攻城戦
《魔王の傘下》のギルドホームを買った。正確には建てて買った。
「こうして見ると感無量だな」
「夢の一軒家か?」
「ああ」
魔王の言葉にセプトが応じる。
「……アリアちゃん」
「何かな、シェリ姉」
「んと、何って言われると困るんだけどね……」
(ぶっちゃけこの前の豹変を正面から聞くのはダメ過ぎる)
シェリルの悩みに気づいてかアリアは頷いて
「お兄ちゃんの事だね」
(まったく違う)
シェリルの引き攣った笑みを見ても気づかないアリアは鈍感ね。どうせラブレターの存在すら忘れたんでしょ。
「……ジャック、来ないね」
「いやさ、シェリ姉。背後にいるよ?」
「え」
シェリルが振り向いた位置に顔装備無しのジャックが。ま、髑髏面に慣れ過ぎたって感じね。
「それにしても向こうも爆弾投げ込んで来たわね」
「……ああ」
ジャックに話しかけるも覇気が無い。普段の自信はどこに行ったのよ……
「ジャックと《幻影面》をイコールで堂々と繋ぐとはね」
掲示板に投稿されたそれは大きな反響を呼んだ。そして《シリアルキラーズ》のプレイヤーどもがそれを拡散、信憑性を高めていったのだろう。真実だけど。
「……レヴィ、俺はどうしたら良いかな」
「どうしてそんな事を私に聞くのよ。嫁に聞きなさい」
「……ふ」
少し笑みを浮かべた。良かった、まだ元気は尽きていないわね。
*****
「釣りって?」
「ああ! それってハネクリボー?」
「うーんと、分かりやすい獲物を用意して襲いかかるのを迎え撃つ感じ?」
シェリ姉が若干分かったようなので窓から外を眺める。
あれ以来、シェリ姉とは少し距離がある。怖がらせちゃったみたいだ。
「……」
「アリアちゃん」
「どーしたの?」
「今、どっち?」
「どっち……どーいう意味さ」
シェリ姉は少し躊躇って
「私なアリアちゃんと僕なアリアちゃん」
「……うーん、今は僕なアリアちゃんかな」
「あはは、自分でちゃんを付けるんだ」
「可愛いからね」
自信満々に言うと頬っぺたがむにぃされた。伸びる伸びる。
「お餅みたい」
「えへへ」
「……うん、可愛いアリアちゃんで良いや」
シェリ姉はうふふ、と笑って僕の頬っぺたを揉み揉みする。
「そこのゆる百合シスターズ」
「なーにー?」
「ギルドホームの前にいるのって知り合いか?」
魔王に言われて窓から見ると……
「僕は知らないや」
「私も」
「《シリアルキラーズ》かその他のプレイヤーか……」
「多分だけど《シリアルキラーズ》ね」
シェリ姉は断言する。何かに気づいたのかな?
「あの雰囲気は見覚えのある奴だよ」
「なるほどな……マモン、レヴィ!」
「はいはーい」
「分かったわよ」
すでにベランダで狙撃体勢に入っていた2人への指示、そして放たれた矢と弾丸。それは全損させたようで経験値が入った。
非常事態という事で全員でパーティを組んでいる。6人パーティを2つ、ぼっち1人で。
「どうだ?」
「偵察しているわね。攻城戦になるわよ」
「この程度のギルドホームならいくらでも買える……全滅させろ」
魔王の指示に次々と経験値が入る。そして一階にいるアスモたちからメッセージが届いた。
「突撃して来たか……四方八方からか、結構な人数がいるんだな」
魔王は呆れたように呟いて
「ベル、シェリルも上から攻撃を開始してくれ」
「おう!」
「分かった!」
「アリアは俺と出るぞ」
「分かってるさ」
シェリ姉を傷つけた奴がいるなら好都合だしね。
*****
「ん」
放った弾丸が全損させたのを視認して他のを狙う。隠れていたのが随分といたようだ。次々と湧いてくる。
「ん、ん、ん」
「キリないなぁ」
「さっさと射抜けば良いのよ」
「そうだねー」
マモンは笑いながら天守閣の屋根から矢を放つ。狙いを絞っている分時間はかかるけど下を守るのはあいつら9人。余裕だわ。
「《スナイプ》」
魔法使いっぽい装備の奴を狙い撃ち、そのまま周囲のも撃ち抜く。
「弱過ぎ」
「あはは」
「弱過ぎて逆に不安になるわね」
「そうだね」
マモンはすでに殲滅するかのように《スプレッド》を使用している。散弾は至近距離で撃つ方が好きだから使わない。《狙撃銃》で十分よ。
「でも、時間稼ぎに見える?」
「そうね……主力はいなさそうね」
淡々、と撃ち続けていると
「来たわね」
「遠距離には遠距離部隊、悪くない発想ね」
「「相手が《魔王の傘下》でなければね」」
次々と飛んでくる魔法に矢を撃ち落とす。一つも漏らさない。
「最強はアリアだけどね」
「それぞれのジャンルだと大半一番なんだよねー」
矢は的確に指揮者を射抜いた。
*****
『《詠唱短縮》に《詠唱連結》に《連続発動》を習得した上で《消費MP減》を熟練度とレベル最大にすればそこそこはやれるんじゃないか?』
ベルの言葉を頭に浮かべて
「《フレアトルネード》10、続けて《フレアフィールド》10、重ねて《アイスストーム》10、連ねて《アイスフィールド》10、結て《エアーランス》10」
「虐殺かよ⁉︎」
「え?」
MPを出来るだけ使用しない中級魔法の真ん中しか使ってないよ? もっとも他のが単体にだったり範囲が狭いだけだけど。
「……やっぱアリアの姉だな」
「え?」
「どこかおかしい」
失礼な物言いにぷっくりと頰が。
「マモンに言っとこーっと」
「ぶ⁉︎ ちょ⁉︎」
「ベルが女の子に失礼な事を言ったーって」
「アリアの姉ってのが嫌なのか⁉︎」
ベルのおそらくは突っ込みだと思うそれ、だけどそれに少し固まってしまった。
「……マジで?」
「あ、ううん、違うの……ちょっとこの前、アリアちゃんが怖く感じたんだ」
「……分からなくもねーけどさ」
「そうなの?」
全員タメ口敬語は禁止というギルドの謎ルールを守りつつ問うと
「あいつも色々悩んでいるのにそれをひた隠しに出来るとこ」
「え、出来てないけど?」
「え?」
「え?」
んー? なんだかおかしくない?
「アリアちゃんは隠せてないよ?」
「リアルで?」
「うん」
「そりゃ知らないわけだ……」
なんとなくアリアちゃん検定に受かった気分。次は準二級ね。
「ま、向こうもシェリルの事は……色々思っているんじゃないのか?」
「例えば?」
「……《フレアトルネード》100っと」
話を逸らすように放った炎の竜巻はギルドホームの北半分を埋め尽くすように進む。経験値ががっぽがっぽ。
「話してみないと分からない事もあるし分かる事もある」
「……色々と?」
「ああ。苦労しろ、若者」
ベルはそう言ったけど大学生だから5くらいしか変わらないような……
*****
首を飛ばす。そのまま剣を逆手に持ち替えて背後の首を落とす。回転して脚を断つ。そのまましゃがみ込む勢いのままに真っ二つに。
「アリア⁉︎ 一体どうしたんだ⁉︎」
「黙ってろ」
《致命的位置》を狙わずに肩を刺して
「お前らのボスはどこにいる」
「は⁉︎」
「答えないか」
剣を平行に振るって首を落とす。
「答えないなら殺す」
シェリ姉を襲う計画を立てた奴も殺す。それが私のするべき事だから。
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これはきっと読者の皆様から「おでめとう」みたいな感想が寄せられてくるでしょう
アリアちゃんが現在ブチ切れ中
この前ふとしたタイミングでジャックとアリア戦を読んでたら「〜な鎌を」が「〜仲間を」ってなっててジャックの武器は仲間だったのか、と熱血キャラっぽくなっていました
誤字脱字怖い




