麗騎士
「えーっと、あなたを倒したら良いんですかね?」
『そうなりますね、お嬢さん』
「あ、どうもです。えっとそれであなたは何ですか? 剣士?」
『ええ、そうですよ。私は剣士、女の身でありながら剣士ですよ……だからと言って手加減は無用です。女だからって侮らないでください!』
「いや、私も女なんだけど……あ、お願いしても良いです?」
『何でしょう?』
「もしも、もしもですけど私が勝ちそうになったらくっ殺してもらっても良いですか?」
キャンデラの言葉に《女騎士》は微笑んで
『構いませんよ』
「では、そろそろ」
『ええ、存分に戦いましょう!』
剣を片手で構えるキャンデラ、それに対して《女騎士》も同じように構えた。そして
「罷り通ります!」
『参ります!』
地面を蹴って前に出る。その勢いを乗せて放った突きは《女騎士》に軽々と逸らされた。そのまま《女騎士》はくるり、と回転して
『はぁぁっ!』
裂帛の気合いと共に振るわれた剣、それを何とか剣で受け止めて距離を取る。そのまま剣を振りかぶり、振り下ろした。しかし
「中々やりますね!」
『こっちの台詞です! まさかこれほどまでやるとは思いませんでした』
「まぁ、アレです。舐めないでください」
『そのつもりはありませんでしたが……ええ、そうさせてもらいます。そちらも手加減は無しですよ』
「分かっています」
あなたよりも強い女の剣士を知っている。だから私はあなたに手加減をしない。あなたには負けられない。もっと強いあの人に並び立つために。
「あなた程度で立ち止まっている暇が無いんです!」
『よくぞ言いました! さぁ、名乗りなさい! 高らかに、堂々と名乗りを上げなさい! 我が名は《女騎士》カテーリン!』
「私は一応《魔王の傘下》が一人にして《最強》アリアさんの弟子! 二つ名はまだない剣士! キャンデラ!」
『見事私を撃ち倒したならば私が二つ名を授けましょう!』
キャンデラは頷いて地面を蹴る。そのまま剣を振るい、カテーリンの首を狙う。しかしカテーリンは剣閃を差し込み、剣を受け止める。そのまま一瞬拮抗し、お互いに距離を取る。
アリアさんならきっと、速く動いて倒してしまうだろう。でも完全な真似なんてつまらない。守破離、だ。
「罷り通らせてもらいます!」
『来なさい!』
突きからの切り上げ、避けられるのを見越した連続斬りをしようとしたけど
「っ!?」
『その程度では罷り通れませんよ』
「っ、まだまだぁ!」
『その意気です!』
斬りつける。受け止められる。斬りかかられる。受け流す。切り上げる。手首を反転させて切り下ろし、横薙ぎ。
それら全てが受け止められ、受け流され、対処されていた。しかしいつしか、違和感が出てきた。なんだろう、動きが見えてきた。
えっちらおっちら着いて行っていた動きが、いつの間にか目で追えるようになってきていた。そして、
『キャンデラ、と言いましたね』
「え、あ、はい」
『あなたのような好敵手と出会えて心より感謝します』
「あ、どうもです」
『でも、負けませんよ。私はあなたたちを倒すのですから』
振り下ろされた剣を避けて、カウンターで剣を振るう。しかしそれは軽々と剣で受け止められる。それを眺めつつ、さらに剣を振るう。受け止め、受け流し、反撃し、受け止められる。それを繰り返しているうちに、分かってきた。
アリアさんのように明確な型を持っている。それはつまり、その型に順応すれば戦えると言うことだ。そして私はそれに慣れ、なんとか戦えるようになってきたのだ。
そして悟った。これが私の剣だ、と。
『動きが変わった!? いえ……まさか!? 進化したとでも言うのですか!?』
キャンデラの剣の振るい方が変化した。防御が一体化した斬撃は一撃ずつ鋭くなっていく。一撃一撃で威力が上がり、カテーリンは受け止めることが難しくなってきていた。
「――改めて、名乗ります。《魔王の傘下》が一人にしてアリアさんの弟子、キャンデラ」
『《女騎士》カテーリン。いざ尋常に!』
「はい!」
一閃。
「――」
『――見事なお手前で』
「どもです」
『約束通り、二つ名を授けましょう。キャンデラ、あなたはこれから《麗剣士》と名乗りなさい』
「……《麗剣士》」
キャンデラは噛みしめるように口にして
「あんまり格好良くないですね」
『ふふふ……』
カテーリンが光に溶けるのを見送っても、キャンデラはしばらく彼女の倒れていた位置を眺めていた。
「あ、くっ殺してない」
*****
「っちぃ!」
面倒臭ぇ、どうして俺様がこんなことをしなきゃならねぇんだ。なんであいつらは俺を巻き込むんだ。
「クソがァッ!」
『そのような乱暴な言葉、性根が知れるというものだ』
「黙れクソが!」
振るった大槌が槍に逸らされる。そのまま石突きが叩き込まれたが――咄嗟に大槌を振るい、壁をぶん殴る。無理矢理勢いを殺して
「痛ぇぞコラ! ぶっ殺すぞ!」
『やれるものならやってみろ。先に命を落とすのは貴様だ』
「ルセェ! 俺がテメェを殺す! ぶっ殺す! 《シリアルキラーズ》総統! アビス!」
『ふむ……? アビスとか言ったな、貴様。何故、所属を偽る?』
「あ? 偽っているってかよ?」
その鎧を身に纏った男は頷いて、槍を肩に担いだ。そして
『貴様、《魔王の傘下》ではないのか?』
「あ……だが、く、クソが!」
『叫べば何かが変わるとでも? 幼いな、貴様』
「うるせぇ!」
叩きつける。しかし、それは外見に見合わない速度で避けられて
『遅いぞ、貴様』
「っっっ!?」
石突きが鳩尾に叩き込まれた。そしてそのまま、壁に縫い付けられる。さらに続けて先端が迫る!
「しゃらくせぇ!」
大槌の柄で先端を殴りつける。そのまま手首を回して殴りつける。
「おらぁ!」
『む』
槍が巧みに操られ、大槌が受け止められた。そして
『貴殿は何故、そのような?』
「あ?」
『貴殿のような者が何故、そのように荒れているのだ? 貴殿ならば戦国の世でも戦い、武勲を上げられるだろうに』
「はン……なら言ってやろうじゃねぇか」
息を吸って
「何馴れ合ってんだテメェら! どいつもこいつも愉快なこと口走りやがって! どうせ大人になったら全員が敵だろうがよォ!」
『――若いな』
「あ?」
『褒めている。そのような若さ、平和な世の中でしか育めまい』
槍を構えて、
『拙者は《本多忠勝》、そしてこちらは名槍蜻蛉斬』
「はん、名乗れって言うのかよ」
『貴殿が望むのならば』
「望まねぇよ。でも、名乗ってやる」
驚いている様子の鎧武者に舌打ちをして
「俺ァアビス、《魔王の傘下》に所属しているだけだ」
『ふむ』
そうだ、俺ァ変わっちゃいねぇ。どこにいたって俺ァ俺だ。
『所属しているだけ、か。面白い』
「は」
呼気と共に大槌を振り降ろす。それが槍に逸らされそうになるが
「舐めてんじゃねぇぇえ!」
『む!?』
「そんな程度で俺を止められるなんて思ってんじゃねぇよ! テメェみてぇな侍野郎が俺ァ大っ嫌いだ!」
『何故だ!?』
「知るかよ!」
理不尽だ、とも思う。だが、嫌いな者は嫌いなんだ。だから
「死にやがれ!」
『な、蜻蛉斬が!?』
「折れたモンは折れたんだ。負けた奴は負けた、そこに固執してんじゃねぇよ」
自分に言い聞かせるような言葉を吐いてアビスは大槌を振り下ろした。そして光となって消える《本多忠勝》を見送って
「やべぇ、めっちゃ恥ずかしいこと口走ったかもしれねぇ」
現役中学生は周囲に誰もいないことを良いことに顔を真っ赤にしつつ、地面を転げ回っていた。
*****
「さてと、予想通りのモンスターだな」
セプトは分かりきっていたことに落胆しつつ、斧と盾を構えた。
語呂悪いよね、麗騎士
戦ったの、シン、魔王、マモン、エミリア、レヴィ、ベル、ジャック、ルシファー、サタン、キャンデラ、アビスの11人
完全に適当な順番です




