遊ぶひよちゃん
チックとはひよこの意味があるらしい。だから僕はその進化先を選ぼうと思った。
しかしひよちゃんが飛びたいのなら……
「ひよちゃん、アイスチックと他はどっちが良い?」
『ちぃ……?』
「アイスチックが良いなら一回、他なら二回鳴いて」
『…………ちぃ!』
「アイスチックかぁ……本当にそれで良い?」
僕の言葉にひよちゃんはこくこくと頷く。だから僕も頷いて進化先からアイスチックをタップする。するとひよちゃんがいきなり座って眠りだした。そして表示される進化完了までの時間。
「明日の今……24時間かな?」
*****
「アリアのテイムしているひよちゃんって結構有名になっているんだね」
「そうなの?」
「初のテイムスキルだったし」
「うん」
「何しろアリアだし」
「なんで私だし?」
私の言葉にきりは目を丸くして
「本気なの?」
「本気も本気」
「目立ち過ぎてんの」
「店を出して儲かってるし質も高いんだから」
鳥と茜の言葉に納得。すると
「でもひよちゃんってネーミングはどうなのかなーって思うよ」
「え」
「安直だな」
「定番だね」
*****
「と、いうわけで名前はどんなのが良い?」
『ちぃ⁉︎』
水縹色の羽毛を膨らませてひよちゃんは僕の手の中で怒りを表現する。
「ひよちゃんのままが良いなら替えないよ」
『ちぃ! ちぃ!』
「このままが良いなら一回『ちぃ!』
「分かったよ」
手の平大のひよちゃんの頭を、背中を撫でて
「氷魔法のスキルのスキラゲする?」
『ちぃ?』
「そっか、それなら今日は一緒にここだね」
『ちぃちぃ!』
僕の腕を駆け上がって肩に着地、そして髪の毛と耳を利用して駆け上り
『ちぃ!』
「……頭の上、好きだね」
『ちちっ!』
「鳴きバリュー増えた?」
僕の言葉に頷く気配と同時に
「失礼します、ご主人様」
「僕は主人じゃないんだけどねー」
「ご冗談を」
メイドだ。かつてユニーク装備を作った相手だ。
「今日はどうしたの?」
「本日はご主人様に仕事仲間の装備を作っていただきたく存じます」
「また増えたんだ」
「はい」
メイド装備はすでに二桁以上作っている。そしてこの前掲示板でたまたま見かけた『ご主人様募集中 条件 前衛もしくはタンク』、あれはいかがなものか。
「確かクレアだっけ?」
「名前を記憶していただき感謝のイタリア」
「そう。それで……イタリア?」
「失礼、噛みました」
頭を下げるクレア。そう言えば
「ギルドの方は相変わらずご主人様を募集しているの?」
「もちろんでございます」
「そっか」
彼女は先に依頼をして受け取りに来る。しかし今回は違った。
「何かあったの?」
「聖堂騎士団と小競り合いがありまして。その際に勧誘が成功しました」
「なるほどね」
クレアたちのギルド、THE・メイドはメイド装備を、聖堂騎士団は鎧に剣と真っ当な格好だ。
実はどっちの装備も作った事がある。メイド服と鎧のステータスの差は無いと言えない。
「ギルドと言えば不穏な噂を聞きました」
「どんな?」
僕は彼女を伴って奥の部屋、鍛治部屋と呼んでいる部屋に入る。そして素材を受け取って
「シリアルキラーズというギルドがあると」
「……聞き覚えは無いなぁ」
チクチク縫いながら呟くと
「噂の範疇を出ませんが……PKギルドだと」
「あ痛っ」
驚きの余り指に針が刺さった。もっとも痛くないはずなのに反射で言ってしまう。
「大丈夫ですか」
「どうでも良いよ。それよりも……その」
「シリアルキラーズの事ですか? 現在は所在もリーダーも不明、構成メンバーも人数も不明です」
「……」
「ですがキルした相手に名乗るそうです。PKギルド、シリアルキラーズの者だと」
PK……ギルド。それをする相手を知っている。記憶にもある。
「……ごめん、クレア」
「どうしました?」
「ちょっとみんなに聞きながらの作業する」
「構いません」
『Aria:誰かシリアルキラーズってPKギルドを知ってる?』
『mammon:PKギルド?』
『diabolos:名前すら知らないな』
『Lucifer:聞き覚えしかないな』
『Aria:これ、僕の予想ならあいつがギルドリーダーだ』
『diabolos:あいつ?』
『Aria:ファントムマスク』
*****
幻影面というプレイヤーは悪い意味で有名だ。いくつものMMOでPK専門プレイヤーだ。
「それがどうして今さら……」
「私が思うに前のがサービス終了しちゃったから移ったんじゃない?」
「おそらくそれが答えだろうな」
「どうするべきかな」
「いつもと同じだ」
魔王はそう言って
「潰すぞ、徹底的に」
と、断言してカーマインブラックスミスから出て行った。それにみんながぞろぞろ出て行って
「アリアちゃん、幻影面を見つけてもソロ突進はやめてね?」
「保証は出来ないよ」
「そうよね……ひよちゃんもまたね」
『ちぃ!』
マモンはひよちゃんに甘噛みされて店を出た。
さてと
「幻影面がこの世界にいるなら……」
『ちぃ⁉︎』
「あ、驚かせちゃった?」
『ちぃ!』
僕は慌てて心を落ち着かせて
「ひよちゃん、散歩に行く?」
『ちぃ?』
「街の中ならダメージを受けないからさ」
『ちぃ!』
ひよちゃんはカウンターから椅子に跳んで床に跳び下りる。空をやっぱり飛びたいのかな。
「次の進化があったら空を飛べるようにしたい?」
『ちぃ!』
「やっぱりそっか……ごめんね、僕の好みでひよこ姿のままで」
『ちぃ⁉︎ ちぃちぃ! ちちっ!』
焦ったように鳴くひよちゃん。もしかして
「慰めてくれたの?」
『ちぃ!』
「ありがと……」
僕たちは外に出て日の明るさに目を細める。そして
「川に行く?」
『ちぃ!』
「そっか。それなら泳ぐ?」
歩いて5秒の川を見下ろしながら歩く。少し上流に浅瀬がある。そこには水草もあるからご飯にもなる。
「水魔法をマスターしたら泳げるんだね」
『ちぃ!』
「楽しそうだね。そろそろ夏だし冷たくて気持ち良さそうだなぁ……」
『ちぃぃっ(アイスフロア)!』
「わ、氷が張った」
そしてその氷の上をとことこ歩くひよちゃん。僕も裸足で川に足をつけている。
ひよちゃんは氷の上で楽しそうに歩き回って端っこから落ちそうになって慌てる。可愛い。
「ひよちゃんぴよぴよぴよこっこ」
『ちぃちぃちちちっちちちっち!』
「ひよちゃんも歌えるんだねー」
『ちぃ!』
氷の範囲を広げて上機嫌で駆け回るひよちゃん。可愛い。でも
「MP尽きちゃうよ?」
『ちぃ⁉︎』
「ほら、戻って来たらMPポーションあるから」
『ちぃ!』
ひよちゃんは素早く走って……氷の縁で止まる。そしてゆっくり川に入って
「足をバタバタさせて泳ぐんだね」
『ちぃ! ちちっ⁉︎』
「あ、足に水草が絡まったよ?」
『ちぃ!』
プチッと音を立てるように水草が千切れた。そして
『ちぃ〜』
「ご機嫌だね」
ひよちゃんが咥えていた水草をくれた。とりあえずインベントリにしまおうとした、その瞬間
『sherilさんからメッセージが届きました』
「シェリ姉?」
『アリアちゃん、シリアルキラーズってギルド、知ってる?』
僕はその文面に不穏を感じた。
ひよちゃんメインの回
堂々と次回に続く的な終わり方をする作者
自重しろよまったく
幻影面
誰か覚えている人はいるかな?




