バランス崩壊
「まず俺の剣で防御力0のモンスターに与えられるダメージは10000だ。だからどれだけ減衰しているかを確認してくれ」
「そんな剣を使っているんだ。純粋に戦う用の剣もあるの?」
「とーぜん。弱点探りながらだから頼むぜ」
アスモはそう言って地面を蹴った。アスモは避けながら戦うしかない。だからシンに観測を任せたのだ。そしてアスモはそのまま剣を抜いて党則で斬りつけた。
「まずは一撃、連ねて二撃!」
「一撃目と二撃目のダメージはほぼ同じぐらい。弱点じゃないのかも」
「オッケー!」
右膝を切りつけ、左脛を切りつける。そのまま逆手に握り替えて膝裏を斬りつける。すると明らかにダメージが増えた。
「膝裏のダメージが大きい。人体弱点全般が弱いのかもしれない」
アスモは冷静に呟きながら振り下ろされた拳を避ける。人間の下半身がいくつか組み合わされ、上半身は蜘蛛。通称逆さアラクネーこと《ディザスターシャンデリア》だ。
人間がデザインに含まれているモンスターには通常、闇属性が含まれている。そして――邪神属性も。邪神と神の二つの属性は闇と光を使いこなし、暗黒と聖光へ消化させ、最後に至る。そこまで使いこなせる者は、極僅かだ。
「光属性のエンチャントをする。しっかりとダメージ計測を頼むぜ」
「ああ、任せてくれ」
一方その頃、アリアは空を飛んでいた。アスモのやっているようなちまちまとした作業は苦手だったのだ。だからこそ、暇潰しで飛んでいると――様々なモンスターに見つかった。
大型の飛龍に小型の龍、鳥に虫に化け物に。様々なモンスターがアリアを殺そうと迫るが――アリアは翼を広げてそれを避ける。そしてそのまま剣を抜いて斬りかかったが――剣が体を両断出来ず、剣が飛龍の体に埋まる。それに驚きつつ、体を蹴った反動で無理矢理剣を引き抜いて
「確かに強くなっているわね」
冷静に呟きながら剣で表面だけを斬りつける。それを連続していると――攻撃していたモンスターと入れ替わるようにして攻撃が仕掛けられた。
咄嗟に剣を手元に戻して防御姿勢を取ったが――威力を防ぎきれずに高速で吹き飛ばされた。さらに追撃とばかりに闇の球体が吐かれたが、アリアの剣と翼がそれを防ぎきった。しかし、アリアの翼が削り取られる。
「――困ったわね……はぁ、仕方ないわ。《悪夢の翼》!」
《アストライア―》の翼が削り取られた。ならば別の翼を使って飛ぶしかない。もっとも《アストライア―》の翼を再生させたから背中には白と黒の翼が生えていた。
そしてその4枚の翼で高速で羽ばたいてモンスターの真上に回り込んだ。その速度はモンスターたちにもギリギリ反応出来なかった。だが、アリアが攻撃を仕掛けようとしているのには反応した。だから噛みつき、斬り裂き、穿ち、打ち、殺そうとしたが――アリアの剣は高速で首を切り飛ばした。
「斬れないわけじゃないなら斬れるわ。斬れるのなら――殺せるわ!」
アリアの剣が高速で閃いて牙と噛み合う。二刀流ではないアリアにとって、剣を止められて位置を固定されるのは大変な問題なのだ。だからアリアは剣を手放してその顎をムーンサルトのようにして蹴り上げた。さらにそのまま左掌で顎を叩き上げて、緩んだ顎から剣を引き抜く。
「一体一体がここまで面倒だなんて思わなかったわ」
空中だから攻撃に重さを加えるのは容易ではない。しかし地上ではアスモとシンが計測を行っている。それの邪魔をしてはいけない。アリアはそんな意志を抱きながら翼を広げて一気に空へと昇る。モンスターたちが追ってくるのを知覚しながら、そして攻撃が放たれているのを知覚しながら螺旋を描くような軌道で飛翔して――くるり、と反転してそれを蹴りつける。
蹴りつけたそれを足場に跳ぶ。螺旋大陸の裏側は平らではないが、足場にすることは容易なのだ。突如反転したアリアに反応出来るモンスターはいない。だからこそ勢いを乗せた一閃が一体の首を下から斬り裂いたのだ。上からだと骨や、鱗が硬いのだ。
「残り7体……っ!」
多過ぎる。アリアはそう思って――内心で首を横に振る。多くはないのだ。ただ、強くなっているだけなのだ。あんなの弱いと思っていたモンスターがこれほどまでに強くなるなんて……っ!
アリアは喜びと共に面倒臭さを感じながら錐もみ回転を加えた突きを放つが――それは鱗に阻まれた。何枚かは弾き飛ばしたが、その内側の肉にはダメージを与えられていない。鱗1枚1枚に耐久があり、モンスターの体力を削るには肉にダメージを与えないと意味が無いのだ。
「下手な隙を見せたら殺されるから《解放》する暇も無い」
こうして呟いている間にも猛攻は止まらない。バレルロールで背後に回り込んで斬りつけ、一撃で切り倒せなかったのを確認しながら蹴りつけて跳び上がる。そのまま背後からの爪による斬り裂きに剣を併せて指と指の間を斬り裂く。そして翼を折り畳んで重力に従いながら急降下。
どこまで逃げても逃がさない、そんな雰囲気を湛えるモンスターたちの視線を背中に感じながらアリアは螺旋大陸へ落ちていく。そして地面に激突する直前で翼を広げ、急制動を掛ける。そのまま振り向きざまの剣を振り抜いた。何かと比べるのも馬鹿らしくなるようなその巨大な剣の名は《超龍剣コズミックブレイザー》。超振動するその剣は触れた物を確実に斬り裂いた。
「――武器に頼らないと勝てないわね……ステータスもAGIに大きく振らないといけないのに、STRが低かったらろくにダメージを与えられないなんて本当にバランス崩壊しているわよ」
《超龍剣コズミックブレイザー》のおかげでなんとか3体を纏めて切り裂けた。しかし間だ4体も残っている。それを冷静に考えながら剣を振りかぶって、縦回転しながら剣を振り抜く。続けて二体を切り落として翼を重ねて盾のようにする。
直後、体当たりが翼の盾に激突し――アリアは高速で吹き飛ばされた。咄嗟に剣を地面に向けて振るい、連続斬りを放って減速するが――地面を体で削り取る。体力が瞬間的に失われるが、何とか耐えて
「ポーションが砕けなければ死んでいたわ……あの瞬間だと回避は無理よね……もっと速く動いて、全部を斬り裂かないといけないわね」
冷静に事象だけに視点を当てて、アリアはさらにポーションを取り出してその小瓶を割り、中の液体を被る。その間にも攻撃の手は休んでいないが――地に足が着いているのなら、アリアにとってその程度を避けるのは容易いことなのだ。
しかしあの一撃で受けたダメージはアリアの体力の最大量を軽々と上回っていた。ゲージ式の体力だからこそ、右から左へと減る途中で回復したからこそ耐えたが――数値式だったならば即座に0だ。
「ちょっと油断していたかもしれないわね……これは改めて全力で戦わないといけないわね。《解放》!」
アリアの着けている剣以外の全ての装備が光を纏い――変形する。そして光が消え去った後、アリアが着ている防具はまったく別の物へと変貌していた。
それは様々な色を宿して、眺めているだけで気分の悪くなるような色だった。その色を表現することは出来ない、それぐらいに混じり合っているのだ。
「――悪意を持ちて善意を振り撒く……我らが誓った最初で最後の規則よ」
*****
「いやー、助かったぜ、シン」
「何もしていないけどさ」
「まぁ、良いよ。何かあったら言えよ。できる限り手を貸すぜ」
シンは頷いて――ふと思いついた。だから聞いた。
「《魔王の傘下》は悪なの?」
アリアちゃん実は負けていたの巻
しかし次回は少し過去編に食い込むかもしれない
でさ、思ったんだけど……崩壊計画をしている最中だけど、崩壊計画は計画の一部です。
その続きがあるけど、残念、過去編だ




