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「《魔王の傘下》が悪って……誰から聞いたよ、そんなこと」

「アリアが言っていたんだ。《アスクレピオス》と戦った際に、《魔王の傘下》は悪で、悪であれかしって。本当なの?」

「……んー、困ったな……そりゃ確かにそうだけどさ」


 アスモは困ったように眉を顰め、周囲を見回した。そして


「アリア! 終わったから戻るぜ!」

「先に行って! 私はこっちで慣らしておくから!」

「ん、了解。んじゃ行こうぜ、シン」

「え」

「きちんと説明するから。それじゃお先に失礼」


 アリアは地面を蹴って高速で前に出る。そのまますれ違いざまに剣で斬りつけて――地面を滑る。咄嗟に剣を地面に突き刺して勢いを殺し、反転する。そしてさらに地面を蹴って高速の斬撃を放つ。デルタを描くように跳び回っていると――モンスターはそれを理解し、対応する。

 アリアが反転して斬りかかってくるのをモンスターは避けて、反撃を放つ。しかしアリアはそれを見てから地面を蹴ってモンスターの頭上を飛び越える。そしてそのまま背後に着地して地面を蹴り、背中に斬撃を放つ。


「もはや慣れてきたわね」


 最後の一体を真っ二つにして、アリアは剣を鞘に収め、満足げに頷いた。


*****


「悪であれかし、か。懐かしいな、魔王」

「悪であれかし、は初期メンバーしか知らないだろうな。アリアから聞いたのか?」

「うん」

「ありゃ始まりの一〇人だけが知っている話しだぜ。話しても良いのかよ?」


 始まりの一〇人、って誰だ。シンが参加したときにはすでに一〇人を超えていた。そう思っていると


「悪魔七人、でジャックの魔王、でもってアリアの一〇人な」

「悪魔って……?」

「マモン、レヴィアタン、ベルゼブブ、ベルフェゴール、アスモデウス、サタン、ルシファー。七つの大罪を元にした悪魔で、マモンが名付け親だぜ」

「あいつはリアルネームを捩っただけだったな……だが、始まりの一〇人は別段何の意味も無い集まりだったな」


 アスモは苦笑しながらソファーの背もたれに背中を預けて


「アリアが変わったからみんなも変化し始めたんだっけか?」

「アリアがジャックに勝ってからだったな。そこからアリアに負けたくないジャックが戦って、勝ったり負けたりを繰り返していた……が、アリアに完全に負けるようになったジャックは一旦離れていったな」

「確か《シリアルキラーズ》ってギルドに入ったんだっけか? あそこ、確かシンも加わっていたよな? あとエミリアとアビスも」

「《シリアルキラーズ》は確かにPK(プレイヤーキル)メインのギルドだったが――俺たちも大差ないな。結局は襲いかかってくる者を薙ぎ払ってばかりだったな」

「まぁなー。でも、ここ(ソーニョ)に来たらいつの間にか、内乱ばっかだったよな」


 ははは、と魔王が愉快そうに笑った。そして


「シン、悪であれかしに深い意味は無いさ。ただ、俺たちは強くあれば良いってだけのはぐれ者だった。ならばはぐれ者同士が集まって、今の俺たちの原型、始まりの一〇人となった。それが増えたのは正直、アリア以外には何の影響もなかったな」

「え?」

「アリアがシエルやセプトと仲良くなって、姉を受け入れて、ジャックを取り戻した。そしてお前が姉に引き摺られてここに来た。マリアとアジアン、エミにオバマ、マグナに……誰か足りないな?」

「キャンデラだろ? 俺さ、あの子に負けるんじゃねぇかなって若干びくびくしているんだけど」

「別に負けても良いだろう。お前の強さは武力じゃない。純粋な武力なんてアリアだけで充分だ」


 魔王はため息を吐いて


「マモンは個人で異常なまでの対応を見せて、レヴィは何よりも速く攻撃する。ベルは殲滅して、ジャックは突っ込み過ぎて、アリアは強くなりたくて、俺は弱くて、サタンとルシファーは一人じゃ弱い。ブブはPVPプレイヤーバーサスプレイヤー専門の上で極め過ぎているからな」

「魔王は弱かったんだ? それにアリアが強くなりたかったって?」

「俺だけが後発だったぞ。アリアはジャックに勝ちたくて、何度も挑んで負けていたらしいしな」


 アリアがジャックに負ける。そんな様子をシンは一度足りとも見たことも無く、予想したこともない。そう思っていると


「改めてアリアは変わったと思うぜ」

「まったくだな。あの最強に拘っていたのが嘘みたいだぜ」

「ああ」

「昔のアリアの様子はどんなのだったの?」

「ジャックに挑んで、負けたらレベル上げてまた挑んでを繰り返していた。セーブしてボスに挑むのと同じだな」

「負けていたんだ……アリアが」

「アリアは確かに最強では有るが、負けていないわけじゃない。むしろ対人戦では狙われるようになっているからな……むしろ一番狙われるのがアリアだな」


 確かにシンはアリアが攻撃を仕掛けられているのをよく見ていた。だがシンはアリアを助けるようなマネはしない。それはアリアに巻き込まれるから、というのもあるが――アリアを護る必要は無いと理解しているからだ。


「ところでシン、悪であれかしの意味について話そう」

「あ」

「忘れていたか……まぁ、良い。それよりも、だ。俺たち《魔王の傘下》は別に良いギルドではない。良いギルドはどんなギルドか、と聞かれても分からんがな」

「まー、欲しけりゃ奪うし敵対したなら皆殺しってやっていたしなー。ぶっちゃけモンスターと同じくらいプレイヤーを切った気がするぜ」

「それはお前がモンスターと戦わないだけだろうが」

「ごもっとも」


 アスモは笑って


「俺たちはいつだって善じゃねぇよ」

「良いことをした覚えはないな」

「……」


*****


「やぁぁっ!」


 裂帛の気合いと共に細剣が巨人の心臓を刺し貫く。本来ならば《致命的位置クリティカルポイント》を刺し貫いたから巨人は光となって消えるはず……だが、巨人の心臓が増えている。止まない鼓動にエカテリーナは驚愕と共に納得しつつ、巨人の胸を蹴って跳び、細剣を抜いた。そのまま深呼吸をして


「弾き《パリィ》できる重量じゃありませんわね」


 一撃一撃が重い。最初の一撃を逸らそうとして失敗したのを思い出しながら巨人の隙を探る。

 現在エカテリーナのいるエリアはダンジョンの最深部、つまり通称ボスエリアだ。だからこそ他のモンスターが出現しない。むしろダンジョンの道中の方が一対一じゃなかったからこそ、もっと難易度は高かった。


「《悪魔龍皇剣》は重すぎて速度が乗りませんし……《天使龍皇剣》は軽過ぎて威力が乗りませんわ。だからこその《雷閃エクレール》ですわ」


 斬るよりも突いた方がダメージは大きい。しかし突いた直後に引き抜く手間を考えるとちまちまと斬った方が良い。

 前に出ながら振り下ろされる剣に《雷閃エクレール》を触れさせ、そっと押す。しかしその程度で剣が逸れるはずもない――が、エカテリーナは《雷閃エクレール》の下を滑るように通り抜けて、地面を強く踏みしめる。そのまま回転して遠心力を乗せて振り抜く――つもりだったが、刃が少ししか通らない。その結果に舌打ちしながら巨人の体を駆け上がる。身長にして3メートルだから足場としては最適だ。


「ん、はぁぁっ!」


 体を駆け上がって、背中側で


「《雷閃》!」


 武器と同じ漢字を使ったスキルを放つ。それが背骨と背骨の隙間、軟骨を斬り裂いて喉を刺し貫く。そのまま左右に振るって喉を無理矢理内側から破壊して――光と化した巨人から降りて、大きく息を吐く。


「あー、辛いですわ。なんでこんなに強化されていますのよ……アリアたちなら勝てても私では無理ですわ」


 強化された現在、レベルカンスト六人のパーティですら全滅するダンジョンを軽々と攻略して、エカテリーナは深いため息を吐いた。


《魔王の傘下》は好き放題やっているだけです


ちなみにエカテリーナはアリアと同じで自分の満足のいく剣を創るために鍛冶屋スキルを持っています

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