二回戦第1試合
「マリア、どうする?」
「どうもしないで良いんじゃないかな。崩落は止まらないみたいだけど拠点創って安置に隠れていれば良いんじゃないかな」
「そうだねー」
*****
「ふむ」
「ありゃ」
「っち……」
魔王はマモンとレヴィを眺め、首を捻る。マモンもレヴィもお互いに攻撃を仕掛けていないように見えたからだ。
「どうした」
「どうしたもこうしたもないよ。ただただレヴィをいたぶるよりは他に強いのを待った方が良いかなって思ったの」
「この馬鹿が弾丸を見てから回避余裕とかほざいて実行してしまったのよ……っ!」
レヴィが珍しくキレているな、と魔王は少し驚き、少し警戒をする。万が一二人が襲いかかってきたならば勝てないからだ。
「魔王、共闘しない?」
「なんだ?」
「私の予想だと残る16人は私とレヴィ、魔王とアリアちゃん、マリアとアジアンとシンとジャック、ブブとエカテリーナ、シェリちゃんとエミの12人プラス4人なの」
「……へぇ」
「で、スカイとガイアにロシアとアメリカから合計2人の16人な予定」
「予定か」
予定調和を起こすつもりか、と魔王は呆れる。しかし
「エミリアは負けたのか」
「エカテリーナに負けたよ」
「キャンデラは?」
「アリアに負けた。善戦していたんだけどね……あそこでまさか、《星翼乱舞》からの《悪夢の翼》の属性変化連続攻撃を仕掛けるなんて……本気で認めているんだと思う」
神聖属性の連続斬りから暗黒属性の連続斬りへのシフト。それは《星翼乱舞》の神聖属性の連続斬りが終了する少し前に属性の変化、それで《星翼乱舞》後のスキル硬直を無効にして、さらなる追撃を放ったのだ。
それはアリアがキャンデラを認めている証拠。強敵だと認めている証拠だった。現にこの1回戦のバトルロイヤルでアリアが受けたダメージは、キャンデラが唯一与えたそれだけだったのだ。
*****
『いよいよ2回戦が始まりますね、アリアさん』
『そうね……思った以上に《魔王の傘下》は内側で潰し合っていたみたいね』
『そういうアリアさんだって《魔王の傘下》のメンバーを何人か斬っていましたよね?』
アリアがうふふ、と笑いながら手元の2回戦進出を果たした選手名簿を眺める。そこにはマモンが予想した通りの名前が載っていた。しかし
『いきなり私が一戦目とはね……相手は魔王ね。彼はナイフを使って防御を得意としているわ』
『そうなんですか?』
『ええ。だって1回戦では二本目のナイフを抜くことなく、全てに対処しきったのだから』
魔王は強い。アリアはそう言い切って窓を開け放った。それに実況席の相方が驚いているがアリアはそれに構わない。そしてアリアは窓の縁を蹴って跳び上がる。
観客席から驚きの声が上がるが、アリアはそれに何の反応もしない。そして――その両腕で自分の体を抱きしめるようにして、
「《アストライア―》」
その背中から、8対の翼が広がった。それは純白の翼。そしてそれはひらりひらり、とゆっくりとさらに大きく広がって……宙空で落下を止めた。
「おいで、魔王」
「そう言われちゃ行くしかないな」
選手席から飛び出してきた彼はアリアと対するように特設ステージの中央に立ち、アリアを見上げていた。
天使のような外見のアリアを眺め、魔王は人知れずに喜びを感じていた。あのアリアが、最強にだけ拘っていたアリアが今はまったく別人のようだ。
「さて」
「魔王と戦うのってどれぐらい前以来かしら?」
「さぁな……結構覚えてきていないぐらい前で充分だろう」
すでに戦闘開始のカウントダウンは始まっていた。10を過ぎ、9を通り、8を回って、7を越す。
「構えろ、アリア。それとも浮いたまま、俺と戦うつもりか?」
「――どちらでも良いわ。どっちだろうと魔王と戦うのならば苦戦しそうだし……ね。魔王が望む方に合わせるわ」
「なら地上で、だ。剣を抜け」
「ええ」
アリアの爪先が地面に触れ、ゆっくりと着地した。そしてカウントが1を割り、0へと手を掛ける。それと同時に魔王とアリアは地面を蹴り、剣を振るう。しかしそれに合わせて振るわれたナイフが剣を受け止め、空いているもう片手がアリアの肩へと伸びる。
地面を蹴り、横回転をしながら剣を振るい、着地と同時に地面を蹴って前に出る。背中へと魔王のナイフが迫るが、それを剣の柄で阻み、魔王の目の前で地面を蹴って膝を叩き込む。
「っ!?」
「っち!」
魔王の空いている手が、膝を受け止めていた。しかし魔王は吹き飛んでいる上でダメージを受けていた。咄嗟にナイフを地面に突き立て、地面をがりがりと削りながら減速する。そのまま空いている手で新たなナイフを抜いて、斬りかかってくるアリアの剣を防ぐ。そのまま地面からナイフを引き抜いて高速で斬り結ぶ。
魔王のナイフ二本による防御の壁を剣一本で突破することは難しい。アリアはそう判断して新たな剣に手を伸ばした。するとその瞬間、魔王のナイフが反撃を開始した。
「抜かせないつもりね!」
「抜かれたら困るんでな」
魔王のナイフがアリアの肩を掠め、アリアに微弱なダメージを与える。それにアリアは驚きつつ、翼を広げて周囲一帯を薙ぎ払った。だが、魔王にダメージはない。
「――二本目を抜く時間だけは稼げたわ」
「……」
アリアの剣が魔王の頭に向けて振り下ろされる。しかしそれは小回りの利くナイフに阻まれ、防がれる。しかしすでにアリアの両手には剣が、そして背中には16枚の翼がある。実質――
「18刀流か」
「ええ」
上下左右前後から迫る翼をナイフで切り払い続けながら地面を蹴る。相手の手数が多いのならば、一カ所に留まるのは余りにも危険すぎる。魔王は冷静に考えながらアリアの攻撃を防ぎつつ、二本のナイフを重ねる。
「《解放》――《神討》」
「ん」
それは危険な刃、とアリアは思う。どんな効果を付属させたのかを覚えていないが、危険だったはずだ。確か
「斬られたらダメージがありそうよね……」
「それはどんな武器でもあるだろうな!」
アリアも二本の剣を重ね合わせ、叫ぶ。
「《解放》――《雷纏いし閃光》!」
「初めて見る剣だな! 試作品か」
「ええ!」
魔王がナイフ一本ならば私も剣一本で戦う。アリアはそんな気概を持って地面を蹴る。両手で握りしめた剣を振り下ろし、避ける魔王に向けて追撃を放つ。
背中に向けて振るわれる剣に目も向けずに魔王はナイフを合わせ、その衝撃を逃がしながらアリアに斬りつけた。そのナイフの刃にアリアは剣を滑らせてすれ違うように前に出る。
「《星翼乱舞》!」
「っ、溶かせ《暗炎》!」
背中の翼による連続斬りをナイフから吹き出し黒炎で薙ぎ払う。しかし全ては不可能だった。吹き飛ばされながらそんなことを思っていると、目の前にアリアの姿があった。
「っ!?」
「はぁぁっ!」
高速の斬撃。ナイフを割り込ませるような時間は無い。ならば
「《合噛》!」
交差する斬撃で少しでも剣の勢いを奪う。そう思って放った二連撃は、一切の抵抗なくスキル終了した。
「何だと!?」
「《幻影》だ」
「っ!?」
背後からの声に驚き、振り向いた瞬間に白い光が見えた。
『二回戦第1試合、勝者はアリア! やはり《最強》の名は伊達ではない! 拮抗した戦いながら余裕を持った勝利!』
アリアは実況席からの言葉を聞きながら観客席に一礼し、地面を蹴る。そのまま翼を広げ、実況席に戻った。
次回、誰か対誰か
レポートやらないといけないんだ、それじゃ失礼します




