移転なのだよ
「結論から言ってよ」
「この店を移転して欲しいって事だ」
「えー? 嫌だよ」
「だろうな……だから俺も困っているんだ」
魔王は頭をガシガシと掻いて
「前にさ、この店の商品が高過ぎるって言われたって言ってたじゃん」
「あ、うん」
今後ろの台所で食器を洗っているマリアだね。顔を見るとげ、みたいな表情だ。
「ま、最初は俺も、他の奴らも『金を貯めろよ』と、思っていたんだ」
「うんうん、ほいで?」
「考えてもみろ、普通のプレイヤーが三つ目の街の時点でM単位のお金を稼げると思うか?」
「うん」
「普通のプレイヤーな、俺たち基準じゃないぞ?」
むー、普通のプレイヤー、普通のプレイヤーね。
「マリア、この街に来る時にお金、どれくらいあった?」
「え、最初のですか?」
「うん」
「……20Sくらいでした」
「な?」
「つまり50マリアが必要なのか……」
「何の結論か知らんが話を戻すぞ」
顔を上げると苦笑していた。考える事は大事って小学校の先生が言ってたじゃん。名前忘れたけど。
「で、どうしろって言うのさ」
「何かしらの対策を練る、または店舗移住だな」
「……」
この店の今の状態をそのまま持って行けるのなら、それで良いんだけどねー。愛着もあるし……
「この店ごとどこかに移住って出来るの?」
「……調べてみないと何とも言えないな。少し待ってろ」
魔王がメニューを開き、掲示板に目を通す。そして
「……ん?」
「どうしたのさ」
「……いや、プレイヤーネームにひらがなや漢字が使えるようになってたみたいだ」
メニューを開き、設定を開く。《プレイヤーネーム変更》と、あるので躊躇無く《アリア》に変える。
「よし」
「何が……お、あったぞ」
「ん?」
「店の状態を維持し、他の店舗に移動実験結果だ。つまり拡張したりしたのは引き継がれる。変わるのは店舗と場所、外見くらいだな」
*****
「って事でカーマインブラックスミスの新たな営業場所を探したいと思うんだけど」
「魔王の言葉を考えるとアレね」
「結構前線付近ね」
「今ってどこまで進んでいるんですか?」
「《星の見える丘》って街ね。ロマンチックなのにモンスターは集団で現れるわ」
「げ」
レヴィの説明にエミリアが顔をしかめる。そう言えば
「お金ってもしかして僕もちなのかな」
「儲かっているんでしょ?」
「うーん、儲かっているんだけどね」
今現在もポーションが単体、セット、スタックで買われていく。ひよちゃんたちと僕が今量産している。作った矢先に売れる。凄い。
ちなみにマモンを除いて他のみんなは《錬金術》スキルを習得していないからポーション等は作れないのだ。
「ちなみに秒速10Mくらい儲かっているよ」
「「は?」」
「「え」」
マモンとレヴィは呆れの表情、マリアとエミリアは驚きに固まる。
「バイト代はちゃんと払えるからねー、店舗移住もそこまで問題無いかなー」
「なら《星の見える丘》で良いんじゃないかな?」
「中に川あるの?」
「あるわね。俯瞰画像見せるから少し待ちなさい」
レヴィの言葉にポーション量産を続けながら待つと
「……おお」
思いの外良さほうな街だった。なので
「それじゃこの街に2人は転移出来るんだよね?」
「そうね」
「ええ」
「と、すると問題は……」
「僕たちですね」
「そうね……」
「迷子になりそうだ」
「「そこ⁉︎」」
*****
「で、その結果がこれなの?」
「うん、ナイスアイデアでしょ?」
「どこがよ」
レヴィの言葉に首を傾げる。何か変かな?
「ひよちゃんがマリアとエミリアを乗せて、僕が全力疾走、おかしい?」
「おかしいと思わないアリアがおかしいわね」
「酷いよ」
「気のせいよ。それよりもルフに乗らないの?」
「ルフはちゅう吉を乗せるから」
「……」
レヴィは頭痛を堪えるように頭に手を触れて
「……先、待ってるからね」
「おうともさ」
レヴィがアイテムを使って多分《星の見える丘》に転移した。ちなみにマモンはさっさと行った。
「行くよ!」
『ばぉぉぉん!』
『ちゅう!』
地面を蹴る。ぐんっ、と進む。隣を見るとルフが僕と並走していた。
「あはは」
なんだか無性におかしくなってついつい笑ってしまった。
そしてこの日、笑いながら爆走する謎のプレイヤーがいるという噂が立った。
*****
「うん、タイムは中々ね。精進しなさい、若人よ」
「何キャラなのさ」
「うーん、引退した老師?」
「なら良いや」
「何が良いのよ」
レヴィは変わらず突っ込み役。素晴らしいね。
「マリアたちは大丈夫? 酔ってない?」
「大丈夫です」
「問題無し」
ひよちゃんが僕の頭にガシッと着地? する。重い。
「じゃ、川のある方まで行こっか」
「アリア」
「んー?」
歩き出そうとしたらレヴィに呼び止められた。振り向かずに
「何かな?」
と、問えば
「こっちよ」
「oh……」
道を間違えたみたいだ。
「そもそもさ、僕の他に鍛冶屋っているの?」
「んー、武器屋ならあったね」
「名前は?」
「エクスガリパー、某ファンタジア文庫のアレね」
「どれ?」
「8人の武器屋よ」
タイトルは知っていた。それだけだ。
「どんな感じなの?」
「まんま……ってか近づけようとしてたわ」
「ふーん」
街を歩いて2、3分、外周付近に大きな川が流れていた。
「おお〜」
「この辺りなら良いんじゃないの?」
「そうだね……んー?」
見回して良さげなお家を探す。川沿いの……庭がある……困ったなぁ、ほとんどのお家がそれに当てはまっちゃう。
「一番大きなこの家とかどう?」
「大きな道に面しているこれは?」
「見晴らしが良さそうなこことか?」
「日当たりが良くて植物の栽培に向いていそうなこれとか良いんじゃないかな」
様々な意見を考えた結果、エミリア提案の日当たりに決定した。
*****
「うん、綺麗だね」
「そうね」
「でも……あれって何なんですか?」
「《レアクリスタル》の結晶塔ね。中はダンジョンよ」
《星が見える丘》の中央にある透き通った水色の塔、それは二階のベランダから見える。
「そんな事よりも引越しの準備をしないと」
「えー?」
「アリアが店長なんでしょ? お客さんもいるんだから」
あー、それもそうだ。
「それじゃちょっと行って来るね」
「はいはい」
メニューのアイテム欄から《転移の翼》をオブジェクト化し、使用する。
ゴチンッッ!
「あいたぁ!?」
「……室内でル〇ラしたのと同じ現象ね」
「あ、あはは……」
マリアは呆れたように笑っている。ダメージは無いけど痛い。
「どうして店売りは《翼》なのさ……《転移水晶》じゃダメなの?」
「運営に言いなさい」
レヴィの言葉にため息を吐いて二階のベランダにもう一度出て
「行って来まーす」
「はいはい」
上に引っ張られる感触、そしてカーマインブラックスミスの前に着地。行列があるから最後尾に並ぶ。
「これって何の行列なのかな?」
「えっとアリアってプレイヤーにオーダーメイドを頼みたいプレイヤーの行列ですね」
「ほほう」
こんなにもたくさんのプレイヤーがかぁ。
「こんなに?」
「この店が閉店の噂が立ったからですね」
「閉店!?」
移転だよ!? 終わらないよ!
「つーかアリアじゃねぇか!?」
「あ、ベル」
僕の前の前にベルがいた。噂に釣られたのか、馬鹿め。
感想が欲しいYO!
とりあえずカーマインブラックスミスが移転した、それだけ
次回、アリアがベトベトかつ粘着性のあるサムシングに弄ばれます




