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崩壊計画

 アリアはシンに殺されたい、と言っていた。それがシンにとって驚きの言葉だった。


 依存している、と自分を客観的に思っていた。しかしアリアは僕に依存している。そう初めて理解した。


*****


『それでは始めましょうか――崩壊計画を!』

『はい、始めましょうかマグナ』

『マグナ、オバマ。こちらの準備は万端です』

『いつでもいけます!』


 マグナはユリアとユリウスの言葉に頷いて――優を眺める。そして優は頷いて


「始めてください、最初で最後の篩い落としを――!」

『始めるよ、みんな!』


 アリアの宣言にみんなが頷いて……崩壊計画は始まった。


*****


 最初にその異変に気付いたのはきりだった。鳥人と茜は時間が無いから、という理由で引退してしまったからこそ、現在はピュアホワイトたちと一緒にいる。


「ん」


 魔法が当たる直前に、掻き消えた。そんな風に見えた。それにきりは小さく驚きながら短杖を構えて


「《トライデント・フレア・ノヴァ》!」


 三連続で放たれる超新星爆発を凝縮した槍が《グリードアリゲイツ》の硬い鱗に激突し――一切の傷を遺さず、極僅かのダメージを与えて消え去った。そしてその結果はきりからしてみれば驚きで、致命的な隙を産んだ。


「きり!?」


 一瞬だった。かなり鈍重な動きを常とする《アリゲイツ》種にはあり得ないほどの速度できりへと接近し、その牙できりを噛み砕いた。そして一撃で全損した。


「きり!? っ、クソ、《バスター》!」


 咄嗟にアヤが放った両手剣による振り降ろしは――鱗に激突し、砕け散った。そしてレベル3000を越えたプレイヤー六人のパーティが、レベルゾーン1000のモンスターに全滅させられた。

 それは決してきりたちだけではなく、次々とそう言った内容が掲示板に書き込まれ始めていった。そしてそれはバグだ、と言う声が上がり始めたが――運営から発表された公式の仕様、という言葉にプレイヤーたちは不満を漏らし、徐々にその姿を消していった。


*****


 仲間が随分と立ち去ったギルド内を眺めて、エレナはため息を吐く。すでにギルドに残っているメンバーは彼女を含めて両手の指で数えられる程度だ。少数精鋭を気取るのも面白そうだが――どちらかと言えば、エレナはみんなで和気藹々としているのが好きなのだ。


「寂しくなっちゃったね……」


 それに応えはない。現在ログインしている《聖堂騎士団テンプルナイツ》のメンバーは彼女しかいないからだ。辞めてはいないものも、ログインしている時間が明らかに減った者ばかりなのだ。


「……はぁぁ……昔はもっと楽しかったんだけどなぁ」


 レグルス戦でアリアたちと協力して戦って、知名度が上がって入団希望者が増えた。それに目を白黒させながら必死に装備を専属鍛冶屋に創ってもらって――あの頃が一番、輝いていた。


「寂しいなぁ……みんな、どうしているのかな?」


*****


「ご主人様もいらっしゃいませんし、出社もしない。これは紛れもなく終わりの前兆といったところでしょうか」


 メイドたちの中でも突出した実力を持っていたからこそ、異常なまでに強くなったモンスターと渡り合える。ヴィクトリアはモンスターに勝てずに辞めていった者たちの遺した箒を眺める。掃除をすべき場所はなく、掃除すべき者は強大だ。


「潮時でしょうか」


*****


「拙者を遺して辞めてしまったで御座るからなぁ」


 リョーマは自分が新たに打ち上げた刀に目を眇めつつ、小さくため息を吐いた。基本的に単独行動をしているばかりだった総長ギルドマスターであったが、何故かみなは着いて来てくれていた。それがリョーマには分からなかった。


「ひょっとすると、あの方なら知っているやもしれぬで御座るな」


*****


「ピュアホワイト、まだいたんだ」

「その言い草は酷いと思うんだけど……ねぇ、アヤ」

「エミだって悪気があるわけじゃねぇだろ……ないよな?」

「うん、単純な感想」


 それはそれでどうなんだ、とピュアホワイトが思っていると、


「なんつーかそろそろマジ地獄絵図って感じっすね」

「アーニャはもう辞めるの?」

「シアを遺してはいけないぜ(キリッ」

「「「「うわぁ」」」」


 余りの扱いの酷さをアーニャが嘆いていると、それを眺めていたアスカは微笑んで


「魔王、現状は一体どうなっているのですか? モンスターがいきなり強くなったのですが」

「俺も詳しくは知らないが崩壊計画とやらだろうな。もっとも社員たちが自分たちも把握していないそうだが」

「していても教えねぇよ」

「社外秘だから教えるわけにもいかん」


 ジャックとセプトの言葉にアスカは薄らと微笑んで


「ではモンスターが強くなった理由を聞いても良いでしょうか? それぐらいなら大丈夫だと思いますよ」

「マグナたちの方が詳しいと思うけどよ……モンスターを一気に強化して篩に掛けているそうだ」

「そりゃ随分な話だな」


 魔王もすでに一度敗北している。もっとも遠距離攻撃を持っているモンスターに囲まれて嵌められたのだが。


 そして10分後


「ほとんどのギルドからプレイヤーが姿を消しているようだ。せめて俺たちの場合は一言告げてからにしてくれ」

「初期メンバーも新規メンバーも逃げ出すような奴はいないだろう」

「ブブの言う通りだぜ」

「兄さんはそう言うけどさっき殺されてもう嫌だって言っていたじゃん」


 兄弟での言い争いを無視して魔王は20余名のメンバーを睥睨する。


「アスモ、データの計測は出来そうか?」

「一撃もらえば即死の弾幕ゲー。ぶっちゃけ計測する余裕がない」

「生き残るしか出来なさそうか?」

「不甲斐ねぇけどさ」


 アスモはため息を吐いて、


「はっきり言ってこん中でも防御固めてVITSTR(ビトステラ)ぐらいの極端なステータスにしないと耐えられないと思う。回避全振りで逃げながら反撃ってのが一番良いと思う」

「それは私の創った防具でも? 極限まで固めたらどうかしら?」

「計測出来ていないんで何も分かりません」


 アスモの言葉にアリアは頬を膨らませ、シンはその頭を撫でた。そして


「避けることが出来るなら問題ないだろうし、《リバーサル》系の受け流しスキルや《パリィ》系の防御スキルでなんとか出来るんじゃない?」

「実験してみねぇと分からん。手伝ってくれ」

「うん」


 アスモの言葉にシンが頷き、その膝の上でアリアも頷いた。そして


「運営はいつ頃まで続けるつもりなんだ?」

「詳しくは聞いていませんが、三月末で運営終了する予定です」

「それまでのどこかで最後のイベントがあり、運営終了な感じです」


 マグナとオバマの言葉に魔王は頷いて少し考える。プレイヤーが減っているのは運営の予定通りのようだ。だとしたら、最後にあるイベントは――


「なるほど、統合か」

「さすがは魔王、慧眼です」

「ととと統合? な、何の話やら」


 オバマが頷き、マグナが下手な答えを返す。しかしその動揺は人間その物であった。そんなマグナにアリアは少しだけ感慨を受けていた。そして


「で、結局魔王は何が言いたいわけ?」

「結論かもーん」

「お前らは変わらないな……結論、好きにしろ。辞めるも続けるも構わない」


 レヴィとマモンの言葉に魔王が言葉を返す。そして


「話しは以上だ。解散してくれ」


*****


「データ計測にアリアが着いてくるとほぼ確実に失敗に終わるんだよなぁ」

「あら、なんでかしら?」

「だってアリア、計測する前に倒しちゃうし」


 アリアは素直に謝った。そしてそれを眺めてアスモは笑って――腰の剣を引き抜いた。サーベルのようなそれを構えて


「シン、データ計測を開始する」

「あ、うん」


 どうしたら良いんだろう、とシンは戸惑いながら剣を抜いた。


バランス崩壊乙

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