉射撃をしなければ、相手の勢いをくじくことができない。決まった魔法でなければ、発動手順や射撃間隔にばらつきが生じるだろう。
そして、相手の魔法や近接された際には防御魔法か接近戦だ。槍の穂先がくっつけられる杖、というのが標準装備になるかもしれない。
このような魔装歩兵が5000人ほど用意されることになる。
魔法には色々な種類があるが、火の玉や風の刃を飛ばすより、浮遊魔法や身体強化などといった魔法の方が筆者としては脅威であると思える。
浮遊魔法や身体強化があれば、数十キロにおよぶ全身鎧に身を包んだ重装歩兵が実現し得るだろうし、拠点破壊用の大砲も、輸送問題に悩まされることがないだろう。
身体強化魔法で、馬もびっくりなスピードで戦場を駆け抜ける歩兵集団も夢ではない。
史実に登場する竜騎兵(短銃を装備した騎兵)が馬を採用する目的は移動力のアップだ。
浮遊魔法は補給部隊にも恩恵を与える。推進力は動物や別の魔法を使うしかないが、馬一頭で、いくつもの荷車を運ぶことができるはずだ。
もし高機動力部隊に馬が必要ないともなれば、馬の餌である秣を運ぶ必要もなくなる。
数千人単位で運用させる魔装歩兵と、スピード重視の機動歩兵、拠点破壊用の大砲がこの時代の三兵戦術になるだろう。
戦略的な展開スピードは現実世界とは全く違ったものになるはずだ。そんな中重装歩兵は役割が持てない可能性が高いが、条件によっては登場することもあるだろう。
仮に馬やドラゴンは戦争に用いるとなれば、よっぽどメリットがなければならない。
モンスターを滅ぼした人類の前には、すでにドラゴンブレスさえ陳腐化しているだろう。的が大きければ遠距離攻撃を回避することも難しい。そこに補給や維持に難があるともなれば、戦争に用いられることはないだろう。
戦争で重視されるのは武器の性能だけではない。安定して供給できない兵器は、戦場に登場できないのである。
【転移魔法の話】
さて、時代が進んで転送魔法と効果の高い攻撃魔法が開発されたともなれば、瞬間移動を繰り返しながら戦う散兵戦術が開発されるだろう。
小隊単位で転移を繰り返しながら魔法を打ち合う様を想像すると、なんだか変な気分だ。
散兵戦術の侵攻スピードは格段に向上する。もし転移魔法が開発されていると、塹壕による戦線構築は無意味だ。
おそらく、転移魔法を妨害する対転移魔法陣のようなものが開発されて、それによる防御方法が研究されるだろう。
話はそれるが、防御方法としてよくある魔法(魔力?)の無効化というのは、筆者としては非現実的であるように思える。
ファンタジー世界では魔力は当然のものとして、物理法則の中に組み込まれている。その法則の中で魔力を操るのが魔法である、と解釈する世界は多い。
現実世界で考えるなら、ある一定の空間の物体が持つ、運動エネルギーや電気エネルギーを直接触れずにゼロにするようなものだ。そのような技術がすでに開発されているのかもしれないが、とりあえず歴史にはでてこない。
世界の法則を捻じ曲げる、というのは相当に難易度が高い違いない。そんなことを言い始めると、転移ってなんだよ、となってしまうがそこはそれである。
ともかく、転移魔法のシステムを妨害するような魔法、というのが妥当なところだろう。ジャミングのような物かもしれない。
さて、地域戦略レベルではその対転移魔法が戦線であり、攻め手側はそこを襲撃することが重要になり、それ用の兵器が開発されることとなる。
対転移魔法がどのように戦場で構築されるのかは分からないが、そこを破壊するには転移に頼らない方法で進軍し、相手の攻撃魔法をしのげる重魔装歩兵が開発されそうだ。
戦車に勝る利点は、的の小ささだ。
どんなに防御力をあげても敵の攻撃をすべて受けてしまえばどうしようもない。
面積の小ささというのはそれだけで大きなアドバンテージだ。
身体が小さければ古代ローマの兵みたいに一列に並んで盾で庇い合いながら進軍し、ある程度の距離に近づいたら盾をパージし、全力で突撃する、などという戦術も取られるかもしれない。
【大砲と鉄鋼技術】
もう一つ方法がある。対塹壕兵器である戦車だ。
現実世界で戦車が出てきて塹壕は陳腐化した。ファンタジー世界でも戦車は開発されるだろうか。
大きな問題が一つある。戦車の前提条件が、鉄鋼技術ということだ。戦車の火砲と装甲は鉄鋼技術と物理学の二人三脚によって生み出される。
ファンタジー世界の鉄鋼技術はどうだろうか。
現実世界の鉄鋼技術は、中世後期から始まる大砲の開発競争に、指導者たちが興じたことによって進歩した。火薬の爆発力を効率的に安定して砲弾に与える、というのがその目的である。
この世界の大砲がどんな砲弾をどのような方式で飛ばすのかは分からない。
決定的な差として、魔法は火薬と違って推進力のために爆発する必要がないというものがあげられる。
火の玉だろうが、風の刃だろうが、氷の針だろうが、土の塊だろうがどれもこれも前に飛ぶ。雷撃だってそうだ。
これを見るに、魔法にはなにかしら前に飛んでいく機能があるのだろう。前に飛べ、と命令するコマンドがあるのか、向いているほうに突き進む性質があるのかは分からないが、特別なことをしなくていいのだ。
そう考えれば、大砲が長くて頑丈な筒である必要もないし、せいぜい砲弾に魔力やエネルギーを蓄積する程度の箱でいいだろう。
さらに、実弾を飛ばさなくていいなら、魔力を攻撃力に変換する機能さえあればいい。
そう考えていくと鉄鋼技術は大砲によって発達しなさそうだ。
社会の発展レベルに対しての鉄鋼技術、という風に見た場合、現実世界ほどの進歩は見られないのではないかと思う。
もし重装歩兵の開発競争が始まれば、鉄鋼技術は発達するだろうが、前述のように、そうすると戦車が役割を持てなさそうだ。
--魔法のありようと戦場--
戦争において、攻撃力と防御力の進歩はほぼ同時に行われている。
相手の攻撃力を防げる防具あればそれ以上発展しなくていいし、相手の防御が打ち砕けるのであれば兵器はそれ以上進歩しない。
技術は、相手のとってきた方法に合わせて進歩する。それができなければ、その国は滅びるだけだ。
国が国として生存している現状であれば、そのバランスは保たれていると考えられる。
魔法使いが希少でその存在や人数が戦場を左右する場合、その防御策も当然取られるし、もしそのような事態になれば、わざわざやられるためだけの雑兵軍団を編成することはないだろう。
攻め込まれた国の行く末は2つ。とてつもないスピードで滅ぼされるか、有効的な防御方法が開発されるかだ。
技術の存在は戦場の様相を随分と変える。
魔法のありようで、戦争の様子はどんどん変わっていくことだろう。
ぐちゃぐちゃと書きましたが気が付いたら、魔法は現実の世界の常識を打ち破る可能性がある、という当たり前のことしか書いていませんでした。
異世界転移した主人公達の偉大なところは、そんな環境にあって現実世界の技術を無理矢理持ち込んで成果を上げるところにあると思います。例えるなら、海水で淡水魚を育てることを成功させるようなものでしょう。