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来訪者

「タイミングの悪い……」


やれやれ、といったようにエミリアが肩をすくめる。それにシンは足を止めて訝しげに見つめる。


「まさか、裏切ったの?」

「はぁ〜ぁ」


エミリアがため息を吐き、刀に手を掛けた。そして居合い。咄嗟に下がって回避。


「仲間になったように見せかけて背後から刺すつもりだったのに」

「あ、ごめん」

「誤って済むなら警察はいらない」


しぃぃ、と刀を納めて私を見る。エミリアの目は冷たい。帰りたそうなエミリアと今のエミリアのどっちが本当なのよ……っ!


「エミリア!」

「エアリミ、アレは僕の獲物って事で良いかな?」

「馬鹿ね。私が最後までやるわよ」


シンの背後に立っていたエミリアが振り向く。シンは私を見ているだけで何もしない。もっとも剣は抜いたまま。


「ふふふ」


よく創作の中に出て来るお嬢様キャラ的な笑いにムカつきつつ、刀を避ける。そのまま麻痺弾を装填している《拳銃》を二丁抜く。


「手伝おうか?」

「いらない」


しゅんしゅん、と刀が閃く。紙一重で避けてほぼゼロ距離射撃。まさかのイナバウアーで避けられた。


「……マモン!」

「はいはい」


矢が纏めて降り注ぐ。それに目を細めたエミリアに向けて弾丸を放った。どっちに対応しても終わり。そう思った。だが、終わらなかった。

弾丸を斬り、手首を返したのまでは同じだった。しかしその真っ二つの弾丸が矢と激突し、安全圏を作り上げた。


「レヴィ! 撤退!」

「くっ」


巫山戯ないで! と叫びたかった。なのにどうしようもない現実。逃げるしか無い。


「また来てね」

「ここがばれたから拠点変更しないとなぁ」


2人のマイペースな言葉に苛立ちを覚える。

アリア、あんたはこんな気持ちでジャックと向き合っていたの?


*****


「アジアン、ポーションの在庫が減ってきてる」

「残りどれくらい?」

「50スタック」

「減ったね」


99掛ける50で4,950個だ。元々千スタックだったんだけどね。


「売れ残ったら明日の分にすれば良いし、作ろ?」

「うん、そうだね」


時間的にお客さんも来なさそうだしマモンとレヴィもしばらく休むそうだ。8月9日ももう少しで終わる。


「んっ、と」


《錬金術》スキルで《ポーション 液体》を作り出す。そこにアリアの作った武器、小瓶をたくさんセットでき、ポーションを作る器にぴったりの大きさの道具を使う。一々小瓶をセットするのが少し面倒だけど纏めて中に入れられるのは助かる。ちなみに1回で千個小瓶をセット出来る。

ちなみに小瓶の内容量が最大になったら自動で蓋が付く。


「これって何かに似ているよね」

「何に?」

「えっと……蜂の巣!」

「女の子のチョイスする例えじゃないよ」


確かにそんな見た目だけど。


「ん、マリア。多分お客さん」

「うん、行ってくるよ」


アジアンは道具を使ってポーションの量産に勤しんでいる。だから部屋から出て店内に入ると


「マモンとレヴィ?」

「そうよー」

「……」


暗い表情のレヴィと困ったような顔のマモンが。ひょっとして


「今までエミリアを探していたんですか?」

「……」

「そんなとこねー」


無言のレヴィに違和感を覚える。マモンに視線を向けると首を横に振られた。何も知らない? そんなはずは無い。


「……まさかエミリアと戦ったんですか⁉︎」

「……そんなとこね」


自嘲するような笑みを浮かべ、レヴィは顔を上げた。それなのに影が差しているように見える。


「ったく、どれだけ能ある鷹だったのよ……」

「あれは仕方ないと思うなー」

「マモン、私たち2人ですら軽々と対処されたのよ?」

「全力尽くしてないよね?」


あ、レヴィが顔を逸らした。そして


「……できるわけが無いじゃない」

「レヴィはさりげエミリアが気に入ってたからねー」

「そうだったんですか……あ」


扉のノブが回った。閉店にするのを忘れていた。そう思っていたら扉がゆっくりと内側に開く。

流れるような銀髪、鋭い薄青の瞳。困ったような表情の彼女は


「久しぶり……かな」


僕を見つめてそう言った。えっと……何をしにきたのかな?


*****


「………………」


3人の視線が痛い。突き刺すような、疑うような視線が痛い。そんな目で見ないで、そう主張したい。


「あれ、エミリアって双剣使いじゃなかったの?」

「え?」

「普段は双剣を装備していたと思うんだけど」


マリアの言葉に《霧雨》の柄を見る。そう言えばこの店にいた頃はそうだった。シンがアリアたちと正面から敵対するって決めるまでは。それまではただの純粋な《エミリア》でいられたのに……


「何怖い顔してんのよ」

「え!?」

「あんたが何を考えてるか知らないけどマリアが怖がってるわよ、ヘタレだし」

「ええ!?」


マリアの叫びにマモンとレヴィが笑う。そしてカウンターの椅子に腰掛けていたレヴィが立ち上がって


「さっさと説明してもらいたいわね」

「……」

「別にPKを非難する気なんて無いわ。私たちだって教われたら皆殺しにするし」

「や、そこまでするのはレヴィだけだと思うよ?」

「アリアなら迷い無く皆殺しにするわね」

「あー、うん」


二人は前と同じようにマイペースだ。だからまずは


「ごめんなさい」

「「「……?」」」


謝ったら店内が変な空気になった。えっと……なんで?


「謝られるようなことをされた記憶が無いわね」

「え」

「バイトを無断で休んだことかなー?」

「え!?」

「サボりだね」

「あ、はい」


何故か三人とも触れてこない。だったらこっちから踏み込む。


「私が皆を騙し、裏切ったことです」

「騙された人いる?」

「ううん」

「いないでしょ」

「だってよ」


あれー?


「そもそも最初っから疑っていたってのもあるし……こっちとしても謝られても困るのよ」

「え!? マジ!?」

「マジマジ、私がさ、名前が似過ぎているーって言っちゃったのが最初なんだけどね」

「今さらながらエミリアって名前も珍しくは無いのよね」

「ちょ、マモンが最初に!?」

「うん、そうだよ」


……え? それなのにレヴィが尾けていた?


「マモンが何度もそう主張するからこっそり何度か追いかけてみても何にも起きないからマモンに文句言ったりしてたのよ?」

「……そうだったんですか」


心苦しい。


「エミリアはたまに目つきがおかしくなってたからついつい疑っちゃったんだよねー」

「目つき?」

「シンより浅く、アリアちゃんより深い暗ーい目つき」

「……そう、ですか」


殺しを楽しむ、それを繰り返しすぎたシンと襲われたから殺し尽くすアリア。確かにあの二人はとても良く似ている。だからなのか私はアリアと仲良くできていたのだろう。今となってはもう無理だけど。


「シンを殺し、アビスも殺す。それが私たち《魔王の傘下》の共通意識よ」


*****


「おいシン!」

「なんだい、アビス」

「お前の話を聞いたらよぉ、思ったんだがあいつは裏切ったふりをして裏切るんじゃねぇのか!」

「裏切る理由が無いよ」


そう、エアリミには無い。


「お姉ちゃんが僕を裏切るはずが無い」


*****


(《アークスラッシュ》!)


心の中で叫び、多分西瓜があると思う位置に木の棒を振り下ろす。めきょっと何かが凹むような音。目隠しを外して見ると


「西瓜を割るなら周囲に被害が無いように!」

「無茶だよシェリ姉」


ビキニタイプの水着、その間の白いお腹を赤く濡らしたシェリ姉に正座させられて怒られた。

シリアスな展開を続けきれなかったのが最後のスイカ割りです

スイカ割りって割ったスイカは食べるの?

作者はした事が2度しか無いので分かりません


次回予告

疑われたエミリア、迷うエミリア。戦う決意をする《魔王の傘下》。SSOの伝説に残るギルド間抗争が今、始まろうとしている。

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