トーナメント 5、6
「あのー、アリア」
「どしたの? マリア」
「結局作者、博多駅に行ってリア充オーラに負けて買うだけ買ってすぐに帰宅しちゃいましたよ」
「ダサ⁉︎」
「しかし弟にラブライブの小説をプレゼントとは」
「弟、ラブライブが好きだもんね」
「ま、なんやかんや言ってもクリぼっちでした」
「僕たちは?」
「まだ夏です」
「一回戦、残る試合は2つですね」
「残りは新入りのシエルとセプト、元からいたジャックとルシファーねぇ」
「そのジャックなんですが一時期いなかったとか聞きましたが」
「音楽性の違いねぇ」
「なるほど、よく分かりました」
よく分かっていなさそうなセスタス。僕とエミリアはいつしか眺めているだけになっていた。
なんで呼ばれたのかもなんでここにいるのかも分からない。
*****
「音楽性の違いって……」
レヴィも言葉を選んだんだろう。だがチョイスは相変わらず謎だ。アリアのネーミングセンスとサタンの厨二病並みに相変わらずだ。
『えー、続きましては《死神》ジャックと!』
『……《槍弟》ルシファー! ってまた僕⁉︎』
『マリア、諦めなさい』
『さっきまで無言だったのにこういうタイミングで……』
アリアの店のバイト2人のやり取りに苦笑する。
ルシファーは俺たちの中では魔王に次いで弱い。その理由は2人で3人以上の動きを見せる。1人では足りないのだ。
「ま、全力は尽くすけど……あれ?」
廊下に出ると左右のどちらも同じに見える。どっちに行けば良いんだ?
「……やべぇ」
これがジャックの本日初の焦りであった。
10分後
「ギリギリセーフ」
「なんでそんなに焦っているんだ?」
「大人には色々事情があるのだよ」
逆方向に向かって歩き、間違えたとは言えない。
「そっちこそやる気に満ち溢れた表情じゃないか」
「そりゃセブンスドラゴニックライオネルソードの兄さんが負けちゃったからね」
「そうか……セブンスドラゴニックライオネルソードの兄の仇を取りたいのか」
観客席の方から絶叫が聞こえたが無視して
「行くぜ? セブンスドラゴニックライオネルソードの弟」
「僕にもその呼び方は嫌だね」
踏み込んでの突きを逆手に持った鎌の柄頭で逸らす。引き戻される槍の返を避けて薙がれるのを頭を下げて回避する。
『お互い長柄武器、距離を詰めないですね』
『そうねぇ……でもぉ硬直は絶対に無いわぁ』
『え?』
『ジャックは元とはいえ最強よぉ、長引けばルシファーが不利よぉ』
「だとよ」
「否定はしないさ」
高速の突きを回避して鎌で切り上げる。引き戻される槍の返に鎌の刃が取られる。体勢を崩す。咄嗟に地面を転がるようにしてルシファーの足を蹴り払う。
「うわ!?」
「ソーン!」
体勢を崩したルシファーの頭目掛けて振り下ろす。しかし槍が差し込まれた。が、ダメージは通った。
『えっと……何が起こったのでしょうか?』
『私たち《魔王の傘下》はねぇ、全員がagiを最優先にしているのぉ』
『そうなんですか!?』
『マジか!?』
『そうだったの……』
『だからこそ高速で動けるのぉ。agiが高くないと見逃しちゃうわよぉ?』
レヴィは笑う。だけどな、
「素早いだけじゃあ俺たちには勝てないよな」
「知っているよ!」
石突による突きを回避して距離を取る。起き上がりざまを狙って
「ギルティ!」
投じた鎌がルシファーの槍に弾かれる。それはブーメランのように俺の手元に戻ってくる。だがそれよりも早く、ルシファーが駆け出す。その槍は俺を貫こうとするが
「間に合わないか!」
「ははっ」
手元に戻る直前に鎌を蹴り、俺の目の前で回転させる。俺に微量のダメージが通り、ルシファーが飛び退く。鎌をキャッチして
「さぁ、終わらせるぞ」
「戯言だね、終わる気なんて無いくせに」
「ははは」
鎌を構えて駆ける。左右にフェイントを織り交ぜる。高速での動きをルシファーは見切っている。
『ジャックが残像を生み出したぁ!?』
『やっぱりあの二人は化け物ねぇ』
『え?』
『残像はスキルの《幻影》で出来るのぉ。それなのにあの二人はagiの高さでそれを自力で成立させちゃっているのぉ』
「化け物呼ばわりかよ」
笑いながら槍による迎撃を避け続ける。
「《ブリューナグ》!」
「《茨による磔刑》!」
*****
「……えっぐ」
振り下ろした鎌を中央に茨が生えた。投じられた槍は茨に絡め取られ、ルシファーすらも茨に絡め取られた。そして十字架に掛けられた姿に。そこからの茨が突き刺し。
「……ええ」
「惨い……」
「何て酷いの……」
これで体力が残っている、それが残虐さを増大させている。
鎌を地面から抜くと茨が解け、ルシファーが地面に落ちる。そして何かを話して二人共リングから去った。
「それじゃぁ、最後は《魔人》ベルフェゴールと《狂剣》シエルね」
「マイペース!?」
「何よぉ、ダメェ?」
マリアの突っ込みに視線を向けると首を横にぶんぶん振られた。私ってそんなに怖いの?
「しかし《狂剣》って凄い二つ名ですね」
「まともな思考なら両手持ちの武器を2本持ったりしないわぁ」
「あぁ……スキルが死にますね」
*****
「……怖いな」
あの二本がぶんぶか切りかかってくると思うと。
「つーかあれな、魔法系と近距離系ってマッチングが既におかしいとしか言えねえな」
「御託は良いからさっさと始めようぜ」
「しかも戦闘狂っぽいし……」
ため息を吐く。レヴィの試合開始の合図はまだ来ない。
『試合開始!』
凛とした声での宣言と同時に突っ込んできた。とりあえず右手を向けて
「《ファイアーランス》16」
掌から炎が槍の形をしてシエルを襲う。が、
「遅え!」
全弾切り落とされた。笑いしか出ない。両手を広げて
「《ウインドカッター》32」
広げる軌道から次々に風の刃がシエルを狙う。切られ避けられ叩き割られる。
「《ウォーターボール》64」
水の玉が飛ぶがシエルの握る赤い剣が輝き、そこからの炎で全て薙ぎ払われた。
「《サンダーランス》128」
雷の槍が飛ぶが避けられた。切ったら感電ダメージがあったんだが……
「行くぞ、シエル。《フレアボム》256」
3桁を越えてからが勝負だ。
「実況しろよ、実況席」
「舐めんなぁ!」
「《エアーソード》512」
手を刀のように振り下ろす。その軌道で指一本一本からも風の刃が放たれる。
「吹き飛ばーーせぇ!」
緑の大剣が風の刃を吹き飛ばす。だが
「《アイスストーム》1048」
「っぐ⁉︎ MP切れないのかよ⁉︎」
「まだ半分は余裕があるな」
「っ⁉︎ 揃いも揃って化け物ばっかじゃねぇか!」
「お前もこっち側の人間なんだ、早く来いよ」
「言われなくともなぁ!」
最後だ。
「《天雷神槍》2096!」
「《ヴォルケイノブレイザー》! 《エアースライサー》!」
業火と烈風がガトリングのように放たれる稲妻の槍を受け止めようとする。
「は、はは」
何が化け物だ。お前こそ化け物じゃないか。
絶え間無く迫り来る槍を避け続けるだと? そんなもの、あの2人にしか出来ないぞ。
agi任せの2人よりもずっと上だ。獣のような直感で全てを見極めている!
「ははははは! 《エレメンタルブラスト》!」
光と闇を除いた5属性の奔流を放つ。正面から迎え撃とうと構えるシエル。さすがだが
「《ライトニング》!」
真上からの雷撃により、一瞬の麻痺。そしてその一瞬で勝負は決した。
『勝者! 《魔人》ベルフェゴール!』
またしてもセブンスドラゴニックライオネルソードが!




