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弱い最強

 アリアは少し悩んでいた。それはマリアと戦った際に、完全に負けていたからだ。

 油断もあった。でも、純粋に負けてしまった。マリアだけが使いこなせている公式チートの一つ、《詠唱破棄》と《詠唱術士スペルキャスター》のコンボだ。ちなみにアリアの持っている《鍛冶》スキルもチート性能なのだが、アリアはそれを戦闘には使おうとしないだけだ。


「マリアは強いね」

「んー、でも結局アリアには負けてしまったからね。何とも言い辛いかな? 第一、僕は手加減して戦われているみたいだったんだし、良いんじゃない?」

「そういうわけにもいかないわね。負けたのは私で、斬ってくれたのはシンよ」


 公式チートコンボを使ったアリアはシンに斬られた。あの状況では使わないと勝てないって思ったからだ。

 簡単にアリアがした公式チートコンボを解説するならば、触れているとダメージを負う闇を垂れ流す。そしてその闇を自由自在に操る。さらに闇を固形として攻撃力を上げる。最後に――闇に触れている全てを見なくとも知覚出来る。それは光でも、影でもだ。だからこそ見ないでも戦えるような物となった。


「――エキドナコンボを使ってみたいな。アリア、実験台になってくれない?」

「嫌よ。私は負けないで《最強》って名乗っているのだから。もっともシンに負けるのは、許容範囲なのだけどね」

「良いじゃん。エキドナコンボなんて殺傷力はないんだよ? 時間を止めて様々な毒で相手を汚染するだけだし。大丈夫大丈夫、アリアならなんとかなるって」

「この世界の毒は割合ダメージでしょうが……どう足掻いたって死んでしまうじゃない」


 時間を止めている間にダメージはない。しかし毒などの液体を振りかけていた場合、時間が動き出すと同時に毒が体に触れて状態異常と化してしまうのだ。それはつまり、あの瞬間にもマリアはアリアを嵌められたということだ。しかし陣を創り出すことに固執してしまったのだ。


 それをマリアが望んでしたのかは、本人にしか分からない。


*****


 アリアは柘雄に抱きしめられながら眠りにつく。それを柘雄は眺めながら、目を閉じる。


 アリアは強くない。むしろ弱い子だ。それを理解している柘雄はアリアを護りたいと心から思う。かつて斬ろうとして、何度も斬られた。今日は斬った。そんな婚約者同士なんて、普通はいない。


「――柘雄、まだ起きているかしら? 起きているのなら、お話ししたいのだけど」

「うん、起きているよ。それで、どうしたのかな? 眠れないって言うのなら、怖いお話でもしようか?」

「むしろ眠られなくなっちゃうじゃないの……そうじゃなくてね、私、マリアに負けたわ」

「その前に僕がアリアの首を切り飛ばしたけど?」

「でも、負けたわ。アレを使って、考えないでぶっ放さないと戦えなかった。マリアに完全敗北してしまったわ」


 もはや最強なんて名乗れないわね、とアリアは呟いた。その口調は決して重くなくて、明るくない。ただ淡々と事実を受け止めるようにアリアは呟いて、柘雄の胸に小さな頭を押しつける。そのまま頭部で柘雄の胸を撫でて、小さく息を吐いた。


「凄く、不安だわ……今までの最強だなんて名乗っていた自分が、とても脆弱に見える。柘雄に抱きしめられていないと、すぐに泣いてしまいそうな感じよ。だからしばらく、このまま抱きしめてくれないかしら……もっと力を込めて、私をずっと話さないって言うみたいに……どこにも行かせないように、抱きしめて欲しいわ」

「アリア……」

「重たい女で、ごめんね」

「……軽いさ。アリアなんて、僕が軽々と支えられるぐらいに軽いんだよ。だからずっと、もたれ掛っていてよ」

「抱きしめてあげる、って言ってくれないのね」

「抱きしめてもアリアはそれで満足するような子じゃないからさ」


 アリアはうふふ、と笑いを漏らす。そして、柘雄の背中に手を回して


「ねぇ、柘雄」

「ん?」

「もしも違う出会い方をしていたら、私たちはこんな関係になれたかしら?」

「――なれないよ、きっと」

「でしょうね」


*****


 逆手に握った双剣が森の木々を切り倒す。その結果を眺めながらマモンは舌打ちをする。


 アリアがマリアに負けた、という事実が受け入れがたい。あのマリアが、と言うのとあのアリアが、というのの二つだ。だが


「負けたのは当然って……そんな風に思えるのはアリアちゃんだけよ」


 私は認められない。アリアちゃんが、《最強》がシン以外に負けるなんて。そう思ってしまえば、マリアに喧嘩を売りそうになってしまう。だから距離を置いている。


 呼気と共に木を打ち、その衝撃が木の幹を弾き飛ばす。そのまま倒れる木を蹴り飛ばして、


「何をしに来たの、レヴィ」

「猛っているとこ悪いけど、呼び出しよ。さっさと行くわよ」

「……誰が、なんで呼び出しを? 私、内容によっては顔面に膝蹴りまでなら視野に入れるわよ……いや、そこから連続蹴りはするわ」

「お互いの想い人よ。何か真剣そうな表情だったわ」

「……」


 選んだのか、選べたのか。マモンの脳内が混乱に満たされる。身を引く前に、呼び出されてしまった。

 臆病だった直美マモンは距離を置くことも、彼に冷たくすることも出来なかった。だからこそ、こうなったのだ。


「――行きたく、ないわ」

「でしょうね、私もよ。ぶっちゃけ吐きそう」

「吐いたら楽になれるかもよ?」

「リアルでよ。ベッドが汚れるから嫌」


 そして5分後、


「あのー、とりあえずだけど二人は何をしているんだ?」

「「さぁ?」」


 何故二人はあんなコスプレ姿なんだ? と、ベルは思いながらため息を吐いてお茶を飲んで


「とりあえずポーズ取るのを辞めて座れよ。話し辛いから」

「こっちは聞き辛いのよ」

「だからコスプレしているの」

「……繋がりが分からない」


 ベルはため息を吐いて、


「まず現在、俺は海外に行くことになった」

「「……は!?」」

「左遷じゃないぞ? って言うかレヴィは聞いていてもおかしくないはずだが」

「まだその情報は本人にしか伝えていないはずだ。それよりもベル、お前は一応断っても良いんだぞ?」

「改めてなんだがどうして俺なんだよ……」

「お前が一番お客樣からの評価が高い平社員なんだよ」


 平社員なんだ、とマモンは理解した。そのままマモンは小さく頷いて


「それで、どこに行くの?」

「――アフリカ総統王国の北の辺り、旧エジプトエリアだな。お前、エジプト語はいけるだろ?」

「少しだけだ」

「ちなみにベルはエジプト語のテストを満点で通過しておりますが、授業をサボりまくっていたため、評価は可でした」


 レヴィの解説にベルは苦笑して、魔王は笑う。しかしマモンは納得していない。爪先で地面を叩いて


「それで? ベルが私たちを呼び出した理由はそれだけなの? そこから始まる話があるんじゃないの? 無いんなら――まぁ、どこか行くけどさ」

「顧客との関係が良いベルは海外でこそ活躍出来ると俺は思う。だがベル、断りたいなら断っても構わない」

「あっそ」

「ちなみにアフリカ総統王国では重婚が認められていたりする」


 その情報を伝えて何になるんだよ、とベルは呟いたが――顔を向けていないからこそ、二人の反応には気づけなかった。お互いに身を引こうと思っていたからこそ、その言葉には惹かれたのだ。だが――選ぶ権利はベルにある。ベルにしかない。


*****


「さてと、そろそろ帰ろうか」


 アリアは翼を閉じて、螺旋大陸の中央を一気に落下し始めた。その先にはきっと何も無く、どこにも何も無い。


「でも、行きたい場所だってないんだけど、立ちたい場所はあるんだよね」


10月になりましたねー


とりあえず止まっていた時間を動かし始めないと

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