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浮島しましま

「残骸なんてこの建物の中にあったっけ?」

「……いえ、この島によ」

「……あったような気がする」

「どこに!?」

「……」


 シンは小さく迷い、


「アリアが飛び込んだ湖の中で、建築物みたいな物はなかった?」

「そんな描写はなかったわ」

「後付け設定だからね……でも、考えてみたらおかしな話しだったんだ」

「え?」


 シンは通路を眺める。汚れていて、3メートル先をスキル無しで見るのは不可能なそこを眺めて――次に、壁にあるそれを指差した。それは街灯の先端部分のような物。


「灯り、消えているしここも大分使われた様子がない。ここってかつて滅んだ文明とかじゃないの?」

「後付けだから随分と無理矢理ね……」


*****


 アリアは湖の底付近を目掛けて飛び込んだ。ちなみにシンは準備運動をしていたため、アリアが飛び込もうとしているのに気付かず、制止の声は間に合わなかった。


 水中は暗く、細かな点を見ていなかった。アリアはそう思いながら水底に足を着いて周囲を見回していた。のんびりと歩きながら見回していると――不思議な物があった。


「これは……遺跡かしら?」


 石垣のような物があった。いや、違う。これは城壁だ。って事はつまり――ここに何かが沈んでいる、ということだ。


「……システム上、フィールドを掘り返せるってことは……そういうことなの?」


 水中でのスコップ、と考えるともの凄く嫌だ。そう思いながら腰から剣を引き抜いて城壁を斬り裂こうとしたが――水の抵抗が激しくて、剣が壁に弾かれた。それに舌打ちをしながら剣を構え直して、息を吐く。そのまま呼気と共に斬撃を放つ。


「……ダメね」


 斬ることが出来ないようになっているようだ、とアリアは判断する。何故あんなに斬りつけていても、壁に激突する寸前で弾かれているのか。システム的な問題で正式な入り口以外からは入れないようにしているのだろう。

 だとすればどこに入り口があるのだろうか。アリアは疑問を抱きながら石壁に沿って歩いて――途中、魚が目の前を泳いでいるのに気を引かれた場面もあったが――ようやく入り口のような物を発見した。それは壁にある小さな亀裂。人一人がようやく通れそうな隙間だった――、がアリアにとっては大きな亀裂で軽々と中に侵入出来た。


「ここは……遺跡? それもなんだか立派な装飾があるし……お城かしら?」


 だとすればこの奥に玉座があるのだろう。そして大体城の玉座があるのは謁見の間か、大広間だろう。なればこそ、大きな部屋を探せばなんとかなるだろう。もっともアリアは城の中を歩いた経験がないため、適当に散策していた。

 扉は水圧のせいで開き辛いので後回しにして色々と歩き回る。壁に大きな亀裂があったので、再び亀裂から中に入ってみると、そこにはベッドがあった。ここはきっと誰かの寝室だろう。そう思っていると


「このダンジョンにはモンスターがいないのね」


 今さらながら気付いた。それはもしかして、玉座に辿り着くまでが一つのイベントとされているのかもしれない。ともすれば……


「玉座を護るモンスターがいるわね」


*****


「さてと」


 シンは亀裂から身を滑り込ませて廊下を歩く。そしてそのまま、どっちに進もうかと迷う。壁の中途半端な位置から入り込んだからこそ、右にも左にも進む道がある。


「アリアなら左に行くんじゃないかな?」


 アリアの性格からシンは予測しつつ、右に進む。実際にアリアは左に進んでいたのだが、シンはその報告を受け取っていない。本当にアリアならどうするか、だけで判断したのだ。


「……こっちは中庭かな? 随分と荒廃しているみたいだけど」


 花壇の残骸に、倒れた石の彫刻物。それには水草が絡みついて、ここでとても長い時間が経過したと知らしめていた。


「これほどの文明を作り上げていたのが滅んだ、かぁ」


 こういった物語は好きだ、とシンは思いながら色々と考えつつ、泳いで上空から中庭を眺めていた。

 どうやらここは、湖の底の下にある空間で、水が流れ込んでいるんだ。そんな風に理解しながら見回して城の全体図を理解した。しかし


「とりあえずあの高い塔は気になるなぁ……宝箱とかあるかな?」


 まぁ、例えあったとしても大したものは入っていないだろう。しかしそれでも、宝箱を開ける際のわくわくはいつまでもあるのだ。そんな風に思いながら室内に戻ろうとした瞬間、違和感があった。


「……この城ってもしかして……ダンジョンじゃない?」


 モンスターが湧かないダンジョン、と思っていた。しかしここは違う。ここはきっと――


「だとすれば、アリアは今……かなり迷っているんじゃないかな?」


*****


 アリアは廊下を高速で走り回っていた。どこまで行けばその答えがあるのだ、と考えながら走っていた。

 すでに水の抵抗には慣れた。だったらそれに合わせて動けば、何の問題もない。次々と扉を蹴破りながらアリアは捜索を続けていたが――一向に、その答えが見つかる気配はない。


「玉座を見つけてそれを奪い取らないといけないのに……っ!」

「目標がすでに変化しているよね……」

「シン?」


 振り向くと困ったような表情の彼が立っていた。そして彼は小さくため息を吐いて


「アリア、ここをどれだけ探しても答えは見つからないと思うよ」

「あら、シンは答えを見つけたとでも言うの?」

「見つけたって言うか見つかっていたって言うか……難しいだろうね、この問題は」

「随分と複雑なヒントね……私、そんなヒントで分かるかしら?」


 どうだろうね、とシンは思いながら目を細くする。今ここでシンが答えを口にしたならば、島の制御権はおそらくシンに移るだろう。そしてそれはアリアの望む展開じゃないはずだ。だったらシンがすべきことは何か、と考えてみれば――アリアが答えに自力で行き着けるようなヒントを散りばめることだ。


「アリア、玉座って一体何だと思う?」

「椅子よ。王様が座るすんげー椅子よ」

「アリア、その答えだときっとこの問題は解けないよ。この問題は何を王の棲まう地とするか、だよ」

「……?」

「いや、違うかな……玉座って、椅子だけじゃないと思う」

「え?」


 どういう意味、とアリアは呟いて廊下を歩く。そして


「教えてはくれないみたいね」

「答えたら多分、この島の制御権が僕の物になっちゃうからね。譲渡が出来るか分からないから、まだ答えないよ」

「口にしたら、ってことね」

「うん。メッセージで教えても良いけど……アリアには自分自身で答えを見つけて欲しいなぁ」


 シンはそう言いながら目を伏せる。少し意地悪だとでも思ったのだろうか。しかしアリアはそれに頷いて――剣を抜いた。それにシンが驚いていると


「大体の答えは分かったわ。さっきの場所に戻りましょうか」

「……なんで剣を抜いたのか、聞いても良いかな?」

「気分」


*****


「玉座を発見したわよ」

『――玉座を我が物とせよ。玉座に腰を下ろせ』

「ええ」


 アリアは何の躊躇いもなく、床に腰を下ろした。それも体育座りだ。ちょこん、と座っているアリアにシンが可愛いなぁ、と感想を抱いていると


「玉座はこの浮島自体よ!」

『……正解』


 さすが、とシンは思った。シンが出した答えとまったく同じだったからだ。そんな風に思いながら頷いていると


『続いての問題だ――』

「「え?」」


 二問目、とアリアとシンが驚いているのを無視して声の主は続ける。


『宝物庫に眠る王冠を手にせよ――』


 今度はアイテム探しのようだ。アリアとシンはなんとなく、またあのお城の探索をしないといけないという謎の脱力感を感じていた。


休校だったため、家で執筆しました


とりあえず土曜日に補講があるとわくわくする系ゆとり世代

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