アジアンというプレイヤー
アジアン、彼は僕のリアルの彼女だ。
黒髪黒目のショートヘア、時に優しく時に厳しい素敵な女性だ。
ナイフを主体に使うプレイヤーは少ないにも関わらず「包丁みたいに使えるから」という理由と「だってアジアンだし」という理由で選んだ。
元ネタの「薔薇のマリアンヌ」に登場するエィジアンというキャラクターを意識している。名前を丸パクリはまずいからとアレンジしている。ちなみに元ネタは男だ。
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「マリア、この店でバイトしているんでしょ?」
「えーっと……」
移転したって言うのも良いけどあの街まで行くのは難易度高いからなぁ……あ、でも他のお客さんにも悪いし。
バイトプレイヤーとしての権利の一つ、看板の設置をする。内容は移転した事と移転先だ。それをカウンターの上と入り口のドアの前に置く。
「「「「「はぁぁ⁉︎」」」」」
当然騒ぎになった。
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「もー、マリアってば何も言わないで引っ張ってくるなんて強引ダネ」
「ごめん。あの状況から逃げるにはそれしか無かったんだ」
「ま、良いけどネ」
アジアンはんーっ、と伸びをして
「バイト先が移転したんだよネ? どこなのサ?」
「えっと……《星の見える丘》」
「……最前線ダネ」
「うん」
「……行くに行けないじゃない……」
素の声でボソリと呟くアジアン。そして
「私を連れて行ってくれる?」
「うん、もちろんだよ」
そのために、レベル上げや装備を整えたんだから。もっともこんなに早く再会するとは思わなかったけどね。
「ふふ、ありがと」
「……うん」
可愛過ぎて直視出来ない。きっと顔が赤くなってる。
「あ、ちょっとバイト先にメッセージ送っても良いかな」
「良いヨ」
「ありがと」
内容は『リアルの彼女を《星の見える丘》まで連れて行くので帰るのが遅れます』だ。これをカーマインブラックスミス宛に送る。これで全員が目にするはずだ。
「行こう」
「うん」
手を繋ぐ。そのまま街から出る。
すでに訪れた事のある街はワールドマップに表示される。だから気をつけるのは方角とモンスターだけだ。
「マリアはどれくらい強くなったの?」
「え?」
「マリアの強さが知りたいのサ」
素直に言うべきかオブラートに包むべきか……こんな時、レヴィさんたちがいてくればアドバイスしてくれるんだろうなぁ。
「レベルは100ちょっとかな」
嘘だ。正確には100より93高い。
「えー⁉︎ 高いね!」
「アジアンは?」
「まだ28」
「パーティ組んでレベリングしつつ行く?」
「ううん、着いてからマリアとレベリングしたい」
嬉しい事を言ってくれた。また顔が熱くなる。
「……スキル構成も聞いても良い?」
「まだ《短剣初級》と《剛腕》と《敏捷》だけ」
心許ない。だけど戦闘系に偏りがあるのは普通だ。
レベルを上げまくって生産系と共存しているアリアがやり過ぎなんだ。
「マリア! 前!」
「ん、《キラーアント》だね」
口から吐く酸と前脚を使った高威力の斬撃、そして噛みつきをするモンスターだ。気をつけるのは脚だ。
「アジアン、下がってて」
昔の僕は苦戦した。だけど今の僕のレベルはかつての十倍だ。
あの時は進む事に夢中だった。まぁ、武器の耐久が無くなって買いに行ってアリアと出会ったけど。
「マリア! 一体じゃない!」
「分かってるよ」
《感知》スキルと《探知》スキルの二つのおかげで。
《探知》スキルはモンスターの居場所が大まかに分かる。《感知》スキルは何かが動く気配を感じ取れる。スキルレベルを上げればその範囲が広くなる。
「《アークスラッシュ》!」
エストックという武器は切り、突ける。だから
「《ピアース》!」
「背後に⁉︎」
「大丈夫」
アジアンの叫びを聞くまでもなく、気づいていた。だから振り向きざまに
「っ!」
振られた脚を地面に体を倒して避ける。空打った脚の付け根に向けて
「《アークスラッシュ》!」
基本の基本と言われ、最初のスキルを鍛えろと言われた理由がよく分かる。早く、使い勝手が良いからだ。
「マリア!」
「どうしたの?」
「強くなったね」
アジアンに抱き着かれた。顔が熱くなる。もう何度目だろう。彼女の積極的なスキンシップに赤面するのは。
ちなみにカーマインブラックスミス宛にメッセージが届き、それを読んだ店長はふーん、と興味なさげに頷き、バイトの1人はおやおや、と姉のように微笑み、バイトの1人はあっそ、と呟き、バイトの1人は爆ぜろリア充、と心の中で叫んだ。
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「んー? マリアがしばらく彼女ちゃんと一緒にレベリングしながらここに来るってさ」
「ここの到達基準レベルは250、マリアはもう少しだね」
「……うん、ちょっと不安かな」
「だね」
僕は剣の陳列をやめて畑に向かう。しかし収穫が終わっていたのかルフが前足後ろ足を器用に使って耕していた。
「ひよちゃんは?」
『う……ばぉん!』
「分かったよ」
ポーションを作っているってさ。とりあえずポーション部屋に入ると
「ぶっ⁉︎」
顔面に飛びついてきたちゅう吉に驚き、頭に着地するひよちゃんにも驚いた。NPCは無言で淡々とポーションを作っている。正確には小瓶に詰めている。
ひよちゃんとちゅう吉は《錬金術》スキルをいつの間にか習得していた。買わないで習得出来るんだ、と呆然としたのも記憶に新しい…
「お願い、ひよちゃん」
『ちぃ!』
その大きな翼広げ飛び立つひよちゃん。出張武具屋カーマインブラックスミスの完成だ。
「そう言えばアリアって《釣り》スキルってまだ使ってるの?」
「毎日使ってるよ?」
「へー?」
「最近はこの辺りの川で一番レアな《黄金天龍鯛》を狙っているんだ」
「……そうですか」
考える事をやめたエミリアに苦笑しつつポーションのスタックを200作り上げた。
*****
「む……移転か」
「トマトさん、どうします?」
「前に進むしか無いわよ」
「……どこまで」
「目的地は《星の見える丘》。マリアにメッセージは送っとくぞ?」
同意を得たのでメッセージを送るとアジアンと一緒に《星の見える丘》に向かっているそうだ。
「追いかけるぞ」
「はい」
「そうね」
「はイ」
5分後、一つのパーティが全滅した。
*****
「アジアン!」
「うん! 《スラスト》!」
《短剣》スキルの基本スキル。《ナイフ》スキルと《短剣》スキルは別物らしい。
ちなみに似たものとして《短刀》もあるけど別物らしい。
「《双剣》とりたいなぁ」
「あ、それ多分やめといた方が良いよ」
「え?」
「二本持ち系のスキルはスキル時間が長いから隙だらけになるってバイト先の店長が言ってた」
「そうなの?」
「《二刀流》使いのアリアってプレイヤーなんだけどね」
「ふーん。強いの?」
アジアンはまだSSOには詳しくないのかな?
「《最強》って言ったら彼女を指すことになるよ」
「彼女って女の人なの?」
「うん」
女の人ってか女の子だけど。多分歳下だし。
「浮気してないよね?」
「あのちんちくりんにそんな感情は抱かないよ」
そう言った瞬間、僕らに影がさした。咄嗟に上を向くと巨鳥が。
「マリア⁉︎」
「ひよちゃん……どうしてここに?」
アジアンの心配そうな声に頷きながら近寄った。すると
『ちぃ!』
「……一緒に行くの?」
『ちぃ!』
首を縦に振られた。
あけましておめでとうございます
今年もソーニョ・スキルズ・オンラインをよろしくお願いします
さて、アジアンというキャラを知っている方は若干イラっとさせられるかもしれません
そこに関してはお詫び申し上げます
今年が皆様に良き年となるよう存じ上げます




