天使と悪魔
アリアは崩壊する洞窟の壁を眺めながら、二本の剣を構えた。そして地面を蹴る。何かが出てくる前に先制攻撃、と思ったのだが
「っ!?」
「お姉ちゃん!?」
先に見えていた腕を切りつけよう、としたはずだった。しかし、その腕に目が現われたと気付いた瞬間、高速で弾き飛ばされた。
「っ、何よアレ! ダークシンクロ!?」
「ワンハンドレッドアイドラゴン?」
なんだか無性に満足、と叫びたくなるようなそれを無視してアリアは飛ぶ。吹き飛ばされた衝撃は飛ぶことで逃がした。しかし、すでに洞窟は崩壊し、天井には穴が開いている。そして大きな広場と化していた。
「エミ、あなた一人?」
「え、うん、そうだけど?」
「全員一人で戦っているのかしら? それとも私たちみたいに二人でペアなのかしら?」
「あー、知らない。みんな一人っきりじゃない?」
エミは自分がそうしたから、と内心で思いながら扇を構える。
「八乙女舞、行きます!」
「行くわ!」
翼を広げた姉が巨大な目だらけのドラゴンに向かっていった。それに睨まれると衝撃で弾かれるようだった。エミはそれを視認しながら
「っ!」
右、右、左。リズムに乗りながら連続の打撃を放つ。そしてそれだけが奉納の儀式となる。視界端にある『奉納ゲージ』が満杯になるのと同時に距離を取って
「かしこみ、かしこみ申す――」
*****
「あの子、何をしようとしているのかしら?」
腕をかいくぐり、いまだ壁から腕二本と頭しか出していないそのドラゴンを斬りつける。即座に弾き飛ばされるが、翼を広げて空中で止まり、即座に反撃している。どうやら弾き飛ばすには3秒ほどの溜が必要なようだ。
そしてその合間にエミに目を向けると、何かの詠唱を始めていた。あの子、魔法系統のスキルを習得していたのかしら、とアリアは思いながら翼を折り畳み、地面に降りる。その動作で腕の薙ぎ払いを避けて
「エミ、何をしているのかしら?」
「――《降神》!」
瞬間、エミの体を光が包み込んだ。そしてそれと同時にエミの動きが霞んだ。残光を残したエミはドラゴンの顔面寸前で動きを止めて
「はぁぁっ!」
息も吐かさぬ高速の連続攻撃。それがドラゴンの顔面を殴りつけ、次々と鱗が剥げ落ちていく。ドラゴンの猛りを無視してエミが殴り続けていると
「エミ!」
「え!?」
掴まれ、持ち上げられた。そのまま飛んでいる!?
「お姉ちゃん!?」
「きちんと見なさい! 全身が現われるわよ!」
「え!?」
洞窟が崩壊する。ドラゴンが暴れただけで、洞窟が崩壊を始めた。そして
「あのドラゴンは……まさか、《天使龍皇》と《悪魔龍皇》!?」
「お姉ちゃん、知っているの?」
「知っているわよ……でも、あのドラゴンとあの二体は正直、辛いわね」
「お姉ちゃんでも?」
「――ひよちゃん!」
さらに
「《龍化》!」
アリアは《兎化》のスキルをすでに、手放した。それはアリアとアリアが別れた後、アリアはそのスキルを見て思い出したのだ。それは鏡を見て、ポーズを取った瞬間の記憶だった。
あまりの酷さにアリアは絶句し、瞬間的にそのスキルを消去したのだった。そして現在のドラゴンの力を得るスキルに変えたのだった。
「お姉ちゃん、それは?」
「スキルよ」
背中からドラゴンの翼を生やし、ドラゴンの尾を生やしている姉を見つめてエミはため息を吐く。もはやこの姉、人間ではない。そう思っていると姉は天使のような純白の翼とドラゴンの翼を広げて天高く飛翔した。
「見せてあげるよ、エミ。私の力の一端を」
「何をするつもりなの?」
姉は答えず、二本の剣を振るう。そのまま全身を現したドラゴンへと斬りつけた。さらに続けて高速の連続斬りがドラゴンの体を斬り裂く。
姉はドラゴンの反射の力すらも斬り裂いているのだ。そしてよく見ると、姉の剣戟には剣だけでなく翼も、蹴りもが加えられていた。徐々に速度を増していく姉はドラゴンの全身を切りつける。1秒として同じ位置にはいない。ドラゴンも応戦しているのにも関わらず、一方的な戦闘が繰り広げられていた。最強、という名前は伊達では無いのだ。
「教えてあげるわ、これが私の全力!」
アリアは空中で二本の剣を重ねて
「《限界突破解放》! 《アリア》――っ!」
姉の叫びはきっと、別の何かに伝えようとしているのだろう。自身の名を冠した剣だ、きっと名前だけではなく、もっと多くの物が詰まっているのだ。だからアリアは剣を構えて
「《光よ》!」
アリアの握る剣が光を放つ。そして――-その剣が振り下ろされた。それはドラゴンの腕を一刀両断し、さらにはその胴体まで大きな亀裂を作り上げた。
しかしアリアの動きは止まらない。連続攻撃を得意とするアリアの動きは加速して――ドラゴンの首を断ち切った。そして
「《天使龍皇》か《悪魔龍皇》は任せますわね! エミ!」
「なら《天使龍皇》をもらうね!」
「ええ!」
エミは小さくため息を吐いて、両腕で自分の体を抱き抱えた。そしてその背中から、真紅の翼が広がった。
エミの使う翼はアリアの作り上げた呪装備の一つ。大きなメリットと、それに釣り合うほどの大きなデメリットを共存させているような巫山戯た装備だ。
《赫々たる呪翼》という名のそれは装備者のステータスを全体的に過剰なまでに引き上げるが、攻撃を一撃でも受けてしまえば全損するようになっている。扇を挟み込むことで防御も出来るが、直撃すれば死ぬ。何のためにステータスを上げ、体力や防御力まで上げるのかとエミは聞いたが姉はロマンとしか答えなかった。
「ん!」
降り注ぐ光の槍を避けて前に進む。《天使龍皇》の姿が視界に収まりきらなくなったと思った瞬間、《天使龍皇》が動き出した。一カ所に留まっての砲台のような攻撃をするだけか、と思っていたエミからしてみれば驚きで、アリアからしてみれば当然の事態だった。
「お姉ちゃん! どうやったら戦えるの!?」
「避けながらぶん殴りなさい。エミなら、出来るはずよ!」
「うん!」
アリアは《悪魔龍皇》の張る七色の弾幕を、光線を避けて剣を振るう。それが《悪魔龍皇》に小さくないダメージを与えているが、《悪魔龍皇》の膨大な体力を削り斬るには足りない。一撃一撃が重くとも、連続してたたき込めなければ微々たる物なのだ。さらに《悪魔龍皇》は体力が自動で回復するように進化していた。それがまた、アリアを苦戦させていた。
「医者に一日一回までって言われているけど――《龍化》!」
全身を形容しがたい色の光が包み込む。そしてアリアはその残光を残し、《悪魔龍皇》の頭上にいた。そのまま両手で剣を握りしめ、《悪魔龍皇》の額を刺し貫いた。
脳は《致命的位置》だから、とアリアは思ったが《悪魔龍皇》の脳まで剣は届いていなかったようだ。アリアの剣のリーチが足りなかったのだ。
「っく」
咄嗟に《悪魔龍皇》の頭を蹴りつけて跳ぶ。そのまま翼を広げて《悪魔龍皇》を見下ろす高さまで飛ぶが、《悪魔龍皇》も付随してくる。
アリアがそれに辟易としながら、片翼の動きを留める。そのままもう片翼だけで羽ばたいて、宙返り。バレルロールと呼ばれるそれをしたアリアは瞬時に《悪魔龍皇》の背後に回り込み、《悪魔龍皇》は突然眼前から姿を消したアリアに戸惑っていた。そして
「《光よ》!」
剣の耐久を大幅に使い、最高の斬撃を放つ。アリアの高速の斬撃は《悪魔龍皇》の尾から頭まで綺麗に一刀両断にした。
次回はエミと天使龍皇のキャッキャうふふです
シェリル? 知らんな




