ひよちゃん、蚊帳の外
「ひよちゃんたちは出来ればあんまり手出ししないで欲しいんだけど」
『ちぃ⁉︎』
『ちゅう⁉︎』
『うぉん⁉︎』
ブレーメンズの鳴き声に渋々意見を下げた。
*****
「さてと、トーナメント表を見た感じだとセプトもシエルもリョーマもいるんだね」
あの3人がいるなら苦戦は免れない。なのに頰の緩みが抑えられない。いつか彼らと戦いたかったからだ。
「初戦は知らないけど四勝すれば優勝か」
優勝、それは決勝でセプトと当たるという事だ。そしてそこに行くには初戦に勝ち、勝ち上がるであろうシエル、リョーマを打倒しないといけない。
だけど問題無い。ゲーマーだからこそこういった場では全力でぶつかるんだ。
「負けないし、勝つよ」
『ちぃ!』
「だって僕たちが最強なんだからね」
肩の上で腕を組むちゅう吉と体を擦り寄せるルフに笑って
「行こうか」
光に包まれて初戦のフィールドに。
テイムモンスターの仕様を軽く説明しよう。
テイムモンスターは体力が全損すると教会に行き、金を払って蘇生させてもらわないといけない。しかしイベント、大会のような場合ではリタイアという事になり全損していない事になる。
簡単に言えば全損しても大丈夫……とは言い方が悪いけどね。
『START!』
「フレイムジャベリン!」
「アークスラッシュ!」
開始直後に投げられた槍を2連撃で防ぐ。そして
「ミーティ『ちぃ(アイスランス)!』
「ランスバリア!」
手元に出現したさっきの槍をクルクルと回転させて氷の槍を防ぐ。そして
『うぉん(クロススラスト)!』
『ちゅう(ウィンドボム)!』
「なっ⁉︎ ランスバリッ⁉︎」
再び防ごうとするがルフの爪での一撃を防ぐだけに終わる。ちゅう吉の魔法で吹き飛ぶその体。
体力がさほど減っていないのはシエルが見せたあのポーション装備だろう。だけどあれなら問題無い。
「ダブルテンペストォ!」
「ランススラストォォォ!」
1、2、3連撃は槍による斬撃に防がれた。しかし残る13連撃はそうもいかなかった。飛び散る破片を信じられないといった表情で眺める槍使いの残りの連撃を叩き込んで……全損した。
*****
「次の試合は……やっぱりシエルが勝ち上がって来たか」
『ちぃ……』
『ちゅう……』
『うぉん……』
どことなく悲しそうなブレーメンズの頭を撫でて
「次の試合、一切手出しをしないで欲しいんだ」
5分後
「よっ」
「やぁ、シエル。順調そうだね」
「ここで順調かどうかが別れるんだけどな」
シエルはヴォルケイノブレイザーを両手で構えてニヤリと笑う。
「正直優勝よりもお前とあの時の決着をつけたいな」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「それがあれか?」
「うん」
フィールドの端の方でブレーメンズしている三人をシエルは眺めて
「お前に勝ってリョーマが勝ち上がるだろう。そしてセプトも」
「マモンとシェリ姉が参加していないのが残念だね」
「だな」
そして
『START!』
「バスタァァァァァ!」
「ミーティアメテオ!」
激突、吹き飛ぶ。
バスター系のスキルは剣の腹でぶっ飛ばす。スライサーは斬撃。ホリゾンタルは範囲だ。それが分かっていれば対処も出来る。
「デュアルホリゾンタル!」
「ふっ」
地面を蹴って飛び上がる。
剣の特性上範囲を攻撃しようと思うと斬撃を伸ばすか薙ぎ払うしかない。だから飛び越えて
「スターダストスプラッシュ!」
「アッパーバスター!」
9連撃を放つも上空に吹き飛ばされる。そして見下ろすとシエルは大技の構えをしていた。
僕はそれを見て笑う。そしてもう片方の剣を抜く。かつての片手長剣を使った過去から現在に切り替わる。そして
「行くぜ! ファイナルスライサーァァァァァッ!」
「行くよ! ダブルサイクロン!」
今使える最高のスキル、25連撃を放つ。しかし正面からの剣を防ぎ切れない。残り半分くらいなのにシエルの剣は止まらない。むしろ強くなっている。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「せゃぁぁぁぁぁ!」
裂帛の気合い、そしてひび割れる音が。
「なんてタイミングだ⁉︎」
「こっちの台詞だよ!」
決着をつけるためにもヒビの入った剣を構えて駆ける。
ちなみに剣にヒビが入るのは耐久が2割を切ったと知らせてくれる凄く便利なシステムだ。
「うぉぉ! フルバスターァァァァァ!」
「ミーティアスラスト!」
振りかぶられた剣の下を潜り抜けて背後に。そして全力での一撃。しかし
「ポーション、つけてないんだ」
全損したプレイヤーはさっさとフィールドから出された。そして僕も待機室に戻る。慌ててインベントリを開いて
「設備の整っていない状況でどこまでやれるかな」
*****
「む、危のう御座るな」
拙者は地面を蹴って下がる。直後、立っていた位置に剣による斬撃が。
「侍野郎! 避けんな!」
「殺生な……」
拙者は刀を納刀。そして駆ける。アリア殿には及ばぬものの速度ならばこの程度の者は越えている。
「居合・十六夜!」
「ソードパリ⁉︎」
「無駄で御座るよ」
すでに剣身の無い剣ごと断つ。全損だ。
「……セプトも勝ち上がっているで御座るな」
再確認して
「次はアリア殿か」
刀を納刀した。
*****
「……アリア殿、剣の耐久は大丈夫で御座るか?」
「一応出来る限り回復させたよ。鍛冶屋スキルを取っていて良かったとつくづく実感したよ」
「拙者も戦闘スキル以外も取ってみようか悩める」
リョーマは細い目で刀の柄に手を当てる。そして
「テイムモンスター、使わないので御座るか?」
「一応初めてだしね、正々堂々と戦いたいんだ」
『ちぃ⁉︎』
『ちゅう⁉︎』
『うぉん⁉︎』
「……文句を言って御座るな」
「うん」
僕は背中の二本の剣を抜く。シャラン、と爽やかな音を立てる。
素材は高純度ミスリルに風龍をふんだんに。そしてagiをガン上げした。防具の方でstrは上げている。
「最強のアリア殿がどれほどのものか、試させていただく!」
「亀山社中のリーダー、リョーマ。全力で行かせてもらうよ!」
『START!』
「居合・三日月!」
「ダブルラッシュ!」
抜刀の勢いで斬りつけるスキルを回転しながらの斬撃で防ぐ。
「納刀・逆巻!」
「ダブルテンペスト!」
巻き込むような刀を16連撃で防御、そして攻撃に転じる。
二刀流スキルの欠点は威力が低い事だ。手数で補うとはいえ否めない。
「ダブルサイクロン!」
「む⁉︎」
リョーマは勘良く飛び下がる。しかしそれはこのスキルには向いていない回避だ。
「むぅ⁉︎」
回転して斬りつける。回転するという事は勢いがあるという事。勢いのままに高速で追いかけながらの剣撃。いつの間にかリョーマは壁際に追い詰められていた。
しかしその目は見開かれ、諦めてはいなかった。
「居合・満月!」
光の速さで迫る刀。しかしその軌道にはすでに僕の剣が振り下ろされている。
そして
「……僕の勝ちだ」
だけど失った物はある。二刀流の片割れが、折れた。そして光の粒子となって消滅した。
「……はぁ」
僕はため息を吐いて
「やっちゃって!」
『ちぃ!』
『ちゅう!』
『うぉん!』
「ちょ⁉︎ おま⁉︎」
セプトはブレーメンズに敗北した。
セプトはブレーメンズと同等の力があります
しかしテイムスキル習得の際に手伝ってもらったため攻撃し辛かった、と後書きに書くスタイル
ブレーメンズは強い(確信)
初戦の相手が誰かも分からないくらいには強い




