虚構からの挑戦 前編
ブックマーク1000越え記念
「……あれぇ?」
アリアは思わず首を傾げる。さっきまで森の中にいたはずなのに、いつの間にかビル街にいた。それに戸惑いながら、目を細める。
違う、ここはビル街じゃない。匂いがない。アスファルトの焦げる匂いや、人の喧噪もない。余りにもおかしい、と思いながら周囲を見回して――ビルの窓ガラスに映る自分の姿に戸惑う。
「……」
剣を装備している、ミニスカート、シャツなのは良い。《乙女の羽衣》の能力で見た目を自在に変更できるからだ。他の装備もほとんど問題はない。だがしかし、一つだけ大切な装備がない。
「指輪が……」
シンと贈り合った指輪が無い。それに動揺し、思わず目を見開く。アレは大切なものなのに、と思いながら周囲に目を走らせるが――当然、落ちているわけがない。
そんな自分の期待に腹立たしく思いながら――思わず腰の剣に手を伸ばす。今、何か強大な者がどこかから現われた。直感的なそれに迷いを持たず、地面を蹴る。そのままつるつるの窓ガラスを足場に屋上へと駆け上がる。高いところからなら見やすい、そう思ったのだが――
「っ」
何かが飛来した。咄嗟に剣を振るい、それをはたき落とす。そのまま窓ガラスを蹴り――窓ガラスが割れ、砕け散るのを無視して《乙女の羽衣》から翼を生やす。変形機構を使いこなし、飛翔するアリア。しかしそんな彼女目掛けて何かは飛来し続ける。
「……何者か分からないけど、敵よね」
屋上の給水塔の影に隠れつつ、小さく息を吐く。そのまま落ち着き、冷静にメニュー画面を開く。開けない。バグ、エラーなどの単語が頭を過ぎるがそれを無視して
「っ、見つけた」
遠くの屋上に移動する人影。それを見据え、アリアは駆け出す。屋上から屋上へ、何かが飛来する度に剣が閃き、加速を一向に中断しない。時に翼がその加速の手助けをし、アリアと人影の彼我の距離は徐々に詰められつつある。
人影はアリアに向けて何かを放ちつつ、逃げる。それをアリアが追いかけ――人影が屋上から降り始めた。非常階段をカンカン、と金属音を鳴り響かせながら降りていくのを眺め、片方の剣を鞘に収め、一本の剣を両手で握る。そのまま一呼吸し、翼で大気を叩いて急加速し――
「光よ――!?」
三段の波状攻撃が放たれる――、はずだった。だがしかし、アリアの想定していた現象は起きなかった。衝撃波が放たれたのも、ソニックブームが放たれたのも、斬撃自体が放たれたのも問題はなかったが――今のはスキルではなく、自分で行ったことだ。システムの手助けがなかった。
一瞬だけ困惑し、しかしそれを無視して崩壊し始めた非常階段を駆け下りる。もっとも一段ずつ、ではなく螺旋階段の外側の手すりを足場に、重力に従いながら駆け下りたのだ。
「追いついた」
剣を振り抜き、その人影を弾き飛ばす。非常階段に引っかかったが、その腹を蹴りつけて吹き飛ばし、道路へと追い出した。そのまま距離を詰め、剣を喉に突きつける。普段ならこんな悠長なことはしないが、今は余りにも謎なこの世界について聞きたかったのだ。
だがしかし、アリアは眉を顰める。剣を突きつけられても表情一つ変えず、それはアリアに銃を向ける。その銃を蹴り飛ばし、両腕を斬り飛ばして――困惑した表情を浮かべる。
「人間じゃない?」
腕の断面はどう見ても機械だった。ロボット、と考えた瞬間にそれは目を光らせ――その瞳からレーザーを放った。思わずアリアは横っ跳びし、なんとか回避したが――あれほど攻撃しても動きを止めないとは思わなかった。だからこそ、行動に躊躇が産まれ――直後、ロボットが爆発した。
避けられない――なら、剣を振るう。神速の剣が爆風を切り裂き、飛来する金属片などを阻む。阻み切れていない。ダメージがある。ダメージだ。痛みではなく、ダメージだった。
「……あ」
情報を聞き出したかったのに、自爆された。それにアリアが内心で困っているが、他にロボットがいるようでもなく――何の気配もない。
どうしよう、と思いながら道路のど真ん中で佇む。車が来ない。人がいない。どうしよう。改めて考え――周囲を見回し、ここがどこかを調べる。道路標識に書いてあったのは――天神。普段で歩かないエリアではあるが、福岡県だ。
「……うーむ」
自分の家は姪浜にある。そこに行けば何かがある、とは思えない。だがしかし、逆にどこに行けというのだろうか。大切な者を失った指に触れ、小さくため息を吐く。
「しゃあない」
地下鉄線を歩いて姪浜まで行こう。
*****
「うぅ……暗いよぉ」
余りの恐怖に身を震わせながら歩く。普段は危険なはずの線路におり、歩いているのだ。しかも僅かな灯りしかなく、足下すら覚束無いのだ。怖い。
「怖いよ……誰か-」
いませんかー、という言葉が反響している。それに苦笑しながらゆっくりと歩いて――突如、背後で金属音。咄嗟に振り向いた瞬間、赤が見えて――何かが髪を散らしながら通過していった。
敵だ、と一瞬で判断して地面を蹴る。赤い光、マズルフラッシュ、銃。連想ゲームのように思考を転々としながら距離を詰め、剣を抜きながら振り抜く。暗闇の中で上半身と下半身を離婚させ――直後、自爆。
「っ!?」
バックステップで回避したが――待ち伏せされていたのだろうか、と思考する。一体誰が、何のために、どうしてここが。
とりとめのない思考がアリアの脳内を埋め尽くし――しかし、ここに留まっていても何も分からない。先を急ごう。そう思い――姪浜まで、駆け出した。道中、何度か襲撃はあったが――聞き出すことを放棄したアリアにとって、その程度は足下の小石ほどの影響もなかった。
*****
「ん」
姪浜、と掲示板に書いてある。ついでに地下鉄の終点なので地上にホームがある。それに頷きながらホームへと跳び上がる。普通なら地下鉄が到着して開く、落下防止の柵があるのだが、それをあっさりと跳び越えて――ホームに降り立ち、周囲を見回す。しかし何も無い。何の痕跡も無い。孤独。寂しい。一瞬でアリアの思考が暗くなりかけたが――金属音。敵。
何かすることがあれば考えなくて済む。アリアはそう思いながら金属音の元へと向かい――放たれる銃弾を壁に飛び移り、回避する。そのまま壁を走り、助走を付けて跳び、勢いを乗せた斬撃を放って纏めてロボットを薙ぎ払う。全てのロボットを薙ぎ払った後、アリアは小さく笑みを浮かべる。
(ここに来て初めての一対多……この辺りに何か重要な物がある!)
笑みを浮かべたまま階段を駆け降り、一階へと向かう。そんなアリアに向けて銃弾が放たれるが、そろそろ面倒になってきたので銃弾を弾くに留める。一体一体を倒していては時間がかかるのだ。
そしてアリアが駅内の電気による久々の光に目を細めつつ、階段を駆け降りて――アリアに向けてビルが倒壊してきた。それに一瞬目を見開いたが、アリアは地面を蹴って高速で二本の剣を振り回す。一見乱雑なそれは、ビルを的確に刳り抜き――安全圏を創り上げた。
ビルが地面に激突し、地面が揺れる。コンクリートが弾け飛び、灰色の鉄筋が露出する。そんな中、アリアは土埃に辟易しつつ、目を閉じて――剣を振り抜く。安全圏を拡げるのではなく、安全圏から出るためである。そして桃太郎のように真っ二つになったビルからアリアは跳びだし――周囲に目を走らせ、驚く。どこもかしこも、四方八方――
「……ロボットばっかじゃん」
直後、100を越えるロボットから一斉に射撃が行われ――アリアは思わず、表情が引き攣るのを堪えられなかった。
アリアちゃんたちの物語はまだまだ続く!
あ、次回はユニークが10万人を超えているのでもう書き始めます
これの続編のはずなのに、記念小説扱い、意味が分からない
ソーニョとか全部落選したぜひゃっほい
新作の「LUCK極振り!」もよろしく!




