ラブゥな想いを伝えるためのサムシング
「それじゃあ成績表を返すからしっかり親に見せて判子をもらって来るように。それじゃ気をつけて夏休みを過ごしてね」
「先生、夏休みは来週からです」
*****
「普通夏休み編一週間前に成績表って返すのかな?」
「性急だと思うなぁ」
「それとどうしてここにいるの?」
僕の言葉にマモンは大袈裟に驚いて
「今回は偶然。たまたま見かけただけ」
「……まぁ、良いけどさ。ニュービーをここに連れて来るのは感心しないよ」
「夏休み前にブーストしておきたいんだって」
「マモンもそのニュービー育成を請け負うの、やめたら?」
「ううん。存外成長していくのを見るのは楽しいよ?」
僕はマモンの言葉に苦笑して
「それじゃ僕は進むから。ここのダンジョンは簡単だから落ち着いて攻略しなよ」
そう言ってアリアが去った後
「あんな風にさりげなく良い子だからね」
*****
「ひよちゃん、こっちであってるかな?」
『ちぃ?』
「錬金術の上位を探しているんだけどね……どこかの洞窟の中に研究所があるらしいんだ」
『ちぃ!』
「うん、その研究所は転々としているから毎度毎度違う洞窟ダンジョンに潜らないといけないんだ」
発見報告は掲示板に書き込まれる。それを見て捜索しているプレイヤーは落胆し、次の洞窟ダンジョンに潜るのだ。
ダンジョンの中にある研究所のリポップは24時間経過しなければならない。だから1日一件以下の書き込みがある。
「このままダンジョンの奥まで行くよ」
『ちぃ!』
今日はルフとちゅう吉はお休みだ。お店を出る時には2人はぐっすり寝ていた。とりあえずメモを残したから大丈夫なはず。
「スターダストスラスト!」
『ちぃ(ウォーターボム)!』
僕とひよちゃんは群がるゴブリンたちを倒しながら奥に進む。そして少し広い空間に出た。そこで
『ぐぎゃああああああああ!』
「わ、大きなゴブリン」
『ちぃ……』
僕は背中の剣を片方抜いて柄で棍棒を受け止める。そのまま一歩下がって剣を振り上げる。
『ぎ!?』
「ひよちゃんは他のをお願い」
『ちぃ!』
このゴブリンは僕がスキルを使わずにどれくらいやれるのかを試すから。
振り下ろされる棍棒を剣で受け止めて開いている方の剣で原を切りつける。僕よりも大きいゴブリンは煩わしそうに棍棒を振りぬいた。だけどそこに僕はいない。
「遅いよ、どこを見ているの?」
『ぐぎぎ!』
「後ろだよ!」
足を二回切って振り向くゴブリンの腕を掻い潜って
「やっ!」
『ちぃ!』
「終わったね」
案外僕もやれるようだ。
*****
「って事で今度の大型アップデートで三日ログインできないから全員でオフ会しない?」
「僕は構わないよ」
「新入りの三人もいるからな、俺も賛成だ。反対の奴はいるか?」
「んー、反対ってわけじゃねぇけどレポートの進捗によっては参加できねぇかも」
ベルの言葉にマモンが説教を始める。そして
「私は問題ないわね」
「俺も」
レヴィとブブが頷く。それにマモンと魔王、僕が賛成した。
「俺らも問題ない。そうだな、サタン」
「ああ、ルシファー」
リアルでの兄弟が頷いて
「出来れば俺も行くぜ」
「私も行こう」
ベルとアスモが頷いた。だから
「おふかい?」
「うん、みんなとリアルで会うの」
「あぁ……そのオフ会ね。アリアちゃんも行くの?」
「うん、私は傘下のメンバーだからね。セプトとシエルは分かんないけど直美も来るよ」
「ふーん……でも少し危険じゃないの?」
「大丈夫だよ、今までも何回かやっているから」
私の言葉にシェリ姉は驚いて
「そうだったの……ところで私はみんなと初対面なんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫、シェリ姉はナイスおっぱいやっているかららら!?」
笑顔で僕の頬を引っ張るシェリ姉。怖いよ。
「直美がいるなら大丈夫ね」
「うん」
*****
「セプトとシエルもオフ会に来ない?」
「え」
「む」
二人は少し考えて
「いつだ?」
「一応俺も仕事があるからな……日付に寄る」
「今度の大型アップデートの日だってさ。大丈夫?」
「それならあたしは大丈夫だ」
「俺も多分問題ないな」
二人の言葉に頷く。
このゲームのサーバーは基本的に地域で分けられている。僕らが住んでいる九州地方、中国四国地方、近畿地方、関東地方、東北地方に北海道。そして北アメリカ南アメリカ東中国とか……もっとあったはずだ。もっとも分けられているから方言も問題無いし言語も問題無い……とはいかない。引っ越すもん。
「しかし全員九州に住んでいると思うと不思議だね」
「私たち福岡移住組が言ってもね……」
僕たちはシェリ姉が産まれる前に福岡に引っ越して来たらしい。理由は知らない。
「アリアちゃん、それよりもお客さんが待ってるよ」
「あ、うん」
とりあえず接客して武器のカテゴリーとイメージjpg、そして素材を受け取る。期限は2週間が最低に設定しているので当然2週間後に渡す。
「セプトとシエルはどこに住んでいるの?」
「俺は佐賀だな」
「あたしは大分」
「私たちは福岡だから近いね」
「九州なら近いだろう」
セプトはそう言いながら店内を物色する。
前みたいにオーダーメイドだけでなく外見は普通の、もしくは僕のイメージした性能は高い武具を並べるようにした。ついでに裁縫スキルで作ったのも防具化して買って行くプレイヤーも少なくない。
「それにしても大型アップデートか」
「きっと夏休みイベントに向けて、だろうね」
「あたしたちはどうしたら良いんだ?」
「傘下にイベントでの方針は無いよ。ただ楽しんで強ければなんでもって感じ?」
「随分とフリーダムだな」
「だって僕たちだし」
僕の言葉に2人が納得する。それにシェリ姉はため息を吐いて
「どこのお店に集まるの?」
「んー、福岡の唐人町の白織屋ってお店」
「知り合いの店なのか?」
「マモンの家なの」
2人が頷く。すると
「白織屋……嫌な予感がするな」
「何かあったのか?」
「シエルがそんな事を言うなんて珍しいね」
「あー、まぁ……多分行った事がある」
「ほう?」
「メイド喫茶っぽい店だよな?」
シエルの言葉に僕は頷いてシェリ姉が顔を顰める。バイトの際はメイド服着用だからね。
*****
「アリア、明日からどうするの?」
「私たちは用事があるから」
夏休み開始の金曜日、大型アップデートは今日から始まっている。だからきりは声をかけたのだろう。
「アリアが予定あるなんて珍しいね」
「怒るよ?」
「だって今までSSOくらいしか予定無かったじゃん」
「……確かにそうだけどさ」
今回のもSSOの事だけどね。それは口に出さずに
「それじゃまた向こうで」
「はーい。シェリルさんにもよろしくねー」
きりがテンション高く教室を出る。それに苦笑して鞄を持ち、教室を出る。階段を降りて下駄箱に。すると
「……ぬ⁉︎」
そこには1枚の封筒があった。何かと思い、ひっくり返して見るも名前も何も書かれていない。
「これってもしかして……ラブゥな想いを伝えるためのサムシング?」
とりあえず人目のつかない自販機前に移動して封筒を開ける。そして中に入っている1枚の紙を取り出すと
ラブゥな想いを伝えるためのサムシングそのものだった。
ラブなレターですね……多分




