バイトを雇おう
「アリア、カレー2つにかけうどん1つ」
「あいよーっと」
包丁でとんとととん、とリズムよく野菜を切る。
小麦粉やらなんやらを混ぜ、しっかりと足で踏んで寝かせていた生地を取り出し、これまた細く切る。
「鍋鍋鍋〜♪」
大きめの鍋と小さめの鍋をインベントリではなく、台所の食器棚から取り出す。大きめの鍋に刻んだ野菜、お肉を入れる。
その中に水を入れると見せかけて
「水は?」
「全部ポーションって」
「はいよー」
注文で水、ポーション、ハイポーション、MPポーション、MPハイポーションの中から選べるようにしている。それぞれ料理に使うと風味が変わるのだよ明智くん。
「ふふんふふ〜ん♪」
《カレールー》を大きめの鍋の中の具に火が通ったかの確認をして、まだだったので切り刻む。これで溶けやすくなる。
ゲームだから大丈夫だと思っていたらステータスの伸び具合に影響があると知ってからはこうしているのだ。
「うどんの麺は……っと、おーわーりっと」
タイマーが鳴ったので火を止め、湯を切る。そのまま《作り置きスープ》と麺を器に入れて
「うどん出来たよー。カレーはもうちょい」
「はーい」
エミリアがうどんを運んで行くのを眺めつつ《炊飯器》を開く。しっかりと炊けているご飯をお皿によそおい、カレーを掛ける。カレーライスなのかライスカレーなのか分からないけど完成。
「カレー出来たよー」
「はい」
この《炊飯器》はエリアボスである《ビックボーンコック》のレアドロップアイテム。落ちるまで3桁くらいの骨コックをポキポキした。
夏休みの間、午前10時から15時までは料理店カーマインブラックスミスだ。
*****
「ブラックスミスに鍛冶屋って意味があったと思うんだが」
「正確には刀鍛冶ね」
セプトとマモンの言葉にそうなんだー、と思いつつお皿を洗う。キュッキュッと音が聞こえる。
「ところでさ」
「うん」
「人数足りてるの?」
「ううん」
「増やさないの?」
「うん」
「どうして?」
「うーん」
「二つの文字で会話をするなよ……」
マモンの言葉に悩む。どうしてって言われてもね……
「ならマモンが働く?」
「それも魅力的だけどねー、1人だけ誘ってみても良い?」
「それだとマモンは?」
「一緒に」
「ふーむ……《料理》スキルは?」
「私は《製菓》スキルあるし」
「もう1人は?」
「多分言ったら習得すると思うよ」
と、言うか
「レヴィなんだけどね」
「最初に言おうよ⁉︎」
*****
「あ、どーもレヴィさん」
「こんちゃ」
「マリアとエミリア……バイト中なの?」
「はい」
「アリアは?」
「今は奥で「僕のターン! ドロー!」
いきなり聞こえた声に3人で固まる。しかし声は止まらず
「手札のてんとう虫を墓地へ送り、クイックロンを召喚! 墓地のてんとう虫の効果で星を1つ下げて復活! 星1、てんとう虫に星4のクイックロンをチューニング!」
「星の合計は5……」
「ジャンク戦士を召喚! そしてエクスプローラーを召喚し、効果でクイックロンを釣り上げる! そのままてんとう虫でジャンク戦士の星を1つ下げて復活! 星1、てんとう虫と星2、エクスプローラーに星5、クイックロンをチューニング!」
「星の合計は8……まさか⁉︎」
「ロード戦士を召喚! そしてロード戦士の効果で山札から不明ロンを召喚! ロード戦士の星を1つ下げててんとう虫を復活! 星1、てんとう虫に星1、不明ロンをチューニング!」
「やべぇ……」
「ワンドローロンを召喚! 効果でワンドロー! そしてロード戦士の星を1つ下げててんとう虫を復活!」
「星の合計は……12⁉︎」
「星4となったジャンク戦士の星6となったロード戦士に星2、ワンドローロンをチューニング!」
……
「……ガチデッキね」
「そうみたいですね」
とりあえず奥の部屋に入って良いとバイトの許可を得たので扉を開ける。すると
「あ、やっと来たね」
「遅かったね、レヴィ」
マモンとアリアがテーブルを挟んで向き合っていた。手元を見た感じ、アリアがシンクロでマモンは融合ね。
「レヴィは何デッキ?」
「いきなり何よ」
「良いから良いから」
「エクシーズよ」
「あら意外」
何故呼び出されたのか、その説明も無しに盛り上がる2人。呆れつつも久々に見た気がした。
「で? なんで呼び出されたの?」
「マモンと一緒にバイトしない?」
「時給は?」
「ほら食いついた」
マモンが何を言っているのか分からないけれど常時金欠の私に死角は無いわね。
「でさでさ、レヴィが生産系のスキルか加工系のスキルを習得しているかってとこなんだよ」
「《弾丸精製》は?」
「狭過ぎてダメかな。料理系とかは?」
「……どんな料理系スキルがあるの?」
「うーん。単純な《料理》は僕が習得しているしマモンが《製菓》を習得しているからなぁ……あ、《料理》でお願い」
アリアが言葉の前半と後半で矛盾する。思い付きで喋っているからね。
「良いけどお金、貯めてからね」
「それくらいなら出すよ」
「ふーん?」
「儲けの方が上だしねー」
「そりゃ一番安い剣一本売れたら2人分の……日給だっけ? 時給だっけ?」
「えーっと」
アリアは悩んで
「ちょっとマリア初登場回ら辺から読んでくる」
メタい。
五分後
「10分半Mだった」
「読み直したの?」
「うん」
メタ過ぎる発言に頭痛がした。
*****
「鍛冶屋としてのカーマインブラックスミスはアリアがいる事前提。だけど料理店としても今現在はアリアがいないと出来ない、だから私に《料理》スキルを習得して育てろって事ね」
「察しが良くて助かるよ」
僕の言葉に結論を出すレヴィ。すると
「お断りするわ」
「ぬぃ?」
「誰かと一緒に同じ事、なんて真っ平御免ね」
「……うーん」
やっぱりその信念を忘れたりはしないよね……
「ま、何が出来るか探してからでも良い?」
「うん、いつでもおいでよ」
「でも絶賛金欠なんでしょ?」
席を立って颯爽と退場しようとしたレヴィの動きが固まる。そして振り向いて
「どうしたら良いと思う?」
「うーん、マモン?」
「うん、バイトするべきね」
「……何が出来るか分からないけど良いの?」
「うん、スキルの習得は任せるよ」
「……なら、よろしくね」
「うん。マリアー、エミリアー! バイトが2人増えたよー!」
「え?」
レヴィが疑問の声を上げた。マモンも一緒って言わなかったっけ?
ちなみにその後に顔を出したマリアとエミリアはレヴィとは普通に話し、マモンと少し距離があったため、マモンが凹んでいた。
*****
「あ、いらっしゃい。どうしたの?」
「え⁉︎ マモン⁉︎」
「今日からここでバイトなの」
「……そりゃ悪い報せかもな。アリアは?」
「上で剣を漁っているよ」
タイミングが悪い……そう思ったが
「んー? 魔王?」
「よぉ。若干悪い報せがある」
「聞きたくなーい」
「聞けよ、この店に関わるんだから」
アリアの表情が変わった。年相応の可愛さを棄てた戦闘時の顔だ。
「何かな?」
「今、SSOのプレイヤーの十分の一ほどがこの店について一言物申しているのは知っているか?」
「のー」
「……この店は初期街、《ビギン》から数えて三つ目の街にあって良い店じゃない」
シューティングクェーサードラゴン召喚ルートを文字にしてみたら長い
普通三つ目の街で攻撃力+160とかが売ってあるのはおかしいよね、と思った結果の展開




