nin-sin
「15歳の誕生日、おめでとう」
「ありがと、瑠璃。仕事は忙しいの?」
「まぁまぁ、って言ったところかな。でも良いんじゃないかな、これでも海外に行く側だから忙しくて当然って感じで」
え、海外に行くの。アリアは驚いて瑠璃の顔をまじまじと見つめる。すると瑠璃は驚いたかのように目を見開いて
「あれ、もしかして流沙も直美も伝えていない感じ? マジで?」
「ええ、誰も言っていないわ」
「……あ、まだ家族以外には社外秘だって真央に言われていたんだった。忘れて忘れて」
「――忘れちゃったわ」
「よし」
瑠璃は頷いて、届いたラーメンを啜る。すでに何度か訪れているラーメン屋だからアリアも迷わずに食べ始めた。
「そう言えばラーメンってね、福岡じゃ豚骨だけど他の県じゃ違うらしいわ」
「え、そうなの?」
「真央が色々な県に行って驚いたそうよ。愛媛のミカンラーメンに青森の林檎ラーメン、山梨のブドウラーメンに秋田の米粉ラーメン、沖縄のパイナップルラーメンなんてのもあるらしいわ」
「米粉ラーメンは素直に気になるのだけど他のはゲテモノとしか思えないわ」
「私も」
ふふふ、と楽しげに二人は笑い合いながらラーメンを啜って
「恩納の子の誕生日祝いで食べに来たのがラーメンで良いの? なにか、もっとこう、良い物があったんじゃないの?」
「瑠璃だってラーメン好きでしょ? だったらこれで良いじゃない」
「そういうものかしら」
今日は12月24日。柘雄は風邪が長引いているため、外出禁止を命じられているため、アリアは完全にフリーだったのだ。そして瑠璃はすでに今年の仕事は終わったのだ。だが、
「流沙は明らかに仕事が終わっていないんだよね」
「あら、大変ね」
*****
「わくわく」
「……」
「わくわく」
「……」
「わくわくーっ!」
「……あの、アリア? 別に何かを期待しても良い結果に終わるとは思えないんだけど……? アリア、僕なんだからあんまり期待されても困るって言うか……ね?」
「ぎゅーっとしてくれたら良いんだから……お願い」
アリアの目の澄み方に、柘雄は苦笑してアリアの体を抱き寄せる。そのまま背中を撫でて
「無事、完治しました」
「お疲れ様、柘雄。まだ病み上がりだから無茶しちゃダメよ」
「うん、そうするよ。それよりもアリア、15歳のお誕生日おめでとう」
「ありがとう、柘雄」
「でも誕生日プレゼントも誕生日らしいこともしてあげられなかったね……ごめん」
「良いわよ、そんなの。来年だってあるんだし、結婚よ結婚。高校生で二児の父よ柘雄は」
「気が早いなぁ」
でも、柘雄はそれに反対はしない。それは柘雄も望むべき事だからだ。
「でもさ、アリア」
「なにかしら?」
「明日は元旦、もう卒業まで時間は無いのに卒業式で読まないといけない答辞を書いていないんだよね?」
「……真白生徒会長ならなんとかしてくれるかもしれないわ」
「手伝おうか? 確かお姉ちゃんも答辞をしていたからその記録が家のどこかにあるはずだし」
「……お願いしても良いかしら?」
「うん」
大晦日、アリアは江利家に泊まることになっていた。それは江利家からの提案だったのだが、エミとシェリルは柘雄が二階堂家に来ることを望んだ。
それは賑やかな方が良いから、という理由が大きいのだが、不審に思ったアリアは姉妹が実は柘雄に好意を抱いているのではないか、と危惧した。万が一にも柘雄を奪われたくないアリアは江利家に泊り、柘雄とイチャイチャすることに決めたのだ。
「そう言えば亜美は出かけているのかしら?」
「うん、お父さんとお母さんが買い物に付き合わせているよ」
「大晦日に開いている店ってあんまり無いと思うのだけど……正月中は空いていないから備えないといけないわね」
実際は違う。アリアに気を遣って、でばがめしようとしていた亜美を連れ出したのだ。しかし二人がそれを知ることはなく、ただただ首を捻るだけになっていた。
「答辞って柘雄の時には誰が言ったのかしら?」
「シェリルだよ」
「うげ」
「安心しなよ。アリアはアリアだから、誰とも比べる必要は無いんだからさ」
「……ええ」
一度、その件で泣いた。それを知っている柘雄はアリアの悲しみに理解を及ばせられない自分を不甲斐なく思った。だが今は、彼女が心情を吐露している、その隣に立てている。
「――ねぇ、アリア」
「なにかしら?」
「色々あったね」
「――ええ、色々あったわ」
でも今は、こうやって二人でいられる。だったら、
「僕らの三年間は楽しかったね」
「素敵な思い出よ」
柘雄は感慨深そうに呟いて、アリアはそれに頷いた。そしてそっと、アリアの手が柘雄の手に重なる。それに柘雄が驚くが、頬を緩めて
「アリア、おいで」
「ええ」
ベッドに座り、隣を手で示す。それにアリアは頷いて、柘雄の隣に腰掛けた。
「ねぇ、柘雄」
「ん、どうしたの?」
「今日、避妊しないで欲しいわ」
「……」
「夏休みも避妊はしなかったけどね」
「アレは……アリアが悪いんじゃないかな」
「ええ、そうね」
アリアが我慢しきれずに柘雄を押し倒したのであった。相変わらずその辺りが逆転している夫婦だ。
そしてアリアは柘雄に一つだけ、内緒にしていることがあった。だが、それを教えるつもりはない。それはいつしか、気付いて欲しいことだからだ。今はまだ、薄らとしか変化が見て取れないが――もう少し立てば、きっと膨らんでいることに気付くだろう。
「……アリア」
「どうしたのかしら?」
「……うーん」
何と言ったら良いのだろう、と柘雄は少し悩むような顔をして……恐る恐る、と言った様子で口を開いた。
「少し、太った?」
*****
「柘雄の馬鹿ぁ……もうやだぁ……亜美と一緒に寝るもん!」
「あらら、柘雄と喧嘩しちゃったの? 一緒に寝るの?」
「うん……」
幼児退行してしまったかのようなアリアに亜美は苦笑して、お腹に気をつけながらアリアを抱き上げる。体重40キロあるかどうかな、と思いながら部屋に連れ込んで
「何があったの……って、まぁ、大体は分かっているんだけど」
「亜美ぃ……」
「柘雄に太った、とか言われたんでしょ? 妊娠なのに」
「ひょえ!?」
「図星みたいね」
アリアがすりすり、と頬を擦りつけていたのを中断して驚きの表情を浮かべる。それに亜美は苦笑しながらアリアの頭を撫でて
「男よりも女の方が、女の変化は分かりやすいのよ」
「え、でも、なにも」
「分かるわよ。アリアの顔が時折お母さんみたいになっているし、お腹を撫でるようになっていたし……って言うかこれだけの要素があってどうして柘雄は気づけないのよ!?」
「あ、あはは……でも、亜美。その、亜美は良いと思うの?」
「まぁ、良いんじゃないかな。私からしてみたらセックスした上に避妊しない中学生って退学物じゃないかな-、と思うんだけど」
「うげ」
「……確か直美が以前学長先生を強襲して無理矢理アリアを復学させたじゃない。直美を頼れば良いんじゃないの?」
「……」
直美は頼りたくない、というオーラがアリアから出ていた。
「ところでアリア、そのお腹の子供は産むつもりなの? それとも……」
「産むに決まっているでしょうが馬鹿者!」
「え“!? いきなり言葉遣いが変化したんだけど!?」
「ふしゃーっ!」
髪が逆立ち、亜美を威嚇する。しかしアリアはふぅ、と小さくため息を吐いて
「……」
「どうして柘雄に妊娠したって言わないの?」
「……怖い」
「はぁ?」
何が怖いって言うのだろう。亜美がそう思った瞬間、アリアはため息を吐いて
「拒絶されそうで、怖い」
夏休みにそんな描写がなかったって?
ばっかお前、後付けだよ
なんで夏休み中かって?
ばっかお前、続編に影響するんだよ
これはネタバレじゃないかって?
そうだよ
改めてアリアちゃん妊娠しました柘雄爆ぜろ




