選ばれた者
今の状況はどうなっているんだろう。シェリルはそう思いながら指揮棒のように杖を振るう。
「《風よ》」
ただただ、突風を巻き起こすだけの魔法を使い、
「《炎よ》」
それを燃え上がらせる。そのまま風を指揮し、攻撃を仕掛けていても誰もそれには当たらない。軽々と避けながら、それぞれが戦い続けていた。誰もが相手に気を払いつつ、周囲の警戒を怠っていないのだ。
シェリルは傷つかない。それはシェリルが選ばれているから、というのもあるがシェリルの護りが完全に近いからだ。
*****
今現在、残っているのは僕とアリア、シェリルとエミ、レヴィとマモン。そしてキャンデラか。シンが冷静に状況を眺めながら、エミの扇を剣で受け止める。そのまま反撃を放ったが、広げられた扇に受け止められた。
「中々速いけど、対応出来ないわけじゃありません!」
「ん」
エミの扇を避け、剣を振り抜く。しかしその剣はキャンデラの剣で受け止められた。そのまま連続して攻撃を仕掛けてくる二人からシンは距離を取ってため息を吐く。
「なんで僕を狙うのかな? アリアと戦いたいんじゃないかなって思うんだけど、どうかな? 違う?」
「違います」
「違うね」
「なんで?」
二人はアリアを目標にしていたはずだ、とシンは思った。しかし二人は今、シンに剣と扇を向けていた。疑問を抱いていると、二人は無言で攻撃を仕掛けてきた。
剣が目の前を横切り、扇が紙一重で通り過ぎる。それをのんびりと眺めながら、シンは片手で握りしめている剣を鞘に収めた。そしてそのまま、右手で投げられた扇を掴み取った。
「「っ!?」」
「なるほど、確かにアリアに挑まないわけだ」
「どういう、意味ですか!?」
「何だって良いさ。重要なことじゃない」
シンは二人の攻撃を避けながら素手で攻撃を受け流し、二人の頭を撫でる。現在はアリアとマモン、レヴィとシェリルの四人が大乱闘している。それが目に入ってしまったので、顔を逸らす。
*****
額を目掛けて飛んでくる弾丸と矢を、剣で切り払う。そのまま地面を蹴って背後に飛ぶ。直後、立っていた地面に七本の剣が刺さった。シェリルの《セブンソード・メテオ》だ。
「三人が私を狙うとは思っていたけど、まさかこうなるとはね」
全員が全員を攻撃している。つまり、バトルロイヤル風になっていたのだ。まぁ、アリアにとってもシェリルにとってもマモンにとってもレヴィにとっても問題はないのだが。
「《ミリオンソード・レイン》! 《セブンソード・アーツ》!」
「《ヘリックスアロー》!」
「はぁっ!」
魔法が、矢が、弾丸が4人の間を通り抜ける。アリアはその隙間を縫って高速で走り抜け、シェリルの背後に回り込んだ。
しかしシェリルはそれに反応し、杖を向けた。そしてマモンはシェリルに高速の蹴りを叩き込もうとし、レヴィはマモンの側頭部に弾丸を放った。
「《セブンソード・レヴォリューション》!」
「っ!?」
「クソっ」
「っち」
シェリルの周囲を何本の剣が高速で回転した。アリアは咄嗟に地面を蹴って跳び、マモンを足場にしてさらに跳躍し、天井に立つ。そして体勢を崩したマモンを狙った弾丸は、見事に外れた。全員が全員の足を引っ張っていると
「きゃぁ!?」
「わっ!?」
エミとキャンデラが飛んできた。咄嗟にアリアは剣を振るい、エミを一刀両断し、キャンデラを掴んで放り投げる。
「一体どうしたのよ、シン」
「中々面倒になってきたからねぇ、任せたんだよ」
「あ、うん、そう」
「アリアさん……えーっと、どうしよ?」
直後、キャンデラは背後から心臓を抜かれ、即座に握り潰されて即死した。そしてそれを成したマモンは眼を細くして、アリアに襲いかかろうとしたが
「おっと、通さないよ」
「うーん、邪魔をするのかなぁ?」
「まぁ、アリアを護る必要があるのかって思うと疑問だけどさ」
マモンの蹴りに剣を併せ、拳を避ける。するとマモンはそのまま背後に飛んで、双剣を抜いた。そして
「うーん、強くなっているなぁ……困ったなぁ……どうしよっかなぁ……?」
「自害とかどうよ? 割腹自殺」
「やだ」
マモンは瞬時にシンの目の前に移動し、蹴りを放った。反応出来なかったシンは高速で壁に叩きつけられそうになったが、咄嗟に壁を斬って減速。ダメージを減らして地面に着地し、剣を構えた。
「おー、生きてるんだ。凄いねぇ」
「殺そうとしたくせによく言うねぇ……アリア、そっちは大丈夫?」
「キャンデラが犠牲になったわ」
「惜しい子を亡くしたわね」
「シェリルの魔法が広範囲だから巻き込んだんでしょうが」
レヴィは銃をアリアとシェリルに向けながら、ため息を吐く。そしてアリアも二本の剣を翼のように構え、シェリルは指揮棒を構える。そのまま指揮棒を振り上げて
「《レインボーソード・レイン》」
「っ、《アストライア-》!」
もう、《龍化》は使えない。アリアはそう思いながら地面を蹴って、飛んだ。
七色の剣が降り注ぐ中、レヴィはそれを一本ずつ撃ち抜いて、アリアはそれを避けて飛び回る。シェリルの背後に回り込んで、剣を振りかぶった。
「んっ」
ズバン、と鈍い音を立てて剣が振り抜かれた。しかしシェリルは死んでいない。咄嗟に地面を蹴って、壁に着地して
「《トリリオンソード・アーツ》!」
無理矢理一兆本の剣を制御して振るう。それはメテオほどの高威力ではなく、レインほどの広範囲ではない。しかし、指向性で動かせる剣の嵐。そしてそれが、アリアを飲み込んだ。
「っ!?」
「悪いわね、シェリル。これで終わりよ!」
レヴィの蹴りが、シェリルを弾き飛ばした。そしてそのまま銃を向けて、連射した。
「《セブンソード・シルド》!」
「《バニシングバレット》!」
七本の剣による盾が、消滅の弾丸と激突して消滅した。しかしレヴィの握る銃は一丁ではない。続けて放たれた弾丸がシェリルの頭を撃ち抜いた。
*****
マモンの双剣がシンの剣と噛み合い、同時に距離を取る。そのまま剣を構え直して、シンは息を吐く。
マモンの得意な武器は弓矢でもなく、拳闘でもなく、双剣でも無い。その体自体が全て、武器なのだ。それを理解しながらシンは警戒を解く。
「アリアは護るよ」
「現在進行形でレヴィと戦っているのに?」
「不意打ちをさせないためだよ。二人の決着がついたら通すからさ」
「ふーん……道理で、護ってばっかりで攻めてこないんだね」
「分かっていたくせに」
マモンは答えずに双剣を鞘に収めた。そしてそのまま再び、弓を構えた。
「ん」
「っ!?」
マモンが弦を弾いた直後、矢が放たれた。それは真っ直ぐにシンの額を貫こうとするが、割り込んだ剣の腹が矢を弾き飛ばした。
しかし攻撃を防いだ代償として、マモンの姿を見失った。そして背後で微かな音がした。咄嗟に剣を振るったが、それは柔らかい感触に受け止められた。
『危な!?』
「……シェリル? どうしてここに?」
アリアとレヴィと戦っているはずなのに。そう思いながらシェリルを見つめていると、その額には奇妙な文様が見えた。
それは燦然と輝き、妖しげな光を放っていた。その光に照らされている顔は淫靡で淫猥な雰囲気があった。
「あ、あの、シェリル?」
『ふ、ふふふ』
シェリルは答えずに指揮棒を向けて
『《デストラクションブラスト》!』
「……マモン」
「分かっているわよ」
シェリルじゃない。これはシェリルの体を乗っ取っている何かだろう。
「一時休戦って事でしょ?」
「うん」
「シェリちゃん、《風魔法》は使わないしね」
おかしい、と思いながらマモンは地面を蹴り、シェリルの腹部に膝を叩き込んだ。




