最後の
ホワイトデー当日、アリアは自分で作り上げたチョコレートケーキを眺めていた。思いの外大きい。だから
「もしもし、柘雄? 今から家に来られる?」
運びたくない、というアリアの言葉に柘雄は苦笑しながら、すぐに行くと答えた。
*****
「あのー、アリア? これは一体?」
「チョコケーキよ」
「それは見たら分かるんだけど……なんで、4つも焼いたの?」
「やり過ぎちゃった」
アリアは頭を掻いてえへ、と舌を出した。それに少しだけ呆れながら頭を撫でて、そのお腹を眺める。以前よりもかなり膨らんでいる。
出産の予定は四月辺りらしい。もうすでに、お腹の子がアリアを蹴っているらしい。その事実は柘雄を驚かせ、驚きの余り、アリアにお腹を見せてと懇願した。そして恥ずかしがりながらたくし上げたアリアを見て、我に返って土下座をしてアリアを戸惑わせた。
「随分とお腹、大きくなったね」
「すごぉ蹴るんだよ」
「そっか……触っても、良い?」
「ええ、あなたの子だもの。あなた以外が触れたらダメよ」
その言葉の通り、アリアはお腹に誰も触れさせない。それは自分に課した制約でもある。そして――
「来週、だね」
「ええ、来週ね」
ソーニョが終わる。ソーニョ・スキルズ・オンラインが終わる。それはアリアと柘雄が出会った世界が亡くなると言うことだった。言い換えてみれば、地球が無くなってしまうような物なのだ。
それにアリアは別に何も感じない。アリアと柘雄がいるのは現実で、出会った場所なんてそんなロマンチズムに浸るような女の子ではないのだ。そしてそれは柘雄も同じだった。だが、そんな二人でも最後のイベントは本気で挑もうと思っていた。
「世界大会、本当に最後の世界大会だね」
「ええ、そうね……楽しみ。本当に楽しみだわ」
そしてアリアの卒業式前日――そのイベントは開始した。
*****
『さぁそろそろ開始時間となりますが……選手たちも次々と姿を見せていますね』
『そうね、どうして私がここにいるのか分からないけどね』
『アリアさんは全世界が認める最強のプレイヤーですからね……アリアさんはどのプレイヤーが驚異だと考えていますか?』
そうねぇ、とアリアが思案する声が会場内で響き渡る。そう、現在アリアがいるのは放送席。ここでリアルタイム実況をするのだ。
そしてアリアが思案している間に、徐々に集まりだしていたプレイヤーたちは自分じゃなかろうか、と考えていた。しかし
『ロシアのエカテリーナ、それと日本の九州サーバーの《魔王の傘下》から何人かね』
『では身内と戦う覚悟があるのですか?』
『うちのギルド、身内内での争いが多かったし。大体どこもそんな感じじゃないのかしら?』
『普通は内輪揉めしないと思うんですけど……』
そんな風にアリアと解説者が話していると、参加者全員が揃ったようだ。その人数はアリアを含めて100名ちょうど。マグナたちが必死に調整したのだ。
そして第1回戦は――全プレイヤー同時戦闘の、16人の生き残りを賭けたサバイバル殺し合いだった。
*****
試合開始のゴングが鳴ると同時に、全てのプレイヤーは周囲に目を向けた。彼らは開始寸前にランダムでテレポートして、周囲の風景すら変化しているのだ。
山が、森が、川が、砂漠が、洞窟が、湖が、建物が――様々な物が入り混じった広大なフィールドが出現していた。それに戸惑いながら状況把握をしようとしていたプレイヤーたちは直後、自分が斬られていることに気付いた。
「はぁぁぁぁっ!」
「せゃぁあぁぁぁぁぁ!」
「はっ!」
それは奇襲だった。大半のプレイヤーが戸惑う中で動けたプレイヤーは極僅か、そしてその中にはアリアとエカテリーナ、さらにシンが含まれていた。
エカテリーナは戸惑う。アリアが動いたのは分かった。だが、シンは動けるようなプレイヤーではなかった、と。まさか成長したのか、と思い自分で否定する。突発的な対応を早めるのは限界がある。そしてその限界に至っているのはアリアとエカテリーナ、後は数えるほどしかおらず、シンは含められていなかったはずだ。
エカテリーナは人知れず、頬を歪める。それは喜悦の表情。
「とうとう最強の台座に手を掛けましたわね! シン!」
*****
「そう簡単に斬られて堪るかよ! 《エンチャント―テンペスト》!」
「っ、らぁぁっ!」
斬撃の軌道に差し込まれた剣を見て、アリアは吠える。そのまま手に込める力を増して振り抜いたが――アスモは絶妙な手首の動かし方で、斬撃を避けながら距離を取る。そして
「《エンチャント―アポロネス》、《エンチャント―アブソリュートゼロ》!」
「AGI,STR,VITへのエンチャントね……一撃で切り倒せなかったのが辛いわね」
「アリアなら開始と同時に仕掛けてきてもおかしくないって思っていたんだよ。だからこそ最初に防御したのは間違いじゃなかったってわけさ」
「あっそ」
連続斬りが剣で逸らされて、避けられる。エンチャント有りでもアスモは自分が強くない、と理解しているからこそ格上と戦うことには慣れている。相手が自分よりも速く、相手が自分よりも力強い。そこまで分かれば対処ができる。
「――ぁぁっ!」
高速の斬撃に剣を合わせ、その衝撃で背後に飛ぶ。そのまま小さく息を吐いて、
「あのー、アリア? 俺以外を狙うって選択肢はないのか?」
「あるけど逃がすのも後々面倒なことになりそうだしね……あら」
背後から斬りかかってきたプレイヤーの腕を掴み、アリアは足払いを掛ける。そのまま体勢を崩したプレイヤーを放り投げて、
「今の私は誘蛾灯のような物――それだけで充分なのよ。こうして戦っているだけで相手から寄ってくるのだから、簡単ね」
アリアは嘯きながら剣を振るい、背後からの剣を斬り飛ばす。そのまま心臓を刺し貫いて
「私はここにいるわ! 誰でもかかってきなさい!」
*****
「かかってきなさい、って言っても行くわけないじゃないか」
シンはそんな風に呟きながらエミリアの刀を剣で受け止める。そのままもう片方の剣で斬りつけるが、姉は器用に刀を鞘に収め、鞘と鍔で剣を挟んで止める。そして剣を蹴りつけ、距離を取りつつこちらの体勢を崩そうとした。
それを剣の腹で受け止め、前に出る。受け止めたことでむしろ体勢を崩したエミリアへ追撃を加えようとしたが――例え体勢を崩していたとしても、それを口にしてしまえば強制的に体が動かされる。
「《天叢雲剣》!」
「っ、《クロスパラドックス》!」
高速の斬撃を迎え撃つように逆転の双閃を放つ。それは攻撃スキルを逆転させる斬撃。それはエミリアの放った龍殺しの一撃を正面から受け止め、その衝撃をエミリアに叩き込んだ。
エミリアはその事実に驚きながら、咄嗟に刀の柄を地面に叩きつけ、刀の柄で地面を削りながら減速する。そのまま勢いを利用して納刀し、地面を踏みしめる。そして地面を蹴り、前に出る。
シンが使ったスキルの系統は《事象変更》、エミの使う《太極》や《両義》などがそれに属する。そしてそれらのスキルの弱点は連発出来ない点と、スキルを使った後の隙が大きいことだ。
間に合うはずの斬撃を放とうと、刀の柄に手を掛けて、大きく踏み込んで
「《居合い・神風》!」
最速の《居合い》スキルを放つ。そしてその斬撃は吸い込まれるようにシンの背中に迫って――
(背中? さっきのスキルの硬直が解けている!?)
驚いたエミリアの目の前でシンの姿が霞み、シンの姿で見えなかった方向から一本の剣が伸びてきた。
エミリアは細剣に額を貫かれ、消える。その直前にシンとその女が剣を交わしているのを見た。
「エカテリーナ!?」
次回、シン対エカテリーナ、ではありません
現状、100人中20人ぐらい消えているはず
風邪がますます悪化してきました。
うがいをすると吐きそうにもなります。
ひょっとすると風邪じゃないかもしれません。
どなたか心当たりはありませんか?
日常生活に支障が出ていて困っています




