扉
盾ががいん、と耳障りな音を立ててそれの腕を受け止めた。そのまま二歩で懐に飛び込もうとしたが
「相も変わらず単純な動きだ」
近づく者には足踏みでの衝撃で距離を取らせる。そして距離を置いた者には炎を吐いて攻撃する。
中距離の相手には拳、尾を使って攻撃を仕掛ける。どれだけ頑張っても対処出来るモンスター、をモチーフに創り出したのだが
「それを全て理解している俺が相手なのは可哀想にも思えるな」
だが、創造主に敵対したのならば
「やらせてもらおうか」
盾で炎を受け止め、距離を詰める。薙ぎ払われる尾を避けて、地面を蹴る。そのまま跳び上がって
「ふん」
額に斧を叩きつける。そして程なくして、それは光となって消えたのだが
「俺の作ったのはこんなに尾は長くないのだが」
改善されているようだ、と考えて――愉快な気持ちになった。
*****
「――ぶった切らせてもらうぜテメェ」
『くくく、中々に威勢が良い女子よ。儂の好みじゃ』
「五月蠅いエロ爺」
地面を蹴って剣を振りかぶる。しかし、爺は細い刀を振るってそれを軽々と受け流して
『ふれ、その程度か?』
「まさか」
両手で握るべき剣を片手で握っているんだ。力が籠もっていないだけだ。だから
「おい、エロ爺」
『なんじゃ、小娘』
「ぶった切るから受けてみやがれ!」
ぶん投げた剣が爺に弾かれた。それを無視して両手で柄を握って
「行くぜ、《Φスラッシュ》!」
『《居合い・神薙》!』
相手を円とし、袈裟懸けに斬りつける。たったそれだけの技だ。だからこそかっこいい名前が良い。しかし、高速の居合い斬りと激突し、受け止められた。だが、
「《θスラッシュ》!」
続く横薙ぎ、力任せのそれは刀を併せ、防がれたが――勢いまでは殺せない。壁に叩きつけられた爺を眺め、野球のバットのように構えて
「老人虐待みたいで嫌な気分だぜ」
『力任せに技が負けるとはな……』
「悪ぃ、エロ爺。お前以上に技が凄ぇ奴を知っているし、アタシ以上に力任せの奴を知っているんだ。アンタなんざその程度だよ」
ホームラン、そう言いたくなるような手応えと共に洞窟の天井から土や岩が降って来た。
*****
「迷ったみたいだなぁ」
マリアは迷宮のような洞窟に飽きが来ながら、諦めが到来していた。その手には一本のナイフが握られていた。
「この辺り、さっきも通った気がするなぁ……うーん」
マッピングした方が良いのかもしれない、と思いながら壁に蹴りを叩き込む。ひょっとすると薄い壁で、隠し通路があるんじゃないかという僅かな期待を乗せて。しかし、
「ひぃっ!?」
天井から何かが降ってきた。それは長い尾を持ち、巨大な爪を持っている。そして尾をマリアの頭の上から突き刺すように振り下ろした。
それを咄嗟にナイフで防ぎ、距離を取る。そのまま腰からエストックを引き抜いて巨大なそれを見上げる。
「サソリ、かぁ……《アロマデビルスコーピオン》ねぇ……どんなアロマ?」
あろまほっと、とか頭に浮んだけどそれをなんとか無視して眺める。赤とか蒼とかピンクとかなんだか色々とカラフルなサソリなんて見たくない、って思っていると
『侵入者か』
「喋った!?」
『ふむ、小さい。げに小さいの』
「アンタがデカ過ぎるんだって。って言うかもう攻撃しても良い感じ? それともまだまだ会話しちゃうぜ的な感じ?」
『しちゃうぜ的な感じだ。それに我が攻撃を開始すればお前が生きていられるはずもなかろう。精々我を楽しませるような会話をしてみろ』
ムカついたので揮発性のガスを含んでいる小瓶を投げて、そこに火を点けた爆弾を投げる。直後、爆弾が爆発してガスに誘爆。凄い轟音に背を向け、逃げる。
崩落する壁と天井から走って逃げていると、背後からドシンドシンと聞こえる。崩落の音ではない。一定のリズムで迫ってきている。
『逃がすか!』
「うわ、倒せてないの!?」
『くはははは!』
「なーんてね」
『は?』
《なまら凄ぇ鳥もち》に足を絡め取られ、サソリは戸惑いの声を上げる。それを無視して腰のハーネスから小瓶を選んで
『舐めるな! この程度の罠で我が負けるとでも思うか!』
「いやいや、思いませんって。貴殿に起きましてはご機嫌麗しくっと」
ぽいぽい、と小瓶を投げる。《火炎瓶》と《揮発ガス》だ。
「虫は燃やそう。慈悲はない」
*****
「あぁもう、邪魔すぎ!」
短剣一本じゃたくさんの相手には戦えない。壁を走りながら必死に逃げる。真下を走っている巨大な鼠たちを見下ろしてため息を吐きつつ、走っていると
「お? 扉だ……でも、開けても良いのかな? それに降りないと開けられなさそうだし……うーん、鼠を倒して一気に駆け込むとか?」
それぐらいしか思いつかない。だから壁を蹴って一気に加速する。そのまま扉に向かって必死に駆け、反転する。そして
「《泣き叫べ》!」
短剣を地面に突き刺して叫ぶ。それと同時に短剣から黒板を引っ掻くような不快な音が放たれる。それは持ち主であるアジアンだからこそその程度であって、持ち主ではない鼠たちは泡を吹いてひっくり返る。そして悶え、死んだ。
「うん、まぁ良いか」
アリアが強化してから初めて使ったスキルだけど、その結果には何も突っ込まない。色々と言いたいことはあるけどかなり酷い、っていうか惨状を作り上げられるのは兵器レベルじゃない?
「って……あれ? 嘘、おかしいなぁ?」
ドアノブがついていない、だから扉を開けることが出来ない……? いやいや、おかしいでしょ、とアジアンは呟いた。そして背後を振り返るといまだ泣き叫んでいる短剣が目に入った。さらに死に絶えていく鼠と共に。見なかったことにしよう。
「ドアノブをどこかから探してくるとか? それとも他に何かここを脱出する手段を探すとか? って言うかボスか何かがいて、それを倒したら開く的な?」
それなんてゼルダ、と思いながら地面に突き刺さっている短剣を眺める。アレを引き抜けば泣き叫びは止み、鼠たちは好機とばかりに突っ込んでくるだろう。そう考えると引き抜くたくない。って事で、
「この扉について調べてみても良い? ダメ? あぁ、そう。あ、いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ありません」
『独り言?』
「っ!?」
独り言を聞かれるほど恥ずかしい物は無い。アジアンの尾が驚きと共にぴーん、と伸びた。そう、アジアンは獣人だったのだ。作者がその設定あったな、とふと今思い出した。
「だだだ誰ですかぁ!?」
『私はあなたの目に前にいるわ。そう、この扉よ』
「扉が喋った!? 嘘ん!?」
動揺しながら地面を蹴って背後に跳ぶ。そのまま泣き叫んでいる短剣を引き抜いて
「何者ですか」
『《ハーメルン》って言ったら通じるかしら?』
「《ハーメルン》って……笛吹き男? 扉じゃん!」
『《ハーメルンの笛吹き女》よ、お嬢ちゃん。それにしても不思議な子ねぇ……女の子なのに、男の子みたいな格好をしている』
「似合うでしょ。これでも宮崎(の町内会の一つ)じゃ有名人だからね」
『あら素敵。なら楽しませてくれそうねぇ』
今さらながらリアル関係ないし、と思った。しかしそれは何の意味も持たない。とりあえず短剣を逆手に構え、扉を眺める。眺めて、眺めて、眺めて――
「どこを攻撃したら良いんだよ!?」
『全てよ』
「五月蠅い!」
どこだよ!? 完全に細工のある板じゃねえか! どこを斬ったら良いんだよ!? そんな風に内心で叫びながら短剣を構え、扉に突撃していると
『開け、ジャバウォックの詩』
「っ!?」
鏡の国!? と、動揺した瞬間姿を現したそれにぶん殴られた。
ジャバウォックの詩って知っている人いる?
戦ったの、シン、魔王、マモン、エミリア、レヴィ、ベル、ジャック、ルシファー、サタン、キャンデラ、アビス、セプト、シエル、マリア、アジアンの15人
まだ戦っていないのはシェリル、エミ、アリア、ブブ、アスモ、オバマ、マグナ
ここまで書いたら分かりましたよね?
ええ、人数数え間違えましたヤバい
どうしよう? 魔王の意味深な呟きとか意味を成さなくなるよ
でも書き換えない




