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そして――

 結局、アリアの首は切り飛ばせなかった。シンはそれに歯噛みしながら剣を押し込む。

 体勢の整っていないアリアを切り伏せようと押し込むが、アリアは剣を擦らせ、その下をすり抜けるように通り抜けた。そしてそのままシンへと斬りつけるが、寸断された剣が阻み、剣が反撃を繰り出す。


 アリアもシンも、お互いを追い詰めているにもかかわらず決着が着かない。それにアリアが焦れ、シンは安堵する。その心の持ちようがアリアとシンに如実な差を与えているのだ。


 地面に触れるような低い斬撃がシンの足を刈り取ろうと迫り、それをシンは避ける。そのままカウンターを放とうとするが、その時にはアリアは体勢を整え、カウンターにカウンターを放とうとしている。それを眺め、シンはカウンターの手を止める。


「……」

「っ!」


 アリアの剣をシンは受け止めない。受け止めてしまえば余波で死にかねないからだ。必死に避け、必死に逸らし、反撃を放つ。その応酬はすでに10分近く続いていた。

 その様子を眺め、誰も何も話せなくなる。ざわめきすら途絶えた場で二人は剣戟を続ける。それはまるで剣舞のような舞にも見え、泥臭い殴り合いにも見える。だが、それに野次を飛ばす者はおらず、ただただ見つめていた。


 アリアは一度距離を取り、そっと剣の腹を撫で上げる。その様子はどこか妖しく、美しいものだった。しかしシンはそれに見惚れたりしない。巨剣をアイテム欄に収納し、オブジェクト化した。

 原形となった巨剣を眺め、アリアは考える。どうして治っているのか、と。


(耐久が無限ならば原型そのまま、とでもシステムが思ったのでしょうね。ならば剣が修正されるのは道理かと思いますけど)

(ふーん)

(随分と興味なさそうですわね!?)


 アリアはもう一人の自分と対話しながら剣を構える。剣の先端を左手で握るようにし、左手を伸ばす。剣の刃が空を眺め、峰が左腕を冷たく撫でる。


「――牙突みたいだ」

「あら」


 突きじゃない。そう言うのももどかしく、アリアは地面を蹴った。そのままシンの背後から斬りつけるが、シンは剣でそれを弾く。打ち上げられる剣に固執せず、手放しながら突っ込む。巨剣が道を阻もうと、叩き潰そうと迫るが


「邪魔を、するなぁっ!」


 拳がそれを弾く。体力が残り僅かだと騒ぎ出した。五月蠅い。黙れ。今良いところなんだから。

 アリアの体力は一割程度になっている。しかしアリアはそれに気を遣わず、シンに蹴りを放った。それをシンは眺めながら剣を立て、攻撃を受け流す。そのまま斬りかかるが、空中で剣を掴み取ったアリアの剣と激突し、お互いに距離を開ける。


 今の激突の余波ですら死にかねない二人は慎重に距離を測り、構える。だが、アリアは目を閉じていた。

 全てを直感に委ね、アリアは戦おうとしていた。それにシンは驚きながらも納得し、剣を構えた。その手に握られている剣は一本。《夜明けと黄昏の剣(ドーン・トワイライト)》だけだ。


「決着を付けよう、アリア」

「そうだね、シン」


 アリアは地面を蹴り、シンもまた地面を蹴った。右手に剣を握りしめ、左手には何も握らない。お互いにまったく同じような状態で二人は駆け寄った。それはまるで抱擁を求める恋人みたいで、そのまま剣を交わらせる。

 衝撃ですら死ぬのだから剣を交わらせるのは危険だ。それを理解していながらアリアとシンは一撃ごとに距離を取り、すぐさま激突を繰り返していた。衝撃波がお互いの体力を微量に削りながら、しかしどちらも大きなダメージを受けない。


 アリアの剣が前髪を掠め、シンの剣が肩を掠める。紙一重の斬り合いはいつしか速度を増し、残像すら産むほどだった。だが、どちらも体力が少なかったが故に、即座に体力は目で見ることすら困難な程度までに減っていた。


「……こんな体力、初めてよ」

「僕もだよ」


 シンの体力とアリアの体力はまったく同じだった。数値にしたならば1,と言ったところだ。だからこそ、次の一撃を放てば確実に終わる、とお互いが分かっていた。

 アリアは剣を逆手に握り直し、背中に峰を触れさせる。シンは剣を鞘に収め、腰を落とす。そのまま同時に地面を蹴った。


「《光よ》!」

「《闇よ》!」


 静謐なる斬撃が、衝撃波を斬り裂き、ソニックブームを斬り裂く。そのまま剣と激突し、甲高い音を立てて何かが割れた音が鳴り響いた。


「……なんだろうね、この気持ち」


 まともに立っていることすらキツくなり、自然とお尻が地面に触れた。そのまま倒れ込みたくなるような気持ちをぐっと堪え、僕は空を見上げる。


「……僕の勝ちだ」


 たった一人の宣言は、光となって消えた妻の元に届いたのだろうか。


*****


 その光景は見ていた者にとって、驚愕と衝撃を与えた。あのアリアが、《最強》が負けたのだ。そしてその中でももっとも衝撃を受けていたのは、彼女だった。


「嘘でしょう……アリアが、負けた!? あり得ませんわ!」


 エカテリーナは信じられない、とでも言うかのように絶叫する。その目は光となって消えたアリアに向けられており、シンには向けられていなかった。

 次にエカテリーナが戦う相手はシン、と分かっていてもエカテリーナはそれを受け入れられない。だからエカテリーナは


「シンに勝てば、私が最強……? つまりアリアに勝ったと言っても過言では無い!」


 謎の納得をしていた。そしてそのまま意気揚々、と細剣の柄を撫でてシンとの戦いを待ちわびていた。


 一方その頃、シンはと言うと


「アリア、耐久の回復をお願いしても良いかな?」

「良いわよ」

「……あっちのアリアは?」

「負けたのがショックみたいで拗ねちゃったわ。本当にお子様」


 アリアは愉快そうに口にしながら砥石で剣を研ぐ。そして目を眇めながら剣を眺め、耐久が回復したのを確認して


「そうだ、シン。《アリア》を持っていく?」

「……ううん、要らないよ。今はこの二本だけで充分だよ」

「そう。なら全力でエカテリーナをぶっ飛ばしなさい!」

「前から思っていたけど君たち、本当に親友なの? 親友の顔をした別の何かじゃない? 裏切ったりする感じじゃない?」

「友情ごっこ的な」

「そんな感じ」


 アリアはすっきりしたような、何かが抜けたような表情で朗らかに笑う。そしてそのままシンの顔を見上げ、ふぅ、と息を吐いた。それにシンが疑問を抱いていると


「この世界では負けエンド、でも次の世界じゃ負けないからね」

「――うん、楽しみにしているよ」


 シンはそう言いながら剣を眺める。そのまま剣の刃を眺め、息を漏らす。


「勝てるかな、エカテリーナに」

「勝てるわよ、私に勝ったのだから」

「そっか」

「そうよ」


 なんとなくシンは安心して、アリアの頭に手を伸ばす。そのままアリアの頭を撫でようとしたが、それに先んじてアリアは頭を手に擦りつける。その様子はマーキングする小動物のようだった。

 それに驚きながらシンは苦笑して、アリアの頭から手を離す。そのまますでに待機しているエカテリーナに向かっていこうとすると、背後から声が聞こえた。


「ふぁいとー!」

「……一発?」

「おー!」


 天真爛漫その物のような声を上げてアリアは手をぶんぶん、と振った。その様子を眺め、シンは胸の内が熱くなったのを実感する。それはきっと錯覚だ。でも、それでも構わない。

 シンは歩く。待機しているエカテリーナに向けて一歩ずつ進んでいく。そして腰から二本の剣を抜いて、しかし構えない。


「よもやシンがアリアに勝つなんて思いませんでしたわ」

「僕もそうだよ。今だって信じられないし」


 シンは苦笑しながら二本の剣を構え、エカテリーナは紗蘭、と音を立てながら細剣を抜き、シンの喉元に向けた。そして


「行くよ」

「参りますわ!」


 地面を蹴るのは同時だった。


おわーらーないー(レイアース風)


ちなみにシンはアリアに勝ちましたが、以後シンはアリアに負け続けている未来があります


投稿日、1025,1742

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