襲いかかる肉球
「アリア殿」
「リョーマ、君たちも参加するんだよね？」
「当然で御座るよ」
「魔法系のスキルを上げているプレイヤーはいるの？」
「少しで御座るが」
「うん、それならその人たちをマモンのところに案内して」
「了解で御座るよ」
リョーマが何人かに声をかけて移動する。すると
「げ」
「む」
見覚えのあるプレイヤーが顔を顰めて僕を見た。
「幻影騎士団……」
「どうも……」
「で、魔法系のスキルを上げているプレイヤーはいるの？」
「唐突⁉︎」
かつて幻影スキルで僕を苦しめた名前を知らないプレイヤーは驚き、そして
「数人だ」
「それじゃマモンの方に案内して、遠距離系は？」
「いない」
「なら僕に着いて来て」
「ん？ もう募集は終わりなのか？」
「これからレグルスを討つんだ、時間かかるからね」
僕はカーマインブラックスミスから出て魔法系のプレイヤーたちと話しているマモンと遠距離系のプレイヤーたちと談笑している魔王を見つけた。
「魔王、マモン、行くよ」
「あいよ。向こうは揃ったらしいぜ」
「こっちも転移して良いよねー？」
「うん。全員持っているよね？」
たくさんの返事が来て若干五月蝿い。
「それじゃ行こっか」
メニューを開き、転移アイテムを使用した。
＊＊＊＊＊
「さて、またしてもレグルスが雄々しく吠えているわね」
「そうだな」
「ご主人様、どうぞご命令を」
3人の視線に頷いて
「全力でレグルスを討つよ！」
「はい！」
「おう！」
「承りました！」
同時に駆け出す。僕たち4人は遊撃部隊。
シェリ姉率いる魔法部隊。マモン率いる遠距離部隊。魔王率いる突撃部隊。そして血気盛んな遊撃部隊と別れている。ちなみにどこに所属したいかは個人の自由にしている。
「アリア殿！ 来るで御座るよ！」
「うん！ 回避！」
僕の指示に5人が従い、同時に飛び退く。直後、その位置に肉球スタンプが。
「肉球……」
「ちょっとヴィクトリア⁉︎ 肉球に惹かれないで！」
「ですが肉球ですよ！」
「されど肉球よ！」
ヴィクトリアの意外な好みが発覚。そしてエレナはそんなヴィクトリアを引っ張って
「オーバーシールド！」
盾を突き出す。その盾から放たれたオーラが振り下ろされる肉球と激突。その隙に全員安全地帯に移動。
「やっぱり僕は場違いだと思いますよ⁉︎」
「セスタス！ 避けろ！」
「え、ってわっ⁉︎」
セスタスの背後からの爪による引っ掻きをスカイが2本の剣で斬りつけ、逸らした。そう、逸らせたんだ。
「やれるぜ！ 最強！」
「分かったよ。全員、作戦通りに行くよ！」
「おう！」
「はい！」
「承りました！」
「承知！」
「分かりました！」
右前足の攻撃を避けつつ、左後ろ足に向かって走る。やっぱりレグルスは大きい。真下からだと圧迫感すら感じる。
「ひよちゃん！」
『ちぃぃぃっ！』
「スカイ！」
「ああ！」
僕の伸ばした手をスカイが握る。同時に跳躍。そして飛来したひよちゃんの上に2人で着地。
「背中の上に！」
『ちぃ！』
「行きますよ！」
「ご主人様の命に従います！」
「行くで御座る！」
「場違い感が半端ない……」
下の四人は作戦通りに動いている。
レグルスは猫科の動物。つまり4足歩行だ。そして右前足を振り上げている時、他の足を動かすとバランスを崩して倒れる。それはAIが絶対と言っても良いほどしないだろう。
「……上から見ると地味だな」
「うん」
ひよちゃんがレグルスの鬣うにょうにょを旋回して回避する。その間も足元チクチク隊は頑張っている。
「えぃっ」
「っと」
同時にひよちゃんから飛び降りて、レグルスの背中に着地。鬣うにょうにょが早速迫る。
「やるぜ、最強！」
「うん！」
＊＊＊＊＊
「やっぱりこの数を統率するのは難しいよね」
「シェリルならやれるさ」
「ベルさんが私の何を知っているんですか？」
「アリアが色々と誉めそやしていたぜ？」
ベルさんの言葉に思わず絶句。すると
「行くよ！」
「だってさ」
「それじゃ砲撃開始！」
アリアちゃんの大きな宣言に私たち魔法系プレイヤーは一斉に魔法を放つ。
ファイアーボール、ウォーターランスなどの初級魔法は《詠唱短縮》を習得しているからノータイムで発動出来る。中級のアイスやエアー系統は魔法陣展開が必要だけど。
「それじゃちょっとばかし良いとこ魅せるか！ フレアランス多重並列で100発動！」
「え⁉︎」
「続けてエアーランスを同じく100発動！」
「えええ⁉︎」
多重並列って何⁉︎ しかも連続して魔法を発動⁉︎
「どーん」
なんて事も無いように放たれた燃え盛る槍と凝縮された大気の槍がレグルスに向かって飛ぶ。
「何をしたの？」
「単純に魔法に耐性があるなら数で補っただけだが？」
「そうじゃなくて……多重並列とか言うの」
「あれは……ま、後で説明するさ。アイスウォール多重並列で50発動！」
50枚の分厚い氷の壁がレグルスの尾を防ぐ。背後から魔法でどんどん攻めるのが私たちの役目だ。
「ほら、続け！」
「はい！」
＊＊＊＊＊
「どうしてあたしがこんな役目を負うんだろうなぁ！」
振り下ろされた足を全力で斬りつけ、その反動で回避する。剣が足に切り込まないように調整、もしくは切り抜けないといけない。
「新入りの俺たちが働くのは当然だろうな！」
セプトは淡々と片手斧で足を攻撃する。
「まったく正面を受け持つあたしが防御系の装備無しってどういう事なんだろうな？」
「さぁな。とりあえず俺たちは任された仕事をこなすだけだ」
「それが大人の考え方か？」
「所帯を持てば安定が大事だと分かるさ」
セプトの言葉にため息を吐いて
「あたしも誰かと結婚するのかね！」
「知らんな！ インパクトシールド！」
「セプトは結婚してどんな感じだよ！」
「幸せさ！」
舌打ち。
「とりあえず仕事をこなすぞ！」
「分かってる！」
私たち特攻隊はレグルスの前面より攻撃を避けつつ攻撃を仕掛けている。
＊＊＊＊＊
「どうして私とベルは別なのかしら？」
「うーん、魔法スキルを育てたらベルと一緒になれたかもねー」
私は流沙の想い人である直美を見てため息を吐く。親友でもある、恋敵でもある。なのに彼は私の気持ちを知らず、マモンも彼の気持ちを知らない。三角関係に近い。
「はぁ……」
「ため息を吐くと幸せが逃げるよー。スプレッドポイズンアロー！」
毒のダメージは最大体力の1パーセント以下、それでもする価値はあるほどの膨大な体力には呆れるしかない。
「ねぇ、レヴィ」
「何よ？」
「レヴィも前に出たら？」
「はぁ？ 私は双銃士よ？」
「双銃士って言うか多銃士でしょ？」
「違いない」
インベントリからスナイパーライフルを取り出してスコープを覗きつつ
「マモン、どこを狙う？」
「目」
「エグいとこ狙うね」
「弱い場所を狙わないとね」
普段の口調は私にとっても違和感を感じる。
「〜わぁ」などと少し独特の話し方を彼が好むと知っているから。彼を振り向かせたいから。
でも、ここに彼はいない。
「はぁ……やるせない」
＊＊＊＊＊
レグルスの残り体力:約7億9千万
状態異常:無し
受験終わったから毎日更新するつもりだぜー
Twitterの方で次回予告的な物をしているから気が向いたらどぞー
ちなみに「狐面」じゃなくて「孤面」
狐じゃないよ
