15の夜
12月16日、アリアのデバイスにとある連絡が入った。それは柘雄が倒れた、という連絡だった。
*****
「――大丈夫なんですか?」
「お医者さんが言うには単純に風邪だって。バイトして疲れて免疫力が落ちているって」
「そうですか……」
心配そうな表情で、アリアはベッドで眠っている柘雄を眺めた。その表情はどこか苦しそうだった。
アリアは柘雄がどうして体調を崩したのか、少しだけ心当たりがあった。でも、それが怖くて言い出せなかった。
「アリアちゃん、ずっとここにいるのもあれだからリビングに行かない? 温かい飲み物あるよ?」
「……ここにいます。私は柘雄を見守っています」
「そう……お願いね。目を覚ましたら教えてね」
「はい」
柘雄にはできた嫁だ、と柘雄のお母さんは思いながら柘雄の部屋を出る。そのまま台所に向かい、アリアのための温かい飲み物でも創ろう、と思って。
一方その頃、亜美はと言うと
「はぁ? 柘雄が倒れた? 知らないわよそんなの。今忙しいから!」
そう言って電話を切り、ジャックに家族を大事にしろ、と怒られていた。
そしてその頃、
「……アリア、元気?」
「私は元気よ……でも、今の柘雄にそれを聞かれるのは複雑」
「あ、はは……僕が元気じゃないからねぇ……」
あはは、と笑いながら柘雄はアリアの顔を眺める。心配そうな目で、泣きそうな表情で、唇をわなわなと震えさせている彼女を眺める。
「……ごめんね、アリア。誕生日、明日なのにね」
「良いわよ、そんなの。私は柘雄の方が大事だから」
「だからこそ、だよ。僕はアリアと同じぐらい、アリアが大事だから……誕生日おめでとう、って言いたかったのに」
「そんなの、そんなの良いわよ……どうでも良い」
「どうでも良くない!」
声を張り上げ、咳き込む柘雄。それにアリアが驚き、柘雄の体に触れる。しかし何ができるというのだろうか。アリアはそう思いながら柘雄の手を握る。
しかしアリアの手を、柘雄は握りしめない。それどころか、拒むように手を払って
「僕はどうして、アリアが好きなんだ」
「……知らないわ」
「僕はどうして、アリアを好きになったんだ」
「……分からないわ」
「僕はどうして……こんなに胸が苦しいんだ」
「……好きだからよ」
「……そう、かな。それなら、良いかも」
あはは、と柘雄は笑って――アリアの手を眺める。そして
「でも、今は触れ合いたくない」
「え」
「今触れ合ったら、きっとダメになっちゃう」
「……柘雄」
「だから……もう少し、待って」
「……」
柘雄は毅然とした眼差しでそう言って
「だから明日まで待って。風邪を治すから」
「いや、無理でしょ」
「……精神論だよ」
「……」
「……」
アリアは再び、柘雄の手を握った。そして今度は手を振り払われず、アリアは手を引かれて柘雄のベッドに倒れ込んだ。一切抵抗せずにアリアは柘雄を布団にするように倒れ込んで、
「ベッドに連れ込んで、ってそういうことをするの? 確かに風邪のバイ菌はアレと一緒に出せば良いって同人誌に載っているって直美から聞いたけど……」
「あの、アリア? いくら僕でも風邪の時にそんなことはしないよ?」
大体何をするのか理解してしまった柘雄にアリアは首を傾げて
「なら何をするつもりなのかしら? ベッドに連れ込んで嫌らしいことをしないの?」
「アリアはベッドのメーカーに怒られた方が良いと思うよ……ん」
「きゃ」
アリアは抱き寄せられた。そしてそのまま頬に、柘雄の唇が触れた。キスだ。
「っ……いきなり恥ずかしいわよ」
「アリア、もっとキスして良い?」
「……良いわよ……」
*****
「あ、アリアちゃん。柘雄は起きた?」
「はい、今は意識もしっかりしているようです」
「ありがと……あの、アリアちゃん? なんだか首に痕があるんだけど……大丈夫?」
「だだ、大丈夫です!」
アリアは必死で誤魔化して、首に付けられたキス痕を手で隠す。唇にキスをしたら風邪が移ってしまうから、という理由で頑なに拒んだ柘雄は、唇へと迫るアリアを撃退するために痕跡を残したのだ。そして自分のお腹や、胸を見下ろしたアリアは慌てて服を身に纏ったのだ。
裸で迫ったくせに、キスの痕は恥ずかしい。そんなよく分からないアリアの精神構造は慌てて服を着て、逃げるという結論に至ったのだ。しかし、そんなアリアの前に彼女が立ち塞がった。
「あれ、アリア? その首のってキス痕?」
「っ!? 亜美!? どうしてここに?」
「どうしてって我が家なんだけど」
「……それもそうね」
「で、そのキス痕……ふーん。風邪を引いてもお盛んなのね」
「ちょ、違う!」
アリアが否定しても、すでに亜美の視線は柘雄の部屋に向けられていた。そしてその足は柘雄の部屋にずんずん、と進み始めていた。
アリアはその手を掴み、直美の動きを止めようとしたが――アリアの小柄な体では、亜美の身長175センチ、体重50ピーキロには敵わない。
※亜美のデータは作者基準でお送りします。
「柘雄、アリアにキスしたの?」
「……唇にはしていないよ」
「他の部位にはしたんでしょ? どこにしたのよ、股間?」
「最初にそこが思い浮かべられるお姉ちゃんはエロ同人の読み過ぎだと思う」
少し辛そうな弟の言葉に亜美は鼻を鳴らして、
「アリア、どこにキスされたの?」
「え、えーっと……」
「隠すとためにならないわよ」
それは脅迫なのか、と柘雄が動揺していると、その顔が小さな両手に挟み込まれて――唇に熱い感覚が産まれた。
「アリア!?」
「……んちゅ」
亜美が驚きの声を上げているが、アリアはそれに顔も向けない。意識すらも向けずに柘雄の唇と己のを重ねて、舐めて、噛み、舌を滑り込ませ、絡ませる。そうやって思う存分に堪能して――息をするために、一旦唇を離す。
目の前で濃厚なディープキスが行われているのを見て、亜美は少し自分の目を疑った。柘雄が風邪を引いているのは周知の事実で、アリアも知っているからだ。しかし目の前で繰り広げられていた淫靡な行為を目にしてしまうと、何も言えなくなってしまった。
「……アリア、風邪が移っちゃうよ」
「良いんじゃない? 冬休みが長くなるだけよ……何の問題もありはしないわ」
「いや、体調崩して辛いでしょ? まったく……」
柘雄は風邪って粘膜感染するよね、と思いながらアリアの頭を撫でた。そして
「そういうわけだから、お姉ちゃん。アリアを送ってもらっても良いかな?」
「えー?」
「良いわよ。アリア、荷物を纏めなさい」
「えー!?」
*****
「出荷された気分だわ」
「風邪を移しに行ったんでしょ? 自業自得じゃないの?」
割と遠慮のない妹の言葉にアリアはため息を吐いて、階段をとんとん、と昇る。そのまま自室に戻って、洗面所で手洗いうがいをしっかりとして
「……あと、2時間」
後二時間で私は、15歳になる。それは別におかしくはない。むしろ当然で、来て然るべき物だ。
「ぬーすんだバイクで走り出す~」
アリアは窓の外を眺めながら唐突に頭に浮んだ曲を口ずさむ。そのまま歌詞が分からずにふふふふ~ん、と鼻歌へと変遷しながら時計を眺めていた。あっちの世界には何故か、行く気にはなれなかった。
「――」
窓の外は暗く、街灯の明かりが一部だけを照らしていた。現在は人が通りかかれば、点灯していない電灯が点灯し、周囲を明るくして危険を無くす。ゼロではないけど。
雪は降っていない。ただただ、空に雲はなく、月が輝いていた。
「……」
お誕生日おめでとう、アリア、とアリアは呟いた。そして――
翌日、アリアは風邪が思ったよりも辛いことを身をもって実感した。
アリアちゃん15歳だよ歓喜!
友人からアドバイスをいただいたんですが「風景やキャラの描写が少ない」って言われました。
自覚があるけど難しい、と伝えると「絵で特徴を描いてみたら? 下手でもお前が分かれば良いんだし」と言われました。
言っていることは多分間違っていないけど、授業中に書き始めた私は間違っていると思う。
授業ノート、提出するんだよなぁ……何に描いたかは言わないけど




