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餅投げ祭り

「エアリミ、エミリア。こんな単純なアナグラムが解けないとでも思ってたの?」

「アナグラムってレベルでも無いでしょう。たまには違う名前ってのを試してみたかったんですよ。SSOここだと名前の変更が出来ますから」


銃口がうざったい。斬り捨てるには距離があり過ぎる。詰めてくれば良いのに。


「アリアと出会ってカーマインブラックスミスでバイトも計画通りなの?」

「偶々ですよ偶々、偶然とも言います」


そう、偶々リア充がいたからダンジョンの奥で殺しただけ。その帰りに偶々出会っただけ。


「ふん、嫌な偶然もあったものね」

「……」


頷こうとし、何故か出来なかった。


「洗いざらい吐いてもらうわよ」

「ふふ、何を吐けと言うのですか? 内臓? 血?」

「ゲロって言わなかったのは褒めてあげる。だけどね、惚けられるのは嫌いよ」


銃弾が肩を貫いた。衝撃が無い。ダメージは最大体力の三割ほど。


「バイト仲間にこんな事をして良心が痛まないのですか?」

「生憎性悪説派なの」

「それはそれは」


《霧雨》をいつでも抜けるようにしつつ、会話を続ける。下手な動きをすれば撃ち抜かれる。

人は産まれながらにして悪である、身に覚えがある。私も性悪説派のようですね。


「エアリミ、一つ提案があるんだけど」

「何ですか? 見逃してくれますか?」

「給料については私も一緒に掛け合ってあげるから帰って来なさい」

「……歳上のつもりですか?」

「大学1年よ」

「4年ですけど」

「あら、先輩でしたか」


冷たい瞳は笑わない。口元が歪んだ程度だ。あと怖い。


「アリアにもマリアたちにも黙っていてあげる」

「そう言ってくれるのは嬉しいですよ」


これは本心だ。だけど


「私はアリアもあなたたちも殺したいです」

「……悲しいわね!」


銃口に火が見えた瞬間、《霧雨》を抜刀。居合の要領で迫る銃弾を斬り飛ばす。本来なら薄い刃が切ったとしても銃弾は進むが切り裂く途中で手首を返し、別ベクトルへの勢いにすれば問題無い。


「あなたの銃弾は私に通用しません」


宣言し、反撃を始めた。


*****


「エミちゃんも大きくなったねぇ」

「うん!」


お爺ちゃんの隣でエミちゃんが脚をパタパタさせる。その横でアリアちゃんがすやー、と寝ている。お臍出てるよ。


「シェリちゃんも大きくなったねぇ」

「はい。身長が150を越えそうです」

「ほほほ」


お爺ちゃんが笑う。それにつられて微笑む。


「アリアちゃんは移動で疲れたみたいだねぇ」

「二時間ほど車内で元気に騒いでいましたから」

「おねーちゃんは子供だもん」


エミちゃんの言葉にお爺ちゃんと一緒に笑う。するとその声が大きかったのかアリアちゃんの目が開いた。


「むぅぅ?」

「起きた?」

「シェリ姉……あれー?」


アリアちゃんは体を起こして周囲をキョロキョロ見回して


「お爺ちゃんたちのお家?」

「そうよ」

「着いてたなら教えてよ」

「さっきまで起きてて自分でそこで横になったのに?」


アリアちゃんは首を捻り、おっかしーなー、と呟いている。それを見てお爺ちゃんがしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにする。


「そう言えば婆ちゃんが呼んどったよ」

「そうなの?」

「昔の物を整理していたら渡したい物があったって言っていたよ」

「おばーちゃーん、どこー?」


アリアちゃんはトコトコと行ってしまった。


「アリアちゃんは相変わらずだねぇ」

「相変わらず落ち着きがありません」

「エミの方が落ち着いてるよねー」


どんぐりの背比べ……とは言わないでおこう。


「じゃーん! 似合う?」

「和服?」

「着物だよ」


違いが分からない。


*****


速過ぎる。アリアを相手にしているような感じだ。斬撃はきっとアリアを超えている。


「ふふふ」

「その淑女ぶった笑いがムカつくわね!」


至近距離での散弾はさすがに横っ跳びで回避された。もう片手に握る《散弾銃》を向けようとしたら


「銃身が⁉︎」

「ふふっ♪」


しまった。驚いた隙に懐に飛び込まれた。殺られる。まずい。このタイミングじゃ何も間に合わない。


「かっ」

「ふふ」


腹部への強烈な打撃。喉からせり上がって来る不快感にどこまで忠実なんだ、と呆れる。


「……待ち、なさいよ」


何故か体力を残したままエリミアは立ち去ろうとする。


「……」

「エミリア!」

「……ふふ」


メニューを開き、設定から名前を変更するエミリア。『エミリア』が『エアリミ』に変わる。

そして何も言い残さずに夜の暗闇に溶けて行った。


「エミリアァッ!」


叫んだ。絶叫と呼べるものだったに違いない。

私は、彼女を止められなかった。


*****


「えー、それでは餅投げ祭りを始めます!」


町内会のおっちゃんの言葉にガヤガヤとなる人々。都会と違って顔見知りばかりなのだろう。私やシェリ姉、エミは外様。


「おねーちゃん、餅投げ祭りって?」

「えっとね、女の人がお餅を投げて男の人に当てたら頰にキスするんだって」

「なんで?」


それは私が聞きたい。


「うっ、餅が⁉︎」


全力投球する女の人、その餅が男の人に当たらず、私たちの方に飛んできた。慌てて避けようにも速過ぎる。


「シェリ姉!」


シェリ姉を突き飛ばし、その反動で餅を避ける。危なかった。


「今のって本当にお餅なの⁉︎」

「みたい」

「おっと二丁目の竹田さんに餅が直撃ぃ!」

「何⁉︎ あの二丁目の竹田さんに⁉︎」

「二丁目の竹田さんが⁉︎」


……


「誰よ、竹田さん」

「さっき野球をしていた子?」

「なんで分かるのさ」

「前に来た時にお話したから」


私とシェリ姉は端っこでのんびりと眺めている。エミはキャーキャー言いながら投げている。当てたらどうするのか分かっているのか怪しい。


「こんなの、みんなとやりたいね」

「瑠璃が流沙に当てるようにしないとね」

「瑠璃の気持ちに気付いてないもんね」


うん、鈍感だから、と言おうとした瞬間、男の子が投げたお餅が当たりそうになった。


「もしかして男の人が投げてもキスされるの?」

「っげぇ」


気がつくと降り注ぐ餅。どうして餅なのさ。


「シェリ姉、なんとしても避けきるよ!」

「うん!」


幸い肩が強い子も手加減しているようだから何とかなる。


「逃げるよ!」

「待てー!」

「「!?」」


何故かエミの投げた餅が私のおでこを打った。痛いよぅ。


「えへへ、おねーちゃんがチューするんだよ?」

「……女同士でも?」

「性別は関係ありません」


司会の余計な一言にシェリ姉は笑い、エミは目をそっと閉じた。やらないとダメなの? 私のファーストキスは妹なの?


「……分かったよ」


決心してエミの頬にキスする。キャー、と言って笑うエミ。お腹を抱えて爆笑しているシェリ姉。

よし、僕とエミは見つめ合い、頷いた。お互い落ちている餅を拾う。シェリ姉の表情が歪む。僕達に背を向けて走り出すシェリ姉。


「やっちゃえ、エミ!」

「うん!」

「ちょっと待って!?」

「待たないよ」


僕は両手に持った餅を握り締めて公民館の中を駆ける。そして


「えへへー」

「あはは」


姉妹三人で頬にキスし合って、飛んでくる餅を協力して避けることになった。

前半と後半の温度差が半端じゃない


餅投げ祭りとは

時は戦後、町長の娘の想いを伝えられない系美人がいました。

それを哀れに思った町長が町長権限で想いを伝える機会を作ろう、という事で始まった祭り。

開始当時は石を投げていたが流血沙汰になったので中止となり、餅のように粘り強く、というアラサーの言葉によって餅となった。

現在ではどの性別でも楽しめるようなイベントと化している


上の設定考えてて楽しかった不思議

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