物語
今、何に殴られたんだろう。アジアンは吹っ飛ばされながらそれに目を向けた。まるでドラゴンのような何かがそこにいた。
「《ジャバウォック》……!?」
『そう。ルイスキャロルの鏡の国のアリスより、《ジャバウォックの詩》。私を倒せばこの詩をあなたにあげるわ』
「いらな……要るかも。ありがと」
『まだ、倒していないでしょう?』
まったくだ、と思いながら《ジャバウォック》の懐に跳び込む。そのまま真下から喉を掻っ捌くように短剣を振るった。しかし、その短剣の刃は喉に切り込み、動かなくなった。
咄嗟に深く突き刺して、一気に引き抜く。抜けない時は一度刺せってあの忍者が言っていた。そんな風に考えながら背後に回り込む。距離を取るのは得策では無い。
《ジャバウォック》は単調な物理攻撃ばかりを繰り返している。だからこそ、避け続けるのは容易いと思っていると
『開け、《古事記》』
「へ?」
『熊襲武尊』
厳ついおっさんいますやん。アジアンが現実逃避しそうになりながらも必死にそれを見つめていると
「ぎゃぁぁぁ!?」
目の前で怪獣決戦が始まった。しかし何故か、《熊襲武尊》は私を護ろうとしているように見えた。そして《熊襲武尊》は《ジャバウォック》を鈍器のような剣で切り潰した。やったぜ。
『あ、あれ?』
『む、儂の嫁にならんか?』
「ええ!?」
実はこのモンスターたちはマグナたちが作り上げた仮想人格者。歴史を、伝承を調べて作り上げたモンスターたちなのだ。そして《熊襲武尊》は長だったのに《大和武尊》に目を留めるような男、つまり独身だったと判断されたのだ。
『あ、あのー?』
『どうじゃ?』
「えーっと……あの扉を壊してくれたら考えなくもないですよ?」
躊躇いはなく、未練もない。アジアンは一人取り残され、少し寂しくなった。
*****
「オバマと申します」
『ご丁寧にどうも。オバマと申します』
相手は自分だった。オバマはそう思いながら槍を投擲する。その勢いのまま斧を構え、突撃する。
突き、からの切り上げ、そのモーションの途中で蹴りを繰り出して槍を弾き飛ばす。そのまま逆手に握った槍の柄を叩き込んで
「本家オバマは私なんで、負けて当然って感じですよ」
『では私は紛い物と? 紛い物だから本家に負けて当然だと?』
「いえ、別に。ただ結果的にそうなったなぁ、程度に思っていただければ充分なんで。別に私が勝ったのは当然ですけど結果的に槍見えただけなんで、ええ」
オバマは地面に倒れ、肩に石突きを押されているもう一人の自分を見下ろす。そして
「あなたが私に勝つ未来もあったのでしょう。ですが、今は私の勝ちです」
『構いませんよ。私はこの未来もありだと思いますから』
「そ、なら良いです」
斧を振り下ろす手に躊躇いは存在しなかった。
*****
「あなたは私ですね。倒させてもらいますよ」
『え、ちょ、会話を「しません」
両手に握られた銃から次々に弾丸が放たれた。それを眺め、マグナは咄嗟に二本の剣を抜いて振るう。それで次々と弾丸を弾き飛ばした。
「アリアみたいな真似をしますね、正直不快です」
『あなたがいきなり撃つからでしょう……私は別にあなたといきなり戦いたいわけではないのですよ? もっと平和にいきましょうよ、アリアとは違うんですよ』
「ええ、アリアとは違いますね。ではいきますよ」
『会話をしましょうよ!?』
「無駄ですから」
弾丸を放ち、剣がそれを逸らす。それを繰り返していれば距離を詰められる。槍判断してマグナは銃を一丁、アイテム欄に納めた。そしてそのまま腰から剣を引き抜いた。
『剣を!?』
「見せてあげましょうか、私の剣を! あなたと分かれた後の私の成長の証を!」
地面を蹴り、剣を振るう。そのままのモーションで回転しつつ、引き金を引く。広範囲へばらまいた弾丸は二本の剣で受け止められたが
「銃と剣だけが武器とは思わないことです!」
蹴り、殴り、斬り、打ち、撃つ。そのまま連続攻撃を叩き込んでいると
『この程度で負けるとでも!』
「思っていませんが……何故、その剣をあなたが?」
『何故だと思いますか? そう、この剣は「アリアの持ち物のデータをコピーしたんですね」
『何で言ってしまうんですか……こう言うのは自分から開かすのが美学ですよ!』
二本の剣を、《乖離地連》と《乖離天連》の二本を構えながらマグナはため息を吐いた。しかしその二本は揃ってこそ意味があるが、長剣使いのアリアは暇つぶし程度にしか使っていなかったのだ。もっとも今のアリアには、そうとは思わないが。
『七層連撃!』
「アリアが何故、高速の連続技を好んでいたのか知らないのですね。愚かなこと、この上ありませんね! 見せてあげましょう、アリアの目指した剣を!」
銃を構え、剣を構える。そのまま七連続斬りを避けながら弾丸を放つ。
『アリアがどのような剣を目指したというのですか!? そんなもの、あなたに分かるとでも!?』
「分かりますとも。ですが、教えてあげません」
『何故ですか!?』
「自分で見つけないのなら意味がありません!」
銃をアイテム欄に納め、剣を振るう。七連続斬りの最後の一撃を正面から弾いて
『その剣は一体!? 私が知っているデータにそんな剣は無い!』
「ええ。この剣は銃ですから」
『っ!?』
《銃》カテゴリーに籍を置いている、剣の形をしている銃だ。それをマグナに向けて振るう。
『銃ならばそんな使い方をしては危険ではありませんか!?』
「アリアならばこう言うはずです」
『え?』
「まぁ、良いんじゃない? と」
両手で振りかぶり、振り下ろす。そのまま足下からの切り上げ。それはマグナの体を斬り裂き、着実にダメージを与えていった。
通称《魔銃》と呼ばれているその銃はアリアが作り上げたギミック内蔵の銃。しかしその力を使う際は気をつけろ、とアリアに言われていた。
耐久が減り、壊れやすくなる。連射性がなくなる。威力は上がっても範囲は狭い。色々とデメリットを付けてくれたようだ。
「くくく」
『……負けません!』
「ふはははは!」
剣を振るい、二本の剣と噛み合う。それを数度繰り返してマグナの片腕を切り飛ばす。動揺は一瞬、即座に突きを放ってきたが
「遅いです」
斬ンッ、と音を立てて真っ二つになったマグナを眺め、マグナは呆れる。
「得意分野だけで攻めるわけないでしょうが。双剣なんて対処してるってバレバレなんですよマジで」
*****
「ちっくしょー!?」
アスモは走っていた。背後から迫ってくる大蛇から逃げるために走っていた。
「俺は魔法使いじゃないし額に傷もねぇよ!」
秘密の部屋、というタイトルを思い出しつつ走る。背後からずりずり、と迫る音に怖気立ちつつ、走り続ける。どこまで行けば良いのだろうか、という不安もあったが
「どう足掻いても勝ち目ねぇよあんなの!? しかも目見たら石にされるだろ!?」
《バシリスク》って名前からもそうだ、と思いながら必死に走る。だが
『この先の大広間に向かえば私に勝てるとでも?』
「広間があるのかよ!? なら勝ち目があるかも……ないかもなぁ」
『くくく』
冷静に諦めながらギアを二段、上げる。調べ物が得意なアスモデウスというプレイヤーから、戦闘も出来るアスモデウスまで意識を切り替えて
「無理ゲーだろこれ……はっ!」
弱音を吐いて、一気に剣を引き抜く。そのまま広間に入ると同時に反転し、
「《エンチャント-ストレングス》! 《エンチャント-アジリティ》! 《エンチャント-サンダー》!」
自身の筋力と速度を高め、武器を強化する。そのまま《バシリスク》に迫る。
『石となれ! なんだと!?』
「生憎と、見えなくても分かるんだよね」
やはり石化能力があったんだな、と思いながら《バシリスク》の首を切り裂いて、アスモは地面に腰を下ろした。
「俺、戦うの専門じゃねぇんだよな……」
戦っていないのがブブ、アリア、シェリル、エミ
あと少し、頑張るぞい
ちょっと霊獣デッキ作るからカードプール漁ってくる




